30 July 2019

PHOTOGRAPHER’S FILE

連載シャーロット・コットンのフォトグラファー最前線
FILE 03. ケイト・ステイシュー
(IMA 2014 Spring Vol.7より転載)

30 July 2019

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ケイト・ステイシュー「進化するテクノロジーを取り入れた最前線のイメージが与える衝撃」 | Adhere, Adhesive, Aqua, Alter, Base, Based, Bauble, Blase, Blend, Blending, Blue, Crease, Decanter, Dimension, Elan, Filter, Faulty, Gaiety, Gauge, Glass, Grain, Mason, Masonic, Melange, Mystery, Opal, Opalescent, Own, Owned, Pwn, Pwnd, Sconse, 2012

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進化するテクノロジーを取り入れた最前線のイメージが与える衝撃

私の批評的思考に大きな影響を与えた多くのアート作品と同様に、ケイト・ステイシューの作品に対してある種の羞恥心を覚えてしまいます。写真素材を、一風変わった方法で大胆に扱うステイシューの作風に初めて触れたのは2012年のことで、どちらかといえば遅い出会いでした。私が感じた羞恥心とは、彼女を知らずに10年代以降の写真表現の傾向を掴んだ気になってしまっていたことに起因します。

写真を素材として扱ったステイシューの立体的な建造物やインスタレーションは、現代社会において、イメージの氾濫がいかに私たちの知覚に影響を与えるのかを視覚に直感的に訴える手法で、休止し考えるように促します。本人によるところの活動の“スタート地点”であったHassla Booksから出版した写真集『The Strangeness of This Idea』(10年)を通して、ストックフォトとPhotoshop的なやり方を創造的に用いることを表明しました。どの見開きも、写真素材(ストックフォトの図像学を意図的に習得し、自身で撮影したもの)と画像編集ソフトという媒体との融合が生みだす無限の可能性を増幅させていました。それは、写真的“表現”において、写真は“素材”になり得ることの証明であり、現在の写真制作における最も重要な論考の片鱗をなすものであると私は信じています。

彼女は、現在の作品に見られる知的探求の旅が始まる08年まで、いまでも制作拠点とするニューヨークで00年代の大半を過ごし、広告、ファッション、セレブリティ写真の世界的産業の舞台裏で、レタッチャーやイメージ・アーカイビストとしてイメージ技術の現場においてさまざまな立場を経験しています。00年代初頭のアナログとデジタルのハイブリッド化から現在のモーションレタッチやCGIソフトウェアの開発についてなど、商業写真や映像業界における内情や変化に精通し、それらの知識が写真に向ける豊かな感性と独自の進化を遂げる手法の糧となっています。08年のリーマンショックとデジタルイメージの大衆化は、彼女の制作プロセスにも大きな影響を与え、彼女はメディア環境における地滑り的な変化が、私たちの文化に与える影響について強く意識するようになりました。

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「新たなテクノロジーの誕生は、私たちのヴィジョンに新たな欲求を生みだします。技術は常に一歩先を進んでいるので、私の制作方法は本当に混沌としています! ダウンロードしたり、ステッカーや大量生産された立体素材を注文したり、写真を使った空間をコンピューター上で再度フラットにしたり……。『どこからが、やり過ぎなのか』と、作業中、常に自分に問いかけています」

ステイシューの作品がもたらす視覚体験は強烈なものです。どこにでもあるような素材とジェスチャーの組み合わせ方はよく考えられ、意識や文脈が再構築されています。彼女の制作プロセスは、印を残すという非常に人間らしく、使い古された行為でありながら、身近なツールを用いることで、何が美術制作における新素材となり得るのかを問いかける有意義な取り組みをしているのです。今回、彼女がそのことについて意識的であることがわかりました。

「私の制作方法は現在、かなり絵画的です。Photoshop特有の、かき集め、払い捨てるようなやり方を核とし、そこからアーティスティックなエネルギーが生まれます。額装された作品の表面や周辺にステッカーを貼り付けるのは、さらに絵画的な手法を強調するためのもので、これまでになかった作品との空間的関係性を付与します。枠組みの内と外を行き来する感覚は、ストックフォトのセレクトでも常に展開されています。フォーカスやトーンがバラバラなイメージを選ぶことで、空間的広がりのある関係性を生みだします。一連のプロセスは単に作品のカラーパレットを定義するために行っているのではなく、フレームや作品の持つ彫刻的な要素も含めて知覚空間を創造するためなのです」

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額装業者から戻ってきたばかりの彼女の新作を前に、有史以前の洞窟絵画、ベートーベンの音楽の多様性、20世紀のアヴァンギャルド活動と初期の画像共有メディアの爆発的な広がりの類似点、そして現在アーティストが直面する課題についてなど……私たちの会話は弾みました。さらに、アートは現代のメディア環境を反映させるだけではなく、それに対するカウンター的議論を生みだす可能性についても意見を交わし、彼女がエネルギーを注ぐ未来に希望を覚えました。「現代の視覚に支配された時代を定義するアートは、まだ生まれていません。しかし、視覚が抱える問題、そして写真が現代においてどのような役割を果たすかについて取り組む作家は確かに生まれ始めています」。私はステイシューが、現代写真論の最前線でどのような活動を続けていくのか、楽しみで仕方がありません。

ケイト・ステイシュー|Kate Steciw
BIRTH YEAR:1978年
PLACE:ニューヨーク
EDUCATION:シカゴ美術館付属美術大学
http://katesteciw.com/

  • IMA 2014 Spring Vol.7

    IMA 2014 Spring Vol.7

    特集:イメージの中の動物たち

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