写真家が料理を振る舞い、ゲストとのトークを繰り広げる連載第4弾では、写真家の川島小鳥が、花代の食卓に招かれた。お互い写真を発表していく立場として、どのように被写体と関わり、何を誰に委ねていくか―。そこには人生と密接な写真との関係があった。
文=IMA
写真=萬砂圭貴
花代が1年ほど暮らしている、中野区にある一軒家を訪れると、庭に面した和室のリビングに招かれた。真ん中には掘りごたつがあり、その周りには友人のアーティストからもらった作品、展覧会場を訪れてくれた皆で作った土偶、幼い頃から集めている昆虫コレクション、ロンドンに留学中の娘・点子の書き初めなど、人の縁を感じるモノに囲まれている。花代による手料理もまた、素材や調味料に至るまでストーリーがあふれている。きょうは同じ沼田元氣に師事したという川島小鳥をゲストに、写真や本作りの話が弾んだ。
人とのつながりが生まれる、写真と料理
川島小鳥(以下“川島”):美味しそう!
花代:小鳥さんは前から「うちに遊びに来て来たい」っていっていたからね。
川島:実は、花代さんとちゃんと話したのは最近なんです。
花代:小鳥さんのことは、写真集『未来ちゃん』(2011年)で知っていて。私は『未来ちゃん』は未来ちゃんのお母さんが撮っていて、名前も「小鳥」だし、女性だと思っていました。一昨年のブックフェアで、沼田元氣さんと10年ぶりに再会したら、沼田さんのブースに小鳥さんがいて、「2人は兄弟弟子だよ!」っていわれて。まず小鳥さんが男子だということにびっくりした。昨年、ファッションブランド「kudos」デザイナーの工藤司くんと一緒にやった展覧会に小鳥さんが来てくれて、そこで初めてゆっくり話せました。
川島:本当は2012年にZINE『OSSU』のイベントで会っていたのですが、恥ずかしくて話しかけられなかったんです。
花代:生き別れの姉弟だわ!(笑)
川島:沼田さんのところで手伝っていたのは、いつくらいですか?
花代:高校生のときで、丁稚奉公をしていました。80年代半ばで、その頃沼田さんが、盆栽パフォーマンスをやっていたんです。そのパフォーマンスを日本でするときに、リヤカーに乗って偽札を撒くペチャパイの女の子を探していて、スカウトされたのがきっかけです。
川島:そうだったんですね。胸キュンなふたり!
花代:手伝っていたのは、イベントの装飾の手伝いや、海でガラスを拾ったり、内職したり。当時は目黒の長屋がアトリエで、学校の帰りによく内職しに行っていました。
川島:僕も袋詰めはやっていましたね。僕の場合は大学を卒業してすぐに、沼田さんをライブハウスで見かけて、すごく好きだったから話しかけたんです。当時はスタジオで働いていたから、休みの日や土日に2、3年手伝っていたかな。
花代:沼田さんが中国に行くとき、お別れ会をするチラシを作る係になって。お肉屋さんで緑やピンクの包装紙をもらってきて、それにプリントしたり。いまも基本やっていることは変わらないですね。
川島:たまたま沼田さんを手伝うことになったけれど、花代さんの好きなものとぴったり合っていたんですね。
花代:そうだね、そういうことするのはもともと好きだったし。私も印刷物というか、本という形が大好きで、一番好きかも。
川島:僕も一番好き。僕は花代さんの写真は、高校生で写真を始めた頃から見ていました。『ハナヨメ』(1996年)はもちろん、森美術館での「六本木クロッシング」(2004年)や、ギャラリー小柳での個展「花代」(2008年)にも行きました。花代さんの写真はまるで夢みたいで、ずっと見ていたいし、できればこの中に住んじゃいたいくらい。特に『MAGMA』を見たときは、どうやったらこういう作品が撮れるんだろうって感動しました。あと、いつも宇宙を感じます。宇宙の地球っていう星の美しさを、花代さんにそっと見せてもらっているような。
花代:嬉しいありがとうございます。よかったらこのままここに住んでもいいですよ! 私はシリーズごとに分けて制作するというよりかは、ただ日常を撮り続けています。
川島:ずっと一貫して撮ってるんですか?
花代:はい!だから、ギャラリー小柳にいたときはどかっとプリントを持っていって、(小柳)敦子さんが「これいいじゃない」って選んでくれた。
川島:選んだものに対して、花代さんに不満はないのですか?
花代:第三者と作ることでストーリーにより新しい世界が見えて面白くなることもあります。
川島:こっちの方がいいとかも、あまりないんですか?
