13 January 2023

川内倫子の日々 vol.24

音楽の力

13 January 2023

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川内倫子の日々 vol.24「音楽の力」 | 川内倫子の日々 vol.24

音楽の力

年々時間の流れが早く感じるのは自然の摂理なのだろうが、それにしても今月は早かった。一体なにをしていたんだろうとカレンダーを見ながら記憶を辿る。
たしかにあの日はあの場所に行って、そうだった、と思い出すも、なんだか実感がない。
ただ、展示が終わってしまうのを日々名残惜しんでいたなという印象だけ残っている。

展示の最終日は来客の予定があり、夕方まで在廊した。
開館時間まえからすでに列ができていて、待たせてしまって申し訳ないと思いつつ、たくさんの人が来てくださって有難い気持ちにもなる。
最終日だからか、予期しなかった知人友人との再会も多々あり、ひっきりなしに接客していたらもう夕方だった。
その日は友人であるbaobabとharuka nakamuraのライブがあったので、少し後ろ髪ひかれる思いもありつつオペラシティをあとにした。
ライブ会場に着くと、また久しぶりに会う友人たちがたくさんいた。ひとしきり挨拶してから席につき、娘と並んで聴いた。

それぞれの楽器が奏でる音がひとつの音楽となり、会場中に響きわたる。その場にいるひとりひとりの思いが音とともに溶けていくさまは、ライブでしか味わえない感覚だ。
最後の2曲は自分がMVを作成した曲だったので、とくに思い入れが深く、聴きながら一緒につくった思い出と音に包まれる。
映像編集する時間は普段の自分の作品制作とは違った喜びがあり、音楽に反応しながら映像を選んでいく。最後のクレジットを入れる作業を終え、PCのまえでじんわりと達成感に浸り、それぞれの顔を思い浮かべた。ひとりでは辿り着けない場所に彼らの音が連れていってくれたのだと思った。

最後のアンコールが終わったあと、疲れていた心身が解かれているように感じ、この数ヶ月間展示の準備に労力を費やした自分へのご褒美のように思えた。
そのように感じて帰路についた人は自分だけではなかっただろう。音楽の力とそれを奏でる演者たちの持つ、目には見えないなにかが、日々溜まっていた澱のようなものを流してくれた。
ちょうどライブ終了の時間と展示の閉館時間がほぼ同じくらいだったのだが、その時間をここで迎えられたことはなんだか完璧だったと思った。

たくさんの知人友人とひっきりなしに会ったせいか、まるで今際の際で走馬灯を見たかのような気分になった1日で、明日の朝目覚めないでそのまま死ぬんじゃないか、もしくはもう死んでいて自分だけ気づいてないとか?と、何度かそんな思いが去来した。
結局翌朝普通に目が覚めたが、思っていたよりもすっきりとした気持ちだった。それは
展示期間中毎日落ち着かない気持ちで過ごしていた日々が終わり、さみしさよりも無意識下の緊張感から解放されたことが大きかったのかもしれない。
お祭りが終わって日常が戻ってきたような、一息つけたような気持ちでその日を始めた。

川内倫子の日々 vol.24

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