PHOTOGRAPHER’S FILE

連載シャーロット・コットンのフォトグラファー最前線
FILE 02. ハナ・ウィタカー
(IMA 2013 Winter Vol.6より転載)

Water Water Water, 2013

Water Water Water, 2013

非連続する写真群が引き上げる写真表現の限界

ハナ・ウィタカーの写真作品に初めて接したのは、2006年に彼女がニューヨークのICP/バード・カレッジの修士コースを卒業しようとしていた頃でした。ネイランド・ブレイクが教鞭をとるそのコースは、コンセプチュアルな制作に重きを置く非常に興味深いものです。力強くきらびやかに被写体を写した彼女の写真は、鑑賞者を招き入れ、自分自身で意味や暗喩や象徴をイメージから引きだすよう促していました。先日、ブルックリン・クイーンズ高速道路とイーストリバー沿いのネイビー・ヤードの中間に位置する彼女のアトリエを訪ね、ギャラリー・クリストフ・ジラールで行われる個展のためにパリへ発送される直前の新作を観ることができました。2002年、イェール大学卒業後にパリへと渡り、2年間の滞在期間中に英語を教えながらフランス語を習得しています。イェール大学在学中、同大学の有名な写真専門の修士プログラムと当時在籍していたマーク・ワイス、ワリード・ベシュティ、シャノン・エブナーら写真家たちの存在を知り、現代写真の可能性に目を向けました。

36 Antipopes, 2013

36 Antipopes, 2013


今回の再会で、ウィタカーは写真制作における批評的枠組の構築にあたり、ICP/バード・カレッジが大きな影響を与えていると語りました。パリに住んでいた頃は彼女が「写真を常に横位置でしか考えられなかった」というように、4×5フォーマットのカメラ(現在もこのカメラを使用中)での写真制作に行き詰まりを覚えていましたが、ICP/バード・カレッジでのコンセプチュアル重視の方法論が、彼女の知的好奇心を強く刺激し、制作プロセスをかつてない高みへと導いたのです。彼女のアトリエの壁を見回せば、前回会ったときから、彼女が革新と進化の歩みを止めなかったことは明らかでした。展覧会のオープニングという締切が、彼女のアイデアを新たな写真作品として形にする作業を加速させているようでした。

255, 2012

Jean Lafitte 1, 2013

Cohen’s Fashion Optical, 2012


ウィタカーは「展示以外の方法で、作品を最終的な形に落とし込めるかわからない」とコメントしながら、卒業以降、毎年のように展覧会を開催している状況は異例だと話します。独立した写真作品を非連続的に展示し、ダイナミックなインスタレーションを作り上げることで、明白で解読しやすいと思われがちな「写真」という媒体が抱える、途方もないほどの読解不可能性を明らかにします。彼女は、マシュー・マークスギャラリーで1999年に開催されたロニ・ホーンの個展「Pi」を観たことが、ひとつの転機となったといいます。それ以来、一見ばらばらのイメージを組み合わせながらも、パワフルなひとつの展示としてまとめることを探求し始めたと言います。ウィタカーの作品はまた、全く違うジャンルの写真を鮮やかに並列する手法を開拓したアメリカ人アーティスト、ロー・アスリッジを思わせます。2000年代、彼女や同世代の作家たちにとってアスリッジはとても重要な存在でした。「フレームに入れてギャラリーの壁にかけたとき、写真がどのように記号化・体系化されるのかということにとても興味があります。私の作品が写真における記号性を声高に主張することは、とても大事なことなのです」。

Limonene 26, 2013

Red 45, 2013


近年ウィタカーは、写真制作のプロセスと、イメージが作りだす視覚効果をさらに複雑なものへと進化させています。彼女のアトリエの壁面に貼り付けられていたのは、極めて写真的なイメージに幾何学模様が施されたプリントでした。はさみで厚紙に特徴的な切り込みを入れて4×5フィルムに重ねて印画することで、ある程度の予想はできるものの完全なコントロールをすることはできないイメージを作り上げます。「写真の物質性について、これまでも批評的に考えてきましたが、最近はストレートな写真と手作業の要素を組み合わせることで、さらに深く追求しています」と彼女は説明してくれました。グラフィックとイメージが組み合わされることで、個々の作品はそれぞれ独特な個性を持ちます。

Installation View, Ginger Photography,Courtesy of Locust Projects, Miami 2013 Image Courtesy of M+B Gallery and Galerie Christophe Gaillard

Installation View, Ginger Photography,Courtesy of Locust Projects, Miami 2013
Image Courtesy of M+B Gallery and Galerie Christophe Gaillard

加えて、それらが互いの関係性を維持しながら大胆に並列される彼女の展示は、強烈な鑑賞体験を提供します。鑑賞者を能動的な体験者として、写真と手作業の仕掛けが施された疑似視覚ゲームの中へ招き入れるのです。手作業の仕掛けに打ち勝ち、その下にある写真が観る者に直接的に訴えかける作品もある一方で、別の作品では、モダンアートを意識的に参照(例えばウィタカーは、ブリジット・ライリー、ワシリー・カンディンスキーらの作品と伝統的キルトの幾何学模様とを結び付けます)することで、視覚認識において写真をひとつの素材へと強制的に変換します。ウィタカーは最近の制作を通して、写真に対するコントロールの限界を引き上げることができたと自認しています。「プロセスの流れに任せる部分もあります。意識的に多様な手法を採用していますが、プロセスには不確定な要素もありますし、新たな発見もあるのです」。

ハナ・ウィタカー|Hannah Whitaker
BIRTH YEAR:1980年
PLACE:ワシントンD.C.
EDUCATION:イエール大学、ICP/バード・カレッジ
http://hwhitaker.com