東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
クリエイターの視点から見た世界を垣間見る
新しい手法によって絵画作品を創出してきたことで評価されるエルズワース・ケリーですが、実は彼の取り巻く世界の中で偶然によって編み出されたコンポジションと出くわす中でひらめきを得てきたのだそう。1950年以降、これまで自分が見てきたものと、作品に描いてきた主題とを区別するために、借り物のライカを携えて写真を撮り始めました。スケッチやコラージュとは異なり、これらの写真には絵画や彫刻作品の制作プロセスは登場しません。純粋に、彼の視覚的な記録なのです。建造物の一部にフォーカスしたディテール、光と影が織りなす一瞬限りの構図、自然界の趣深い情景…彼の視点から世界をみるという疑似体験をもたらします。目に映る世界に対して、どれだけ熱中してきたのかがよく伝わってきます。
タイトル | エルズワース・ケリー『Photographs』 |
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出版社 | aperture/Matthew Marks Gallery |
価格 | 6,700円+tax |
発行年 | 2016年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
1977年初版の本作は、ウィリアム・エグルストンの写真集の中でもひときわ入手困難なもののひとつ。100点のオリジナルプリントを革装の2冊に収め、リネン製の箱に収納した豪勢な仕様でした。今秋Steidl社は本作を1冊に凝縮し復刻を実現、初めて多くの人に本作を見てもらうことが叶いました。
1976年10月、彼は自身の故郷・メンフィスからジョージア州にある小さな町・プレーンズへと巡礼しました。ここは同年11月に第39代アメリカ大統領に就任したジミー・カーターの自宅があった土地です。道中にあらわれる田園風景には往々にして人影が写らず、直観的で不穏な空気が漂います。選出後にメディアが報道した美化されたイメージとは完全にかけ離れた、当時の町のリアルな姿が浮き彫りになります。
タイトル | ウィリアム・エグルストン『Election Eve』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 12,800円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
スウェーデン出身の写真家、オラ・リンダルは、現在自らが拠点を置くパリの街を初めて散策したとき、写真集などを通じて想像を膨らませていた「美しくロマンチックな街」の印象と、実際に我が身で見たり感じた情景とに大きなギャップがあったことにとても驚き、それからは直接目の当たりにした物事に注意を向けるようになりました。月日が流れ、パリのダークサイドの匂いも自分の一部となったと語ります。傷つきやすさ、恐れ、バイオレンス、目に見えないもの…彼のとらえるパリのポートレイトには、こうしたものがすべて詰まっています。そこには、目をそらしがちな実情に対して目を向けたからこそ見えてくる本質がありました。初めて訪れた2001年からパリがテロに遭った2015年まで、14年におよぶ記録がまとまった1冊。
タイトル | オラ・リンダル『PARIS』 |
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出版社 | LIVRAISON BOOKS |
価格 | 13,300円+tax |
発行年 | 2017年 |
仕様 | ハードカバー(クロス装丁) |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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