杉野信也は、19歳でカナダに移住し、TELUSやTim Hortonsなど、カナダのトップクラスの企業の映像・写真広告を手がける商業写真家として、1986年から広告業界の第一線で活躍の場を広げてきました。日々、競争にしのぎを削る広告業界の喧騒に身を置きながらも、一方で自身の目指す写真を表現者として撮り続け、写真作家としての原点を支える数多くの優れた作品を制作しています。
本展では、杉野が強く心惹かれる古典技法を用いて制作された、湿板写真とプラチナプリント写真約30点を展示いたします。
「1974年夏、無名の写真家に15ドルで撮ってもらった一枚の肖像写真。カナダ国立フィルム局から東部カナダに派遣された私は、ある開拓者村風の観光地の1800年代の写真館に迷い込み、好奇心から記念として肖像写真を撮影してもらいました。湿板写真(tintype)という古典技法で撮られたその写真はそのまま家のどこかで眠り続け、20数年前、ふと私の前に姿を現しました。20数年前に静止したその瞬間の写真を再び見るのは、衝撃的でした。通常の古い記念写真やスナップ写真では感じない圧倒的な静止した時間の凝縮をそこに感じました。写真とは移り変わる人や場所、現象具象の一瞬を切り取ったものであり、写し取られた瞬間から、その記憶の証拠となっていきます。アメリカの評論家スーザン・ソンタグが名著『写真論』で “全ての写真はメメント・モリ(必滅の記憶)である” と喝破しているようにその瞬間は戻ることはなく、写真だけが、いわば墓標のように手元に残って行くのです。この肖像写真はその時の私の、前のめりの野心と渇望、希望と挫折に満ちた若さの墓標なのです。この日から私は湿板写真を始めました。」―杉野信也
一日に何億枚ものデジタル写真が撮影され、ソーシャルネットワークで瞬時に世界を飛び交う現代において、湿板写真という幾重もの作業工程が必要な古典技法のみが表現しうる、圧倒的質感や一期一会の潔さ。一点ごとに異なりながら表出する現像や定着のムラ、暗室の赤色灯の下で徐々にイメージが浮かび上がる瞬間の感動と興奮は、写真家としての原点であると杉野は語ります。
造語であるタイトルの「re-vision」には、いま再び“記憶を検証する”“写真を見つめ直す”という意味が込められています。これは、作家による写真の特性についての再考と、新たな時代における写真の在り方への問いかけです。古典技法を用いた作品を通じ、杉野の眼差しと手作業を追体験することで、私たちは新たな「見ること」へと誘われるでしょう。
タイトル | 「re-vision, photographs by Shin Sugino」 |
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会期 | 2017年2月1日(水)~2月28日(水) |
会場 | IMA CONCEPT STORE(東京都) |
時間 | 11:00~19:00 |
休廊日 | 日月曜・祝祭日(2月11日は開廊) |
観覧料 | 無料 |
杉野信也|Shin Sugino
大阪生まれ。19歳でカナダに移住し、オンタリオ州トロント市のライアソン大学で写真、映画を専攻。その後、同市ヨーク大学美術学部の講師を務める傍ら、写真作家としてのキャリアをスタートする。1980~1986年、カナダ、米国、スペイン、オーストリアの各国にて長編劇場映画のスチール写真カメラマンとして活躍の場を広げる。1986年に広告写真スタジオ“Sugino & Associates”を創設し、写真以外、テレビCMのディレクターや撮影監督等の多分野において活動を続ける。1988年、2002年カンヌ国際広告祭で金賞、2006年同広告祭サイバー部門でも金賞を獲得。このほか、Clio Award Gold, The One Show, The Advertising and Design Club of Canada, Applied Arts Magazine, Photo District News, Communication Arts Magazine, Lürzer’s Archive Magazine 等で数々受賞。写真作家として、カナダ国立美術館、Ontario Arts Council Collection, Banff School of Fine Arts Collectionをはじめ、多くのプライベートコレクションに作品が収蔵されている。