16 January 2020

How They Are Made

vol.9 アヌーク・クルイトフ(IMA 2017 Winter Vol.22より転載)

16 January 2020

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アヌーク・クルイトフ「写真を使ったユニークな表現で、社会問題を提示する」 | Folly, 2017

Folly, 2017

オランダ出身の写真家、アヌーク・クルイトフは、写真、立体、映像とメディアにとらわれず、展覧会、印刷物、オンラインと異なるアウトプットを自在に行き来し、写真表現の可能性を更新し続けている。そこに通底するのは、写真を多様なテーマを言及するためのツールととらえた考え方であり、最近では、監視社会、環境問題など現代社会が抱える問題に鋭く切り込んだ彫刻作品の評価も高い。常に最前線を走り続ける彼女の現在地を探りに、自身初となる美術館での展覧会準備を進めるメキシコのスタジオを覗いてみた。

IMA=文
アヌーク・クルイトフ=写真

写真を使ったユニークな表現で、社会問題を提示する

アヌーク・クルイトフ

―2011年に アムステルダムを離れて、しばらくニューヨークに住んだ後、メキシコシティに移った理由とは?

ここ数年で何度かメキシコシティを訪ねる機会があり、あるとき思い立って引っ越すことにしました。私は、どこでも制作することができるので。ここに約1年間滞在しましたが、ヨーロッパでの展示が多いので、またどこかに移動することも考えています。

―開放感のあるスタジオやメキシコという国から受ける影響はありますか?

150平方メートルもある空間なので、よりオープンな思考になりました。誰にとっても、住む場所から受ける影響は少なからずあると思います。例えば、展覧会タイトル「¡Aguas!」は、メキシコのスラングで「気をつけて」という意味です。それに、優れた工芸技術を持つメキシコには腕のいい職人がたくさんいるので、ガラス繊維を使った彫刻など、制作において新たな領域にも挑戦できました。ただ、今回展示する作品は、メキシコを題材にしたものではありません。移り住む前から制作していたもので、特定の場所に焦点を当てるのではなく、よりユニバーサルなテーマを掲げています。

出来上がった新作「Folly」を撮影するクルイトフ。

メキシコシティ西部に位置するアンスレス地区にあるスタジオ。「部屋の2面に窓があり、5階なので眺めもよくて最高」とのこと。

Foam写真美術館での展示模型。

休憩時間は、テラスにあるハンモックでリラックス。「作品を外に出して眺めることもあります。頭の中に余裕がある状態で見ると、新しいアイデアが浮かぶこともある」。


―政府や企業などがInstagramに上げたイメージを使った「#Evidence」は、イメージが信憑性を失ったいま、記録写真がどれだけの意味を持つのかに迫った作品ですよね。

2015~17年に制作した作品で、今回の個展でも展示します。約650枚のInstagramのスクリーンショットを、もとの画像が認識できなくなるほど引き伸ばしたり、デジタル加工を施すことで抽象的なパステルカラーのイメージへと変換してから、ラテックスやプラスチックなどのしなやかで透明な素材にプリントしました。その後、写真を素材として扱って彫刻作品に昇華することで、元のイメージが内包していた役割や目的を取り除き、独自のヴィジュアル言語に翻訳します。組織や個人によるイメージを使った操作に疑問を投げかける作品です。

-Foam写真美術館でお披露目となる新作は、より社会的メッセージが込められているとか?

本作は、インターネットで集めた環境汚染と地球温暖化に関するイメージを素材にしています。例えば、海に流出した原油といった、ショッキングでありながら美しいイメージや、観光客が「撮影スポット」として興奮して撮影し、インターネットにアップした崩壊していく氷山の映像などを集めました。この作品では、私たちの抱える問題の深刻さと、そうした状況を写した写真をただのきれいなものとして深く考えずにサイバースペースで拡散し、一過性のものにしてしまう行為との不調和に焦点を当てています。また、展覧会では彫刻作品以外にもプリント、アニメーション、映像作品、コラージュを展示し、これまでに作った11冊のアーティストブックを紹介するコーナーもあります。

―幅広いメディアを横断する、あなたのスタイルを体現する展示構成ですね。

写真というものは常に物事の表面でしかないので、表現の限界にストレスを感じることもあります。“写真”というと、現像して壁にかけた四角いものと思われがちですが、写真をひとつのツールとして使うことによって、直線的な物語を伝えること以上のことができるメディアだと考えています。

週に4日間手伝いにくるアシスタントと彫刻作品を作っている様子。

壁に掛けられた「Petrified Sensibilities」とスタジオの真ん中にある「Mind(fool)ness」は、ともにParis Photo期間中にパリのギャラリーで展示されたばかりの作品。

チェーンソーを使って大胆にポリスチレン製の彫刻を作るクルイトフ。

ラテックスに写真をインクジェットで印刷している。美しい抽象的なイメージには、一体何が写っていたのか考えさせられる。

新作の彫刻をチェックするクルイトフの足が、作品と一体化しているように見えるユーモラスなカット。


―写真を使って作る彫刻作品の素材や形へのこだわりは?

先ほども触れたように、柔らかくて透け感のある素材を好んで使っています。写真を彫刻の肌のような質感に換えてくれるので。新作の彫刻作品では義足や歩行スティックを使っているのですが、それらは私たちが歳を取ったり、身体に障害を持ったときにサポートしてくれるものですよね? そういったものを用いることで、衰退へと向かう人類の兆候、自然との関係性における失敗、我々がどのように地球を扱ったのかを象徴しています。彫刻の形は、即興ではなく事前に完成系を決めてから、自然の石や岩などの形状を生かして人工的な幾何模様を組み合わせています。

―新作の義足に履かせている金色の靴はなにかを意味しますか?

LEDライトがついたシューズは、究極にファンキーであると当時に、消費主義におけるネガティブな要素を表します。私たちの靴に光や電気が必要ですか? このような流れは、一体いつ終わるのでしょう?

Anouk’s Tools

Anouk’s Tools
ここにカメラが登場しないのがクルイトフらしく、たくさんのDIY用品が集結した。左上に見えるのが、「#Evidence」などの彫刻作品に使用される、透明感のある薄い布状の形状をしたラテックスとよばれるゴム製の素材。青色の穴あけ機はラテックス用のもので、彫刻を作るときにほかのパーツと接合するために必要とのこと。素材によって使い分けているので、ハサミの種類も多い。セルフィースティックは撮影用ではなく、彫刻の足に使われるもの。これまでほ とんどの作品を本で表現してきたクルイトフは、ダミーブックを自ら作ることも多く、カラフルな紙、製本やコラージュに使う糊なども必需品だという。

アヌーク・クルイトフ|Anouk Kruithof

アヌーク・クルイトフ|Anouk Kruithof
1981年生まれ。2003年、Academy of Art and Design St. Joostを卒業。2008~09年にベルリンのアーティスト・イン・レジデンス「クンスラーハウス・ベタニエン」にて滞在制作を行う。2011年にイエール国際モード&写真フェスティバルのPhotography Jury Grand Prize、その翌年、ニューヨークの国際写真センター(ICP)が主催するInfinity Awardを受賞。Foam写真美術館で個展「¡Aguas!」を開催した。

  • IMA 2017 Winter Vol.22

    IMA 2017 Winter Vol.22

    特集:土地の記憶

*展示情報などは掲載当時のものです

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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