11 May 2020

写真家の食卓 vol.5 潮田登久子×島尾伸三×しまおまほ×梅佳代(後編)

11 May 2020

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写真家の食卓 潮田登久子×島尾伸三×しまおまほ×梅佳代(後編) | 潮田登久子×島尾伸三×しまおまほ×梅佳代

写真家が料理を振る舞い、ゲストとのトークを繰り広げる連載第5弾では、 写真家の潮田登久子が、娘・しまおまほの友人でもある梅佳代を招いた。 夫の島尾伸三、まほと共に、梅の8カ月の娘も参加し、笑いの絶えない食卓に。 家族と長い時間を過ごしてきた家で、伸三の故郷・奄美大島の食材を生かしたメニューを囲む。長く夫婦である二人の関係を中心に、写真を媒介にしたユーモアあふれる家族の姿が浮かび上がる。

文=IMA
写真=川島小鳥

前編はこちら

潮田が各国で買った雑貨で埋め尽くされているリビングの片隅に飾られた家族写真。

食卓の奥に二人の作業スペースがある。「この家に登久子さんは小学校の頃から住んでいました。昔はこの3倍くらいの広さがあったお屋敷でした」(島尾)

夫婦で写真集を作ること

島尾:写真集『まほちゃん』を作ったとき、本当は子どもより登久子さんの方が大好きで、登久子さんの本を作りたくてデザイナーの奥村靫正さんにプリントを渡したら、まほ中心になっちゃった。私はいまだに登久子さんの写真集を作りたいの。

『まほちゃん』島尾伸三(2001、オシリス) まほの幼少期に伸三が収めた家族の風景には、日常のかけがえのない瞬間が満ちている。誰もの記憶に触れる珠玉の写真集。

『まほちゃん』島尾伸三(2001、オシリス)まほの幼少期に伸三が収めた家族の風景には、日常のかけがえのない瞬間が満ちている。誰もの記憶に触れる珠玉の写真集。

梅:それ見たい!いまも撮っている?

島尾:いまも撮っています。

潮田:島尾は最近写真の修正にはまってて、顔が変わっちゃうくらい修正するの。あれはよくないわよ。

島尾:この人の友達の同窓会とかピアノの発表会とかの写真を、ひとりずつきれいにしていくの。

梅:伸三さんがレタッチにはまってるとか、やば過ぎなんだけど。

しまお:お母さんの同級生を撮った写真、わかりやすかったよ。

潮田:Photoshopで、年寄りの写真を少し若返らせるの。

島尾:80歳くらいの人が、20歳くらい若返るの!本当よ!

梅:本当に!?じゃあ本人大喜びじゃん!

潮田:夜中寝ないでそんなことをやっていてね、ふらふらになってるの。

島尾:登久子さんが起きているときは、それができないの。「ご飯だ」とか「お茶飲む?」とかいろいろ声をかけてくるから、気が散ってしょうがない。

梅:登久子さんの写真は、レタッチはしないんですね。

島尾:しないですね。

しまお:ちょっとしてたじゃん!

島尾:それは首のシワくらいよ。

潮田:この間、この人が故郷の加計呂麻島の村の人たちの写真をまとめていたら、その中のひとりが「自分の写真は出してくれるな」っていうから、「わかりました」っていって、その人の顔を別の人の顔にしちゃったの。

島尾:目はこっち、鼻はこっち、口はこっちってやっておけば絶対ばれない。

しまお:実在しない人を作っちゃうんだ。

島尾:奄美大島の『関東押角区50周年記念誌』編纂のために、そこに住む人たちの昔の写真を集めて、ひとりずつ名前を調べたこともあった。大変だったよ。編集も写真もレイアウトも版下も私が作って。

梅:伸三さんが全部ひとりでやったとか、すご過ぎるんだけど。

潮田:その前に『瀬留カトリック教会献堂100周年記念誌』も作ってたわね。

島尾:司教に出版の許可をもらって、それから歴代の神父を調べて。

梅:レタッチはしていないんですか?

島尾:しました。禿げ上がっていたから、髪の毛をちょっと。

梅:そんなことができるんだ !

島尾:どんなにレタッチしても皆自分だって気づくの、自分の頭の中のイメージで自分を見るから。

潮田:私があなたに渡すときは、「直さないでください」っていって渡さないとね。

島尾:『みすず書房旧社屋』は、ちょっとだけ直した。

『みすず書房旧社屋』潮田登久子 (2016、幻戯書房) 1996年に解体されたみすず書房旧社屋を、取り壊し直前に訪れ、出版社の日常と、旧社屋にまつわる風景を収録。

『みすず書房旧社屋』潮田登久子 (2016、幻戯書房)1996年に解体されたみすず書房旧社屋を、取り壊し直前に訪れ、出版社の日常と、旧社屋にまつわる風景を収録。

潮田:いまさらいっても遅いわよ。本の装丁はお金がないから、島尾にしてもらうの。でも島尾くさいところがにじみ出るのは嫌なの、私の写真集だから。

島尾:『みすず書房旧社屋』は、みすず書房が刊行したと間違えるように、書体も色も違うけど、みすず書房っぽくしてるの。あの人が好き勝手プリントしたのをどんと置かれて、そこから始める。編集作業をして、誰に執筆してもらうかとか、レイアウトも、写っている人たちひとりひとりに了解を取るのも、みんな私がやるの。

潮田:この人がディレクターで、私は写真を提供するだけ。背の三角マークが島尾のやった証し。


毎日の生活から主題を見つける

しまお:子どもの写真は撮ってる?

梅:全然撮らない ! だって疲れてるから。写真は余裕がないと撮らないと思う。すごく楽しいときも写真を撮っていないから、ここのクリスマスパーティのときは写真そんなに撮ってないもん。

潮田:カメラを持つと、商売っ気が出ちゃうんだよね。

梅:そうそう!一歩気持ちが引いてしまう。子育てが大変で自分の子どもは全然撮ってない。最近やっと余裕が出てきたけど。

潮田:私が冷蔵庫を撮ったのは、写真は撮りたいと思ったけど子育てで外に出て行くのが難しくなっていたのと、人間を撮ることに限界を感じたていたから。その頃、1部屋で生活していて、そこにやたらと存在感のある大きな冷蔵庫があった。時々開けたり閉めたりして撮っていれば面白いかなと思って撮り始めて、そのうちによその家の冷蔵庫も少しずつ撮ったりするようになった。

梅:撮るときは「整理整頓しないで」って、お願いするんですか?

潮田:「してもいいし、しなくてもいい」って。中身をクローズアップするわけじゃないから、冷蔵庫の全体が見えればいい。『本の景色』もそうですね。中身よりも、本のたたずまいを撮り始めてみようと思って。「本を撮りたいな」って近所の早稲田大学の先生に言ったら、「うちの図書館で撮れば?」と言ってくれて、立派な書庫に案内されて、それで撮り始めたの。だいたい毎日の生活の中から主題を見つけてきます。好きな主題が見つかると、それからが長いんです。飽きないんです。だから冷蔵庫も帽子も本も続いている。

『冷蔵庫 ICE BOX』 潮田登久子 (1996、BeeBooks) 大家さん、知人や親戚の家庭の冷蔵庫を、扉が閉まっているカットと扉を開いたカットを、正面から淡々ととらえた、潮田の代表作のひとつ。

『冷蔵庫 ICE BOX』 潮田登久子 (1996、BeeBooks) 大家さん、知人や親戚の家庭の冷蔵庫を、扉が閉まっているカットと扉を開いたカットを、正面から淡々ととらえた、潮田の代表作のひとつ。

『BIBLIOTHECA/本の景色』潮田登久子 (2017、ウシマオダ) 幾年もの時間を経た本をオブジェとしてとらえ、本そのもの美しさに圧倒される。本をテーマとしたシリーズの集大成。

梅:そう考えると、私も永遠に撮ってるかもしれない。私、『まほちゃんの家』に出てくる、伸三さんがテレビの横にいる写真がすごく好き過ぎて。私それ見たときに、死ぬほど笑ったんだけど。面白過ぎて。

『まほちゃんの家』(しまおまほ著、WAVE出版、2007年)の1枚。

『まほちゃんの家』(しまおまほ著、WAVE出版、2007年)の1枚。

しまお:お父さん自身は覚えてないんだよ。

梅:ああいう写真が写真の中でも一番好きで、すごく面白いの。家にある「なんなの?この写真」みたいな写真。特に昔って、なんで撮ったのかよくわからない写真があふれてて。いまみたいにデジカメとかじゃないから、消したりもせずに、ばっちり残ってる。すごく変なの、その写真が。

潮田:これ、どこで撮ったんだっけ?

島尾:福島かどっかの旅館だよ。

しまお:撮ったのは、お母さんかな。でも、この写真を撮るのが面白いよね。

島尾:登久子さんは、すごくリアルに意地悪く撮るの。まほの赤ちゃんの写真を見ると、私の父が赤ちゃんの私を撮った写真とすごく似てる。突き放して撮ってるの。かわいらしい瞬間として撮ってない、モノとしてしか撮ってないの。私はどんな人でもかわいらしい瞬間を見ている。

潮田:梅佳代ちゃんは仕事と自分の子ども撮るときは同じ?

梅:だいたい一緖の感覚。子どもをかわいく撮りたいけれど、そんなふうに写ってなくて自分でもびっくりすることが多い。

島尾:面白くなっちゃうんだね。

梅:本当はかわいく撮ってあげたいんですよ。でも、ちょっと面白さを優先しているかもしれない。

島尾:私は、まず気持ちを変える。もしかわいい女の子や坊やがいたら、自分の姿を忘れて、自分も相手と同じような気持ちになる。私なんか毎日登久子さんの顔ばっかり見てるから、鏡で自分の顔をふと見たときに「あれ、違う人!」と思う。自分が登久子さんのような顔をしている気持ちになっちゃってるの。

梅:すごいレベルまでいってる !

島尾:付き合ってすぐにそうなった。不思議だよね。

IMA 2019 Summer Vol.28より転載

潮田登久子|Tokuko Ushioda
1940年、東京都生まれ。写真家。代表作にさまざまