28 April 2021

現実を超越した理想の世界を描く
ユース写真家たち

【IMA Vol.35特集】

28 April 2021

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現実を超越した理想の世界を描くユース写真家たち【IMA Vol.35特集】 | 現実を超越した理想の世界を描くユース写真家たち【IMA Vol.35特集】

IMA Vol.35「ミレニアルズからZ世代へ 写真家たちの未来」の関連記事第一弾は、現代写真を専門とするライター、編集者のジョアナ・クレスウェルによるエッセイを本誌から転載。インターネットでつながった国境のない世界とフィジカルな現実を自在に行き来しながら、アイデンティティを模索し、自分たちが見たい未来を可視化する若き写真家たちの魅力に迫る。

文=ジョアナ・クレスウェル

「甘く夢のような、パステル調の女の子の世界」と自身の作品をいい表すのは、ミレニアル世代の終わりに生まれたアメリカ人写真家のアシュリー・アーミテージ。1990年代半ばに生まれ、ニューヨークを拠点に活動するタイラー・ミッチェルは、写真集『I Can Make You Feel Good』(2020年)で黒人のユートピアを視覚的に描き、独自のビジョンを打ち出した。その本の前書きに彼は、「誰もがユートピアは実現不可能だというけれど、写真は夢を与えてくれる。夢をとてもリアルに描くことができる写真の力に魅了されている」と記している。日本の写真家、濵本奏の作品からも同様の哲学が感じられる。2000年生まれの彼女は、幻想的なビジュアルスタイルを確立し、写真集『midday ghost』を制作するにあたって「現実を超えた空想の世界を作り上げ、見る人がそれ以外のことを忘れられるような本」にしたいと出版社に話したそうだ。

©︎ アシュリー・アーミテージ

©︎ アシュリー・アーミテージ

ミレニアル世代後半からZ世代にかけての3人のアーティストに共通するのは、革新的でキラキラした理想の世界に没入したいという願望を強く抱いている点だろう。これはZ世代の多くのクリエイターの間で波紋のように広がっている傾向だといえるが、壁に飾りたい写真ではなく、その中に住みたいと思うような世界を断片的ではなく全体像として描く写真を求めている。その衝動は、一体どこから湧き出てくるのだろうか。

ある世代において主流となる考え方や思想、行動パターンがいつどのように形成されたのかを見極めるのは、いつだって難しい。Z世代の価値観を考察してみると、進歩的な政治、複雑に絡み合うフェミニズム、無限の可能性を秘めた未来への確信、セクシュアリティとアイデンティティは流動的で常に変化する領域だととらえる考え方などが挙げられる。この新たな潮流が生まれた要因として、どこで、どのように育ったかが少なからず影響している。彼らより上の世代が10代だったときはまだインターネットが目新しいものであったのに対して、Z世代はオンライン上で起こっていることもオフラインの生活の一部という感覚で育っている。さまざまなデバイスは彼らの第二の手足であり、イメージメディアは彼らの存在の本質を写し出すもの。Z世代は、フィジカルとデジタルの垣根を超越するデジタルネイティブといえるだろう。

©︎ 濵本奏

©︎ 濵本奏

オンラインを通して常につながっている世界中の若者たちは、自分たちのコミュニティを広げ、時差も地理的な距離も関係なくデジタル空間で楽しい時間を過ごす。発表のプラットフォームも進化を遂げたおかげで、Z世代の作家たちはオンラインに作品を掲載すれば、どこを拠点にしていたとしてもその才能が発掘されやすくなった。多くのZ世代の作家は、TikTokやSnapchatでよく目にするぼかしやフィルターなどの写真への加工ツールも好んで用いて、独自の美学がインターネット上で生まれ、広まっている。また、アウトプットの価値にも変化が起こっている。例えば、彼らは上の世代のようにプリントを特別だと思っていない。もちろんプリントはまだ重宝されているが、デジタルにも同様のポテンシャルがあると考えている。以前であれば、ゼロックスのプリンターでZINEを作るのが、世界に自分の作品を広げるための最も安上がりで手早な手段だったが、いまでは拡散力のあるソーシャルメディアが若い作家たちに同様の機会を与えてくれる。

私たち人間は、自分たちが生まれた時代の産物であるといういい方もできるだろう。多くの国でZ世代は前世代より先進的な教育を受けるようになり、自身の両親たちよりさまざまな多様性を認めるように育てられている。しかしその一方で、世界規模で人権問題や政治的な不和が繰り広げられるのを目にしながら、肥大化した不安定な経済の中で育ち、差し迫った環境危機の重荷を背負う世代でもある。その結果、若者たちの中で政治的関心が高まり、表現の自由を得るために戦う意思を持つようになったのだ。そしてZ世代のアーティストはイメージメイキングを変革のための力とし、自分が見たいと思う世界を描いている。

©︎ リ・ユシ

©︎ ジョ・カンウ

Z世代におけるもうひとつの重要な共通点として、個人的な視点を前面に押し出し、写真の中で自らの主観を探求する姿勢が挙げられる。例えば、性の表現のあり方を解体するリ・ユシ、クイアネスと検閲の関係性を再考するジョ・カンウ、ポストコロニアル研究を続けるファラ・アル・カシミ、写真を使ってメンタルヘルスを探求するアリエル・ボッブ=ウィリスなどは、固定概念に縛られない多次元的な方法で個人の経験を表現している。また、アリーナ・マリア・フリスクのように、情報がオンラインでどのように共有され、デジタル技術がどのようにイメージを活性化するのかを探り、インターネットが及ぼす人の意識への影響を研究している作家も多く存在する。

©︎ アリエル・ボッブ=ウィリス

©︎ アリーナ・マリア・フリスク

昨年『New York Post』は、人口の32%を占めるZ世代が、世界最大の世代になったと報じた。地球上の人口77億人のうち、約24億7000万人に相当する。ブランドや企業から重要なターゲット層として位置付けられていることを自覚するZ世代は、マーケティング戦略に対して敏感だ。より多くの人たちに権利や力を与える包括的なメッセージを発信している彼らは、ブランド側もそうあるべきだと考えている。Z世代が思い描く未来から学ぶべきことはたくさんある。その中でも最も重要な教えは、アート作品とアイデンティティの両方を、多くの可能性と発見を秘めた、常に変化し続ける領域であるととらえていることだ。それによって大きなインパクトを与えることを可能にし、写真はその二つを融合するために非常に重要な役割を果たしているといえる。


IMA 2021 Spring/Summer Vol.35より転載

ジョアナ・クレスウェル|Joanna Cresswell
ロンドンを拠点とするライター、編集者、キュレーター。写真とカルチャーを専門とし、多数の媒体に寄稿するほか、これまでに『Unseen Magazine』『Self Publish, Be Happy: A DIY Photobook Manual and Manifesto』『Photobook Review』などの編集も手がけている。

  • IMA 2021 Spring/Summer Vol.35

    IMA 2021 Spring/Summer Vol.35

    特集:ミレニアルズからZ世代へ 写真家たちの未来

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