How They Are Made

vol.12 オノデラユキ(IMA 2019 Spring Vol.27より転載)

21 April 2020

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オノデラユキ「型にはまらない自由な発想で、写真表現の境界線を越えていく」 | Muybridge's Twist, No. 41. pastel, crayon, photographs, collage on canvas, 303 x 209cm. 2016, © Yuki Onodera

Muybridge's Twist, No. 41. pastel, crayon, photographs, collage on canvas, 303 x 209cm. 2016, © Yuki Onodera

1992年に「君が走っているのだ。僕はダンボの耳で待つ」で第一回写真新世紀を受賞後、フランスに活動拠点を移し、世界を舞台に活躍するオノデラユキ。ビー玉をカメラの中に入れて街を行き交う人々を撮影したり、ヨーロッパのあるホテルで起きた不可解な失踪事件の記事に端を発し、地球の表と裏側を結ぶコンセプチュアルなストーリーを展開するなど、常に型破りなアイデアを用いることで知られる。そのひらめきの原点を探るべく、一昨年引っ越したばかりのアトリエを訪問した。

糟谷恭子=文
宮本武=写真

型にはまらない自由な発想で、写真表現の境界線を越えていく

オノデラユキ

―1993年よりパリで活動されていますが、こちらで生活をするメリットとは?

母国を離れて活動したい願望を持ったアーティストは、多いと思います。自国と距離を持つことで、過去の経験に対しての問いが生まれますし、新しい視点を得ることができると考えました。パリは、ヨーロッパの中でも特に多様性を受け入れていて、他者や異文化、外から来るものに対して興味を持っています。私にとっては、世界各地からの移民のさまざまな文化に直接触れることができる街なのが面白いポイントですね。また、アート業界以外の一般の人たちも、文化や芸術に対する教養があり、敬意を払ってくれます。公的機関がアトリエを提供したり、制作を支援する制度があったりするので、クリエーターにとってはありがたい環境ですね。

1900年頃に建てられた歴史ある建物には、芸術家のアトリエが集結している。2階の右側が、オノデラのアトリエ兼住居。以前はピカソの友人、彫刻家アペル・レ・フェノザのアトリエだった。

ペットボトルを撮った写真にペインティングを施した「決定的瞬間のための習作」のテストピース。

制作中の様子。細かい作業をするときに使用する、Zeiss製の双眼ヘッドルーペを掛け、特殊なイ ンクで極細水彩筆を使ってスポッティングしている。


―「Muybridge’s Twist」は、ひとりではなく、複数の人間の動きをひとつの像として定着させた巨大なコラージュ作品です。このタイトルの由来とは?

写真という「静」なメディアに「動」を生みだすアイデアが先にあり、その後にタイトルを付けました。絵画や彫刻には制作者の身体性が含まれていると思いますが、写真からは、同じものは感じられません。なぜかというと、カメラはただの機械であるからです。どうしたら自らの身体性を成果物に持ち込めるのかと考えたのが、このシリーズです。エドワード・マイブリッジの名前をタイトルに用いたのは、当時の人たちが「動」を表現する連続写真を初めて見たときの驚きを想像しながら制作していたからです。私の作品にも「動」の要素が含まれているので、マイブリッジは良いレファレンスとなりました。

―コラージュという手法にたどり着いた理由は? 

私は、ある意味写真的でないことをやって、写真というものに近づく方法を模索しています。いまは、デジタルで撮り、フォトショップで加工し、インクジェットで出力した写真が主流ですよね。そういった機械が作ったきれいにできすぎてしまっている写真とは対極にある、人間臭くて、ワイルドかつダイナミックなものを作りたかったんです。「これは写真なの? それとも絵なの?」という質問をよくされるのですが、コラージュの素材は、ファッション誌の写真の切り抜きです。切り抜いてバラバラになったパーツにライトを当て、さまざまな角度から撮影し、自ら暗室で現像プリントしています。そのプリントを切り取り、さらに組み合わせていきます。最初にあった身体の形とは異なる新しい身体のムーヴメントが現れます。

