Dearest Ren Hang,

再見
任航(レン・ハン)と詩、身体的行為の奥にある詩的さ
中橋健一(KEN NAKAHASHI Galleryオーナー)

Share

Ren Hang

2017年2月、29歳という若さで急逝し、いまなお多大な影響を与え続ける写真家レン・ハン。親交の深かった人たちの言葉を通して、写真、身体表現、詩など、レン・ハンが残してきた美と芸術を改めて再考した『IMA』Vol.26内の企画「Dearest Ren Hang,」。ここでは日本での取り扱いギャラリーであり、彼といまなお真摯に向かい続けるKEN NAKAHASHI Galleryオーナー、中橋健一による文章を再掲する。

「長い見送りの挨拶は、本当の長い別れを生んでしまう。別れるときは、ただ一言、再見」

中国へ一時帰国し、次の個展の開催地へ向かうレン・ハンは、そういって東京を発った。

2017年2月24日、突然の知らせを受けてから、早いもので1年9カ月が経った。たくさんの写真作品や詩の中にあふれる言葉に触れると、いつでもパイプでつながるような感覚になり、そうか、あなたの魂はずっとそこにあるのだとわかる。こうやって毎日のように、何度も、あなたとの再見を繰り返している。

展覧会やファンション誌での撮影のために東京へ来るたび、たくさんの友人たちがいろいろな国から集まってきては過ごした、あの懐かしい時間。公園やビルの屋上での撮影。大人数でテーブルを囲んだ食事。撮影場所を探し、歩き回った東京の街並み。心を通わせる真夜中のダンス。

おそらく、あなたが家でひとり静かに書いていただろう詩は、みんなが揃ったときに、身体を通じて発せられ、写真になっていったのではないか。壮大なパーティの時間が花開くと、あなたの詩は、僕たちの身体になり、写真になり、身体が詩になっていった。

Ren Hang


しばらくするとそれぞれの生活に戻っていくという沈黙を予感しながら、友人たちとのパーソナルな「いま、ここにいる」という感覚を直感的に、“詩の身体”に変えてしまうのが、あなたの写真ではなかっただろうか。身体を使って表出しようと辿ってきた抽象度の高い空間と時間の軌跡としての写真の奥に、現実には見えない意識の奥深く、逡巡しているあなたの魂が感じられて仕方がないのだ。東京の街を飛ぶカラス、死んだセミ、朝焼けに包まれた街角、高層ビル、嵐、湖、海、男女の肉体、そんな森羅万象があなたの詩的さの中で、循環し、呼吸し合っているようだ。その詩的な世界は、写真や詩に触れた人の心に鋭く刻まれ、見えないパイプとなってつながれ、その網目は私たちの間でどんどん広がっていっている、そんな気がする。

どんなに忙しくても、どんなに貧しくても、たった一行からでも、誰であっても、魂に秘めた声を言葉として形にすることができる詩。声を出さなくても、一人でじっと静かにしていても、一編の詩から表現をすることができる。詩は表現の濃厚なエッセンスだ。

I am scared of impermanence

swimming too low
I am afraid to drown
flying too high
I am afraid to fall dead

if I were the fish
I wish I were
the one in the fish tank
if I were the bird
I wish I were
the one in the birdcage
if I were the man
I wish I were
the one sentenced to jail
for life imprisonment

Words by Ren Hang, translation by Ho King Man and Casey Robbins, from the book “Word or two” published by BHKM.


レン・ハンは、詩、写真ともに「一冊の書籍」として表現することにこだわりをもった人でもあった。東京に来た際も、古本屋をいつも熱心に巡っていた。彼の写真集で最も多くの人に手に渡り、知られているのは、2017年にタッシェンから刊行された写真集『REN HANG』だが、キャリアの初期から自費出版にこだわっていた。2011年の『REN HANG 2009-2011』を皮切りに、これまでに写真では26冊、詩では3冊を手がけているが、2016年に入ってからは1月、2月、3月と月ごとに自費出版の写真冊子を発表していた。12月だけが出版されることはなかったのだが、その中に収められていたのはすべて白黒の写真であった。

『Word or two』と題された、白一色の柔らかいコットン紙にヘルベチカのシンプルな黒い文字で綴られた詩集。ここに引用した一編の詩は、この詩集から引用したものである。2018年9月、レン・ハンの友人でありNYに住むビルが、直接手渡しに東京にやってきた。生前のレン・ハンと一緒にデザインから翻訳まで、一緒に手がけて作り上げた、パーソナルな大切な詩集。手触りの柔らかいこの詩集を受け取って、静かなバーでこの1年数カ月の間にお互いどう過ごしてきたか、これからどうしていこうかということを話した。レン・ハンはたくさんの友だちを僕たちに残して、つなげてくれて、そしてその誰もが、それぞれの場所で、思い出とともにいまを生きていくことを負っている。そういう話をした。

詩も写真も、表現の濃厚なエッセンスであり、それをさらに宝箱のように収めたもの、また愛する仲間たちとひとつの表現として現実界に結実させたものが本だった。

レン・ハンにとって文字の表現も写真の表現もおしなべて尊いものであり、すべての表現を自分の生とつなげて、自分自身も受け取り手、表現者として、それを愛していたのではないか。写真も、詩も、写真集も、詩集も、すべて彼の表現としては垣根がないのだ。またその表現が、彼の死後も人々を結びつけているのだ。彼の家族、友人、関わってきてくださったすべての方だけではなく、彼の写真集や詩集は、それを手にした人とレン・ハンを結びつけている。大切な思い出と再び巡り合っていく。


© Ren Hang Courtesy of KEN NAKAHASHI

© Ren Hang Courtesy of KEN NAKAHASHI

任航|Ren Hang
1987年、中国・吉林省長春市生まれ。「性」がタブーとされる中国で、友人をモデルにヌードを中心に撮り続ける同国を代表する写真家。これまでに、北京、パリ、ニューヨーク、東京などで展覧会を開催し、パリフォトやフォトバーゼルなど数々の国際的アートフェアに出展。2010年にはイタリアTERNA現代芸術賞に入賞。2011年、自費出版による写真集『REN HANG 2009-2011』と『ROOM』を発表し、以降多数の写真集を刊行した。2017年逝去。

中橋健一|Ken-ichi Nakahashi
KEN NAKAHASHI Galleryオーナー。1982年、石川県出身。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。金融機関勤務を経て、2014年にmatchbaco(現・KEN NAKAHASHI Gallery)を設立。
https://kennakahashi.net/