How They Are Made

vol.2 西野壮平(IMA 2015 Winter Vol.14より転載)

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西野壮平、新作「Day Drawing」に込めた思いとは | How They Are Made Vol.2

世界の都市を歩き回り、独自の地図を作り上げる「Diorama Map」で国内外から高い評価を得る西野壮平。富士山を対岸から望める駿河湾沿いの小さな街、戸田にある約500㎡のスタジオで、「Diorama Map」による都市の考察から着想を得た新作「Day Drawing」を制作中の西野に、制作に込めた思いについて話をきいてみた。

IMA=インタビュー・文
アレイシュ・プラダムン=写真

―まずは、写真を始めたきっかけを教えてください。

もともと画家になりたいと思っていて、デッサンの学校に通ったりしていたのですが、高校生のときにカメラを持って四国のお遍路巡りをして、歩きながら写真を撮ることの方がしっくりきたんです。振り返ると、歩くというフィジカルな行為を意識した制作は、この頃から一貫していますね。

大阪芸術大学在学中、授業をさぼっては屋上に上り、よく街を見下ろしていました。空からの視線というか、自分がどういうところにいるのか俯瞰できるのが気持ちよかったんです。地上の人がたくさんいる中では客観視できないので。その頃から、同じ場所から望遠で撮った写真をコラージュしたポストカードサイズの作品を作っていて、次は心斎橋、難波……というように、忍者のように空中散歩を楽しんでいました。それらを集めて地図のように構成したのが「Diorama Map」の始まりです。

アトリエの壁面に貼られたヨハネスブルグの地図。訪れた日時が記されているエリアもある。

サン・セバスチャンでの1日の移動の軌跡を見せてくれた。スクリーン上にトレーシングペーパーを置き、GPSが地図上に描く線をなぞる。

ハバナで撮影したコンタクトシート。各シートには、エリアごとのパーツを作成するときのために、撮影された場所が記されている。「クラシックカーとカリブ海が象徴的な都市だった。アメリカとの国交がスタートし、いま行かないと変わってしまう都市だと思った」。

「Day Drawing」の撮影の様子。後ろから当てられた光を撮影することで、軌道が現れる。


―被写体とする都市を選ぶ際に、基準はあるのでしょうか。

以前から行ってみたい場所でもあるのですが、多くの人が集まる大都市を選んでいます。もとは山や川など自然があった場所に、交通網が作られ、何かしらの理由により都市が発展します。なぜそこに人が集まってきたか、どのように都市が形成されてきたかということに興味があり、そこにどっぷりとつかることで、都市を見たいと思っています。

各都市に約1カ月半滞在して撮影するのですが、その際に大事にしていることは、ホテルではなくキッチンのある部屋を借りて現地の生活をすることです。外側からではなく、居住者の視点で街に入りこみたいので。事前にある程度のリサーチをして撮影に挑みますが、カメラを持って街の中に入ってしまうと、そういうことも薄れてしまうというか、考えるより先にシャッターを切っています。

―スタジオに戻った後のプロセスを教えてください。

まず持ち帰ったフィルムをすべて現像し、ネガをカットします。35ミリのフィルムが多いときで三百本あるときもありますし、撮影した写真のすべてを便用するので、この作業はとても手間がかかります。次にエリアごとにコラージュして、パーツを作るパズルみたいな作業に移ります。その後、キャンバスにスケッチを描き、パーツを貼り合わせていくというのが一連の作業になります。

撮影した写真をシークエンスで見ることができるコンタクトシートを眺めるのが昔から好きで、デジタルだったらパソコン上で短時間でできてしまう作業かもしれないですが、アナログ作業に費やす時間も、記憶をテーマにしている本作において重要だと考えています。

黒い紙の上に上記のトレーシングペーパーを置き、ピンを使って両手で軌道に穴を開けていく。

「Day Drawing」シリーズの作品。西野が日々異なる移動を行っていることが可視化されている。

アトリエの作業台の近くに飾られている地球儀。

静かな住宅地に位置するアトリエの外観。いつかは自身のスタジオスペースのほかに、海外の作家が滞在制作できるようなスペースを作りたいという。


―都心から離れた場所を制作拠点とした理由は何ですか。

都市を撮ると膨大な情報を詰め込んで戻ってくるので、それと向き合うときに東京という街はそれにさらに追い打ちをかけるように情報が入ってきてしまうのも都心を離れた理由のひとつです。また、「Diorama Map」の制作を始めると、それだけで部屋が埋まってしまっていたので、そのほかの制作も同時進行でしたいと思っていました。より創作に集中したいので、広いスペースの中でどういうものが作れるのか、それが写真なのか何なのかというのを突き詰めたいと思っています。

―新作「Day Drawing」とは、タイトルの通り、“ドローイング”という意識があるのでしょうか。

「Diorama Map」で都市と向き合う中で、都市は人々が日々、移動することで成り立っていることに着目するようになりました。人が歩くというのは、すごく普遍的でありながら、それぞれ異なり、その移動が地球上で無数に行われていると気付いたときに、それを写真で可視化できたら面白いと思ったことがきっかけで「Day Drawing」の制作を始めました。

「Diorama Map」も高いところから街を見ていますが、またさらに上、宇宙からの視点で地球を見てみたいなと思って、2年くらい前からGPSを付けて自分が歩いた痕跡を記録するようになりました。移動の軌跡をコンピュータのスクリーンに写しだしたものをトレーシングし、その軌道に手作業で地道に穴を開けます。その用紙に後ろから光を当て撮影すると、有機的な光の線が写しだされてきます。

GPSを用いた本作は、「Diorama Map」よりもさらに客観的視点を取り入れ、地球にドローイングする行為だととらえています。また、戸田のきれいな星空を見ながら、自分の歩いた軌跡がGPSを通して一度大気圏を経由していることを想像し、宇宙に絵を描いているような感覚で制作を進めています。

SOHEI’S TOOLS

SOHEI’S TOOLS
撮影の旅で持ち歩くものを尋ねると、現地で購入した地図、コンタックスの35ミリカメラ、GPSのほか、コンパスと弘法大師のお守りを取り出してくれた。コンパスは、実際に利用して移動することはないけれど、アナログで好きな道具なのだとか。「ヨハネスブルグで窃盗にあったときに手持ちのものはすべて奪われたのですが、ポケットに入れていた財布だけ盗まれなかった。その中に弘法大師を入れていたので、それ以降はお守りとして持ち歩いている。(弘法大師が巡った88カ所を巡礼することが遍路といわれているので)“歩く神様”が守ってくれたのでは」と話す。コラージュに使用するカスタムされた定規や、業務用の糊、ハサミなどを挙げたのも西野らしい。

西野壮平

西野壮平|Sohei Nishino
1982年、兵庫県生まれ。2004年大阪芸術大学写真学科卒業。在学中から、都市を歩いて撮影した膨大な数の写真をコラージュした「Diorama Map」シリーズを始め、現在もさまざまな都市で継続している。 2013年に国際写真センターのトリエンナーレ「A Different Kind of Order」、2017年には第7回Prix Pictet「SPACE」の最終ノミネート作家に選出された。2016年、サンフランシスコ近代美術館にて個展を開催。

*展示情報等は掲載当時のものです

  • IMA 2015 Winter Vol.14

    IMA 2015 Winter Vol.14

    特集:深遠なるモノクローム