暗室でプリントの焼き具合、濃度を調整するための自作マスク類。

壁に仕上がった作品を貼り、床面では見えなかった細かい部分を最終調整。高さ3メートルに及ぶ作品なので、脚立が必需品。

展覧会毎に、自らスチレンボードで模型も制作するという。


―新作「建築的身体と事件」のコラージュの手法について、身体ではなく、建物や風景に至った経緯を教えてください。

今度は別のモチーフを使って、さらに大きな作品を作りたいと考えました。建築をテーマに作品を作ったことがなかったのも理由のひとつです。「Muybridge’s Twist」の手法を用いて、もう存在しない建築物、まだ存在するもの、歴史的価値のあるものないものなど多様な建築物のパーツを、彫刻を作るようにコラージュしていきました。しかし時や場所、コンテキストを外された建築では、ただのファンタジーに終わりかねない。建築は、人の営みを象徴するものであり、一方では普遍的なオブジェであります。そこで人の営みと関わる時間軸も作品に取り入れたいと思い、事件や歴史的な出来事など時間を刻印するイメージを加え、作品化させました。映画のシーンとシーンをつなぐ役割のイメージってありますよね? そのような役割も果たしています。まだ作り始めたばかりの作品なので、これからもっとコンセプトを深めていく段階です。

―制作において、苦労する点は?

体力との戦いかな?(笑)コラージュ作品は、大きい作品だと長辺が8メートルもあるのですが、キャンバスがまだ水で濡れている間にカットしたたくさんのプリントを糊で素早く貼り付けていかなければならないので大変です。水分を含むとキャンバスは縮むのですが、紙は伸びるので、そのあたりの計算を綿密に行うこともポイントです。どのシリーズにおいても、トライ&エラーを繰り返しながら自分で編み出した手法で作っています。失敗も多いですが、その過程こそ制作の面白さだと思います。

「建築的身体と事件」のスケッチや綿密な計算が書かれた資料。

これまでに使用したカメラの数々。シリーズごとにカメラの種類も変えている。

アトリエ内に設置されている引き伸ばし機による、ネガ画像の投影面。

―今後の予定を教えてください。

今年は大きな個展が入っていないので、めったにない、制作に打ち込めるチャンス。今回ご紹介した二つの作品のほかにも、新たなシリーズを制作する予定ですが、構想中で内容はまだ内緒です!

Yuki’s Tools

Yuki’s Tools
今回、オノデラが取り出してくれた道具は、主にコラージュ作品に使用するもの。アイデアをスケッチするときに使う色鉛筆、プリントのパーツを切り取る際に使うハサミ、キャンバスを濡らすためのスポンジ、特大サイズの糊に大きなハケ、キャンバス地にプリントを密着させるためのローラー…… 。道具だけを見ると、写真家というより、気の向くままに制作するアーティストが思い浮かぶ。シリーズによって使用する道具が変わるので、実際はもっと大量にあるそう。「いくつかの道具はあえて正しい使い方をしていなかったり、『なんでもあり!』の状況で作業している」と言う。自分の手や体を動かしながら、独自の手法を編み出していくオノデラらしさを道具からも垣間見ることができる。

オノデラユキ

オノデラユキ|Yuki Onodera
1962年、東京生まれ。1993年よりパリにアトリエを構え、世界各地で活動する。主な個展に国立国際美術館(2005)、上海美術館(2006)、東京都写真美術館(2010)、ソウル写真美術館(2010)、フランス国立ニエプス美術館(2011)など。ポンピドゥ・センターをはじめ、サンフランシスコ近代美術館、ポール・ゲティ美術館、上海美術館、東京都写真美術館など、世界各地の美術館にコレクションされている。

*展示情報などは掲載当時のものです