フォトグラファーのイネス&ヴィヌード、アートディレクターのMM Parisなどファッションヴィジュアルの一流クリエーターたちとコラボレーションしてきた香水がある。ベン・ゴーラムが2006年に立ち上げたBYREDO(バイレード)だ。
現在は香水から幅を広げ、ファッションアイテムも発表している。この秋冬シーズン、ファッションフォトグラファーのクレイグ・マクディーンとタッグを組み、カプセルコレクションを制作。香りとヴィジュアルは親和するのか?来日したゴーラムに聞いた。
今回発表したカプセルコレクションは、マクディーンの写真集『Manual』(リッツォーリ刊)からインスパイアされたコレクション。『Manual』はマクディーンのファッション写真とアメリカのヴィンテージカーの写真がマッシュアップされた写真集だ。クラシックな車のボディカラーや、煙る排気、そしてカーオイルが、見ているだけで匂い立つようなクールでヴィヴィッドな作品集だ。
カプセルコレクションでつくられたのはTシャツやバンダナ、自動車整備工が着用するメカニックジャケットなどで、このヴィヴィッドな写真がプリントされている。ゴーラムは、2017年にもマクディーンの車の写真からインスパイアされたバッグコレクションを発表しているほど、彼と共感する部分が多いようだ。
「MM Parisからクレイグを紹介してもらって、お互い車好きということで意気投合した。特に1960~70年代のアメリカのヴィンテージカーが好きでね。クレイグが撮りためた車の写真を見て、使いたい!と申し出たら快諾してくれて、バッグを発表したんだ。このときは車の塗装をレザーに応用してつくったよ。クレイグにはBYREDOのキャンペーン写真も依頼しているんだけど、彼の繊細なセンスに惹かれる。モノクロ作品もあるけど、写真家として幅があるよね。ヨウジヤマモトの90年代のキャンペーンなんかたまらないよ」
奇しくも山本耀司も車好きだが、ゴーラムも現在居を構えるスウェーデンに数台保持しているという。今回のインタビューでも、日本でトヨタのランドクルーザー、メルセデスベンツのジープをスナップした写真を見せてくれた。「アメリカ、カナダで車は社会の大事な要素だからね」。
BYREDOの香水たち
BYREDOは香りから創業したが、そのヴィジュアル・コミュニケーションは毎回注目の的だ。MM Parisがアートディレクションを務めるそのキャンペーンはファッショナブルでアーティスティック。香水のキャンペーンというとボトルをムーディーに撮ったものが多いが、BYREDOはコンテンポラリー。時にはプロダクトが載っていないものもある。
「ブランドを始めた当初、プロダクトの中身にフォーカスしてヴィジュアルはそんなに注力していなかった。けれど、時を経てヴィジュアルが新たな深みを与えてくれると気付いた。これは新しい着眼点だった」
ヴィジュアルには、さらに香りを喚起させてくれる力があるのだ。しかし意外なことに、今回香水は作られなかった。
「正直なところ、つくらなかった理由は特にない。基本的に固定概念にとらわれないものづくりをしているからね。ヴィジュアルが強い写真集なので、ヴィジュアルが際立つモノをつくったんだ。後、香りはとても具体的になってしまう。例えば今回だったら車のマフラーから出るスモークや焼けたゴムなどをイメージするだろう。それでは面白くない」
近年ではスニーカーやサングラス、レザーグッズと香り以外のアイテムも積極的に展開しており、もはや「香水ブランド」という単純な形容はふさわしくないかもしれない。
「好奇心とブランドの成長を大切に考えている。香りというのはパワフルだけど、物質感を伴うモノでしか表現できないこともある。だから、あえて自分に制限を設けないことにしているんだ。今回のクレイグとのコラボレーションでは、スタイルにこだわるのではなく、プロダクトで何ができるか、どうしたら人に感動を与えられるか、を突き詰めたつもり。これは香水でも同じ。スタイルを作るのではなく、モノとしてのプロダクトを追求している」
カプセルコレクションは海外では発売され、ロンドンやパリ、モントリオール、ニューヨークなどで写真集のブックサイニングイベントを実施。アイテムは都度完売しているという。日本では、BYREDOのオフィシャルECから購入可能だ。香りじゃないBYREDOを纏ってみてはいかがだろうか。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。