花代:ときにはありますが、私は撮る行為の最中に展覧会の展示構成までは考えていないので、また違う観点で誰かが再構築するのもやり方だと思います。去年のSTAFF ONLYでの展覧会「何じょう物じゃ あんにゃもんにゃ」では、オリンピック競技場の工事現場にインスパイアされてその場所から写真が選ばれていきました。小鳥さんは撮るときに本のことも考えてる?
川島:考えているかも。でも、最近どんどん考えなくなってきている気がする。
花代:私の場合は写真集も、デザイナーの人がまず最初に構成を決めてくれて、それから一緒に紡いでいきます。『ベルリン』(2013年)の写真集を作ったときは、デザイナーの須山悠里さんが10年分以上のプリントをベルリンに見にきて、レイアウトを組んでくれました。私のセレクト以外も「全部見たい」っていってくれたから、長い間見ていなかったものが発掘されることもありました。自分が好きな写真って、そのときの気分でどんどん変わっていくよね。前に好きでよく使っていた写真でも、その後アザーカットを見てみたら、そっちの方がすごくよかったり。私の場合は、誰と一緒に作るかが大切。料理でいうと、私は野菜を作るところまでみたいな。でもちゃんとおいしい野菜を作りたい。その後、料理する人に煮込んだり焼いたりしてもらう。
川島:花代さんにとって本は共同作業の結晶なんですね。
花代:どんな作家もそうかもしれないけど、誰かと一緒に何かするときは、人生もくっついてきているようなものだから。「その人生を一緒に見たいな」とか、「お付き合いしたいな」ってくらいの人じゃないと、一緒に作ったりできないと思います。小鳥さんの『明星』(2014年)も、被写体の子供たちと小鳥さんの信頼関係はもちろん、本のデザインをした(佐々木)暁さんの愛情もあふれて伝わってきます。後ろのカード入れがお肉屋さんの袋ぽい!(笑)『道』(2018年)という写真集は、小鳥さんの大好きがぎゅうぎゅうに詰まっていて、眺めているうちに太賀くんが動いて見えました。彼を知らないけれど多分どんな人でどんな声をしているのか、分かる気がする。小鳥さんと遊ぶときにいつもいる、あの面白い大塚くんがデザインしたって聞いてちょっと驚きました!
川島:あの本は、大塚くんと一緒にデザインや写真の並びを考えて、自費出版したんです。いろんな印刷所に見積りを取るところから始めて、本のサイズや紙質も、おまけが好きなのでそれもどんな風がいいか何回も相談して。注文をくれた本屋さんに卸すために袋詰めして、納品書をつけて自分たちで発送して。
花代:だからあんなにぽかぽかするんだあの本!高校生の頃は同級生と切り貼りして、オフセットでミニコミ誌を作ったりしていたけど基本だよね。実は『灰色区域』も全部作家たちの手貼りで手作りなんです。私たちの時代に本屋さんは町から随分消えてしまい、本はスマホで読んだり、オンデマンドで誰もが作れたり、本自体のあり方が随分変わったようだけど、世界中でZINEのお祭りが盛り上がっていたり、本が好きっていう人たちのつながりは強くなっている気がします。
川島:今回の料理や花代さんの部屋もそうですよね。仲のいい友達からもらったものがいっぱいで、自然に愛が集まっている感じ。
花代:面白い作品たちが自然に集まって来てしまいます……。
川島:でも、集まると花代さんですよね。写真と同じですね。なんだかすごく勇気が出ました。
>後編に続く
花代|Hanayo
東京とベルリンを拠点に活躍するアーティスト。写真家、芸妓、ミュージシャン、モデルなど多彩な顔を持つ。自身の日常を幻想的な色彩で切り取る写真やコラージュ、またこうした要素に音楽や立体表現を加えたインスタレーションを発表する。パレ・ド・トーキョーなどでの個展、展覧会多数。写真作品集に『ハナヨメ』(1996)、『MAGMA』(2004)、『ベルリン』(2013)、『点子』(2016)、音楽アルバムに『Gift / 献上』『wooden veil』などがある。
川島小鳥|Kotori Kawashima
1980年生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣に師事。第42回講談社出版文化賞写真賞 、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真集に『BABY BABY』(2007)、『未来ちゃん』(2011)、『明星』(2014)、谷川俊太郎との共著『おやすみ神たち』(2014)、『ファーストアルバム』(2016)、『20歳の頃』(2016)、『道』(2017)、台南ガイドブック 『愛の台南』(2017)、『つきのひかり あいのきざし』(2018)がある。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。