How They Are Made

vol.13 小池健輔(IMA 2019 Autumn Vol.29より転載)

21 May 2020

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小池健輔「究極に自由なアイデアで、ファウンドフォトに錬金術をかける」 | Out of joint, 2019, switched vintage photo, 13.5 x 8.6 cm

Out of joint, 2019, switched vintage photo, 13.5 x 8.6 cm

ヴェネチアを拠点とし、世界を舞台に活躍する小池健輔は、誰かが手放したヴィンテージ写真に、新たな価値を吹き込む錬金術師のようなアーティスト。独自の手法で一枚の写真を解体し、もとの写真に含まれていた要素のみを使って、全く異なるイメージを描き出すのだ。制作現場を訪ね、固定観念にとらわれない彼の頭の中に迫る。

IMA=文
ジュリアナ・シモン=写真

究極に自由なアイデアで、ファウンドフォトに錬金術をかける

小池健輔

―ファウンドフォトを使用するようになる前は、どういう作品を作っていましたか?

2012年までは、自分が撮った写真を使っていました。例えば、昔はひとりの被写体をさまざまな角度から撮影して、それらを組み合わせた作品を作ったり。そこから今度は、「一枚のファウンドフォトで何ができるか?」と、考えるようになりました。

―そのほかにも、コラージュを追求した「Searching for a perfect collage」という作品もありましたよね。カフェに座っている二人の男女を撮った写真と、犬と猫の写真をまん中でびりっと破いて上下にくっつけて、まるで犬と猫がカフェに座っているように見える作品とか。

そうですね。そのシリーズは人気ですごく売れたんですけど、徐々に工場生産のようになり、自分自身が楽しめなくなっていきました。失敗してももう一度プリントすればいいという条件に対して物足りなさを感じたというか、燃えなくなってしまい……。「一回失敗したら終わり」というシビアな状態に自分を追い詰めたいと思ったんです。所属しているギャラリーからも止められましたし、5年間くらい作品があまり売れない時期がありましたが、練金術のように、誰かが手放したものに新しい価値を与えることができると信じて続けていたら、徐々にコレクターが増えていきました。

3階建ての煉瓦造りの家に滞在中。一階の一部屋と三階の屋根裏を作業スペースとして使用しているとのこと

すべての人や物事は6ステップ以内でつながっているという仮説「六次の隔たり」を用いて、一見意外な組み合わせの中につながりを見いだすコラージュ作品「Searching for a perfect collage」(2008年)。

神経を尖らせながら写真をカットする様子。鉛筆だと太すぎるので、針で描いた線をなぞっている。


―自分の撮った作品を使わないことに対して、抵抗はありましたか?

自分の技術を一生懸命磨いて写真を撮ったとしても、似たような写真が既に存在するなら、なぜそっちを使わないのか? と考えだしたんです。なので、自分で撮った写真を作品に使っていたときから、徐々にインターネットで見つけた写真やストックフォトなども混じりだして、少しずつ方向転換していった感じですね。

―制作プロセスを教えてください。

世の中にひとつしか存在しない写真に自分が手を入れてしまうことに対しての抵抗はあるので、なるべく失敗しないよう心がけます。約5万枚あるファウンドフォトの中から一枚選び、それをスキャンし、出力した複製を使って10~14日間くらいカットの練習をします。そのうちの3分の2は、0.1~0.3mmレベルの微妙な調整の繰り返し、残りの3分の1は同じ方法で切り続け、「いける! 」と思ったらコンディションを整え、オリジナルのファウンドフォトを使って制作するんです。何十回も練習すると、指先だけでなく、体をどう動かすかもわかってきます。仕上がりが完璧すぎると人間味がなくなって面白くないから、あえて、ちょっとしたズレや間違いを入れるようにしています。

―ときには、オリジナルのイメージが跡形もない作品を生み出されています。どういう感覚でイメージと向き合っているのでしょうか?

写真を「点」で見ています。極論をいうと、例えば、建築写真と肖像写真のポストカードは、表面的には異なりますが、本当は一緒なのではないでしょうか? どちらもだいたい同じ量のインクの集積としてとらえています。一枚の写真を点でとらえて解体すると、固定概念を持ったり、形に固執したりせず、自由な発想で違うイメージを生み出すことができるんです。

同じイメージの出力を使って、何度も何度も試作を繰り返す。プロセスからは、微妙な差の重要性が伝わってくる。

大きい作品を制作するときに使う屋根裏のスタジオには、マネキンを回すモーターや万力、鏡など、さまざまなものが置いてある。トランプを投げて手首の運動をするので、床の上に散在している。

カットの練習で用いた印刷物や試作品が入った箱。ここにあるものは、基本的にはすべてボツだという。

スマホを使って動画作品を撮るライトボックス。


―解体の仕方を、もう少し詳しく教えてください。

例えば、女性6名のグループショットを円状に小さくくり抜いたものをいくつか組み合わせ、モナリザの肖像のような絵を描いたのですが、切り抜くパーツを小さくしすぎてしまうと何でも描けてしまって面白くないので、オリジナルの写真のこの部分だなとギリギリわかるくらいの大きさにして、「この丸はそのまま使っているな」とか、「これは回転させているな」とか、プロセスや写真を「点」で見る視点を読み解けるようにしています。そのほかには、一枚の写真と現象を組み合わせることもしています。例えば、写真をドアやハサミ、ろくろ、ハンマーなどに貼り付け、写真に動きを取り入れることで作品化することもありますね。

―肖像写真を使った作品が多いのには、理由がありますか?

人間の顔は、すぐに認識されるモチーフで、少しいじるだけでも違和感が生まれます。ポートレイトも、ランドスケープも、建築写真も、すべての写真を同等に見ているのですが、錬金術のように、できる限りシンプルなカットで、エレガントに作品化しようとすると、顔の写真が最適になるケースが多いんだと思います。

―今後の予定は?

小さいサイズの作品ばかり作っていましたが、久しぶりに2×2mの大きい作品に取り組んでいます。11月にイタリアで発表予定です。

Kensuke’s Tools

Kensuke’s Tools
道具へのこだわりは、「強いて言うなら信頼性」という小池が取り出してきたのは、そのほとんどがファウンドフォトのカットに使用するもの。完璧過ぎず、ちょっとした人間味を残した仕上がりを目指す彼は、その細かいニュアンスまでを表現するために、カットによって道具を使い分けている。例えば、カッターの場合は、素材、厚みや大きさによって刃のしなり具合が変わるし、わざと切れない刃を使って切り口を毛羽立たせることもあり、ハサミは小回りの利き具合やカット後の処理の違いを見ながら用途によって厳選するという。右下にある、複数のコンパスが入った箱と青色の自在曲線定規は、自動織機などの設計に携わっていた祖父から譲り受けたもの。定規は、0.5ミリ単位が基本で、連続した平行線を切るときに使用する定規や、45度のカットに役立つ定規など、これ以外の道具もまだまだたくさんあるとのこと。

小池健輔

小池健輔|Kensuke Koike
古屋生まれ。人間の想像力や知覚をテーマに、ヴィンテージ写真を使ったコラージュ作品を制作している。現在はイタリアを拠点に活動。近年の主な展示に「Hi Jane」(IMA gallery、東京)など。今年、イギリスの写真祭FORMATにて、個展「Happy Ending」(QUAD、ダービー)を開催した。

*展示情報などは掲載当時のものです