個性的なセレクトが光るブックストアが月替わりでおススメの写真集3冊を紹介。今月はギャラリースペースを持ち合わせ、あらゆるジャンルへの感度が高い客層が足繁く通う「代官山 蔦屋書店」。
セレクト・文=羽鳥広海(代官山 蔦屋書店)
共同生活を切り取る一方的ではない視点
2019年から現在に至るまでの、作家本人を含む3名、後に4名となる共同生活を撮影した金川晋吾の写真集。何かについて語ろうとするとき、語り手に偏った表現がされることがしばしばある。カメラをもう一つの目に見立てて、人々を空間や時間から切り離しイメージとして掬い取る写真は、それを増長させるように感じる。本書が金川の一方的な視点で語られているように感じないのは、父親や伯母という具体的な他者を撮影してきた経験からか、自身が被写体となる写真が多く掲載されているからか。このような言い方は安易であるかもしれないが、そこには『具体的な他者なしには自分のことも具体的にならない』と語る金川の態度がきっと現れているはずだ。
タイトル | 『明るくていい部屋』 |
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著者 | 金川晋吾 |
出版社 | ふげん社 |
出版年 | 2024年 |
価格 | 4,290円(税込) |
仕様 | 152ページ / ハードカバー / 230 × 200 mm |
野湯に溶け合う過去・現在・未来
山谷祐介が、自然の中で自噴する整備のされていない温泉、「野湯」を撮影した『ONSEN』シリーズ。本書は野湯や入浴する人々の姿だけなく、旅での会話、車での道中、入浴後の晩餐と思わしき写真など、様々なシーンで織りなされていく。SNSを通して偶然集まったものたちが全裸になり、水の流れやなんらかの成分で変形変色した岩を踏み、野湯に入り、そして語らう。それは、かつてそこにあったものたちとの結節点になり、過去と山谷たちを、そして未来までをも融解していく。全裸になったときの肌寒さ、岩を踏みつけた時のヌルッとした感覚、温度調整されていない野湯の熱、目的のない語らいの楽しさ、どれも我々の身体を通して経験してきたのだ。
タイトル | 『ONSEN MMXXIV』 |
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著者 | 山谷祐介 |
出版社 | flotsam books |
出版年 | 2024年 |
価格 | 3,850円(税込) |
仕様 | 320ページ / ソフトカバー / 220 × 147 mm |
迷い、孤独に戦い続けた写真家が見た津軽
軍務から復員し、空襲で焦土と化した故郷を目の当たりにした小島は、津軽に何を思ったのだろうか。リアリズムの余波が残る1954年に、写真家としてのキャリアをスタートさせた小島一郎は、津軽の風土をただ捉えようとしたわけではなかった。優れた構図と独自の暗室技術で津軽、下北をイメージに定着させた写真は、取り憑かれたような思いと作為が入り混じり、哀愁を、迷いを、希望を抱いた彼の姿までもが滲み出る。生きてきた土地に自身を投影することに限界を感じたのか、単純に新しいイメージを求めていたのか、家業を捨て、決死の覚悟で東京に向かうのだが、都市の歩き方を知らず途方に暮れ、津軽をちらつかせる。かつて心酔した津軽が重圧となり、迷い、孤独のまま闘い続けた彼の姿に、我々の魂が反応していく。
タイトル | 『Solitude Standing』 |
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著者 | 小島一郎 |
出版社 | roshin books |
出版年 | 2024年 |
価格 | 5,995円(税込) |
仕様 | 80ページ+ブックレット12ページ / ハードカバー / 270 × 225 mm |
代官山 蔦屋書店
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