今回紹介するのは、1964年7月、東京オリンピックの年に興和が発売した、広角28mmレンズ搭載のシンプルな目測カメラ「コーワSW(スーパーワイド)」です。興和は、コルゲンコーワ、キューピーコーワゴールド、ウナコーワ、キャベジン、バンテリン等々でお馴染みの「コーワ」。なんとカメラを作っていたのです。
撮影=高橋草元
文=新宿 北村写真機店
興和株式会社は,医薬品だけでなく、光学機器部門もあり、1978年まで一般向けのカメラも作っていました。なお、光学機器部門は現在も存在しており、産業用レンズや望遠鏡、双眼鏡は世界でもトップクラスです。民生品では、フィールドスコープ(野鳥を見たり撮影する機材)や双眼鏡を販売しています。
2014年にはマイクロフォーサーズ用の単焦点レンズ(マニュアルフォーカス)の販売を開始し、現在もラインナップされています。このコーワ SWは、広角レンズ1本を買うより安い!というキャッチフレーズで売り出したいわば廉価版カメラでした。
当時の主流だった露出計も付いていなければ、距離計も、ブライトフレームもない、あまりのシンプルさによりそれほど売れなかったらしいですが、現代では皮肉なことにそのシンプルさが大人気となりました。このクラスで28mmという広角レンズを搭載しているのも人気の秘密で、4群6枚構成の28mmf3.2の広角レンズが付いています。
登場当時の1964年は,広角といえば、35mmが一般的でした。28mmレンズは,当時としてはかなり広角のイメージで、それがこのカメラの名称SW(スーバーワイド)に表われています。
現代では広角域といえば28mmか24mmです。超広角(スーパーワイド)だと、16mmから12mmあたりをイメージします。28mmのレンズは、このカメラの登場当時はまだ特殊というイメージが強かったものと思われます。そのため,単体レンズ付きのこのカメラを購入する層は,よほどの広角好きのマニアックな方だったのではないかと想像できます。
距離計はありませんが,レンズが28mmなので,絞りを絞れば距離は多少アバウトでも被写界深度でカバーできます。
さらにピントリングは,1メートルと3メートルにクリックがあるので,それらと無限遠のいずれか3カ所に合わせることにより通常の撮影は足ります。絞りはf8が赤く塗られており、f8で3メートルに合わせておけば、スナップ撮影だとだいたいピントが合います。また、露出計は付いていませんが、ネガフィルムならラチチュードが広いので、少々アバウトでも問題なく撮影できます。
コーワSWの特徴は28mmの広角レンズですが、もうひとつの特徴は、富士山のようなファインダーです。ケプラー型実像式ファインダーといって、円錐形に穴の開いたような見た目小さなファインダーですが、驚くほど明るくきれいに見えます。
小さな機体に28mm用の広角ファインダーを乗せるための工夫だそうです。中は3群4枚構成の対物レンズと2群3枚構成の接眼レンズに正立用の3個のプリズムから構成されている豪華なファインダーです。
ボディは,使いやすさと携帯性を持たせたまま美しさを強調するため、できるだけ無駄な突起をなくせるように巻き戻しノブ、アクセサリーシュー等をファインダーカバーの内に沈めて上部のまとめを行っており、レンズ以外は特徴的なファインダー窓しかありません。
そのためこの特徴あるファインダー窓がより目立ちます。これだけでも只者ではないオーラを放っています。このトータルのシンプルさが格好いいスタイリングに思える要因の一つです。軍艦部の機種の標記もとても洒落ています。
純正のフードもロゴの付いたうれしいアイテムです。別途フードだけ探そうとしてもなかなか見つからないことが多いです。このフードを付けてファインダーをのぞくとファインダーの右下がフードで少しケラレますが,撮影には特に支障がありません。
実際に撮影すると60年近く経っているとは思えない、とてもシャープで繊細な写り。広角ですが、周辺光量の落ちもほとんどなく素晴らしいレンズです。旅のお供に最適なカメラといえるでしょう。
新宿 北村写真機店
世界一のカメラストアをコンセプトに2020年新宿にオープン。新品・中古カメラやグッズ、ギャラリーやセルフスタジオ、子供写真館が揃い、機材だけに留まらない豊かなフォトライフを提供している。
東京都新宿区新宿3-26-14
10:00~21:00
https://www.kitamuracamera.jp/ja