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―15年の間に、変化はありましたか。
実は、東京をモチーフにしたDiorama Mapは、10年を経て2004年と2014年の2回制作しているんです。2004年は大阪に住みながら東京に通って、2014年は東京に住んで撮影したという訪問者か居住者かの違いがありますが、それ以上に2004年の「Tokyo」は高い建物に上がって撮影したので視点も高いし、人が写っていないんです。でも2014年の「Tokyo」はもっと視点が下に降りてきて、人や街のディテールがたくさん写り込んでる。
もともと大学からエスケープして高いところに逃げていたのは、当時は親友が亡くなったりしたせいで精神状態もよくなくて、人から離れていってた時期だったんですね。
人を遠巻きに俯瞰してたし、高いところに上がれば、上を見上げても空しかなかった。そうして空中散歩のように、高いところから高いところに飛び移って、ソリッドで無機質な都市の形をとらえようとしてたんですが、この10年間に徐々に人との距離が縮まって、人が協力してくれてネットワークが広がっていったんです。人を知ると都市がだんだん温かいものに感じられて、精神状態もよくなっていって地上に降りて人を撮るようになったんです。2014年の東京ではカヌーに乗って撮ったり、地下を撮影したり、より多面的な視点も取り込まれています。さらに10年後の2024年の東京では、オリンピックが終わった後で街も変貌してるでしょうし、僕自身の東京の見方も変わってるでしょう。
―都市を歩いて、写真におさめ、再構築する過程を通して、どんなことをつかみましたか。
都市って、もとはなにもなかったわけじゃないですか。いつも、それを想像するんです。この街はなぜこうなったのかな、と。東京、ロンドン、エルサレム、ヨハネスブルク…同じ大都市でも全然違う。どういうものを取り入れて、どういうものを排除しているのか、何を食べ、何を着て、何を思考するのか、人間と同じです。だから、新陳代謝をしている生き物のような、まるで人格を持った生命体のように都市にパーソナリティを感じる。さきほどもいいましたが、魔物みたいな巨大な生き物の胃の中にいるような感覚です。
Johannesburg © Sohei Nishino
その時代や年によっても、都市は大きく違います。ヨハネスブルクでは、撮影を始めて4日目に暴漢に襲われて、財布もカメラも身ぐるみはがされまして。それも、昼間、人通りの多い繁華街の中心地の大通りで、です。アパルトヘイトがあった頃は白人が住んでたエリアですが、白人が郊外に散り散りになっていって中心に行けば行くほど凶悪化してて、空洞化した中心地に移民が入り込んで悪さをするようになっていったそうなんです。こういう形で、その都市のなりたちを知るようになることもあります。
© Sohei Nishino
―歩いたルートをGPSで記録し、その足跡を光で表現した「Day Drawing」という作品も生まれました。
Day Drawingは、移動というものをテーマにした作品で、約3年前から毎日GPSを使って、家を出るときから家に帰るまでの僕自身の日々の移動を記録し、それを写真として可視化することを試み始めた作品です。
GPSで歩いた足跡を記録として残しておこうという思いは、わりと早い時期からありました。僕にとっては、生きてる証ですから。Diorama Mapは無数の糸で編まれたタペストリーのようなもので、Day Drawingはその中から抜き取った1本の糸のようなものです。つまり、マクロとミクロなんです。見る人は小さなものから大きなものを想像するし、逆に全体を見ているようでディテールを見ている。しかも、人間の身体活動から生まれ出てきたものだということなんです。
そこに自然現象が起きたり、自分が操作しようとしてもどうにもならない要素も加わりますが、地図とは、かならずしも地理を表現するものではなく、その場所に、生きる人の内的なものを反映するものではないかと思います。
© Satoko Imazu
タイトル | 「New Work: Sohei Nishino」 |
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会期 | 2016年11月4日(金)~2017年2月26日(日) |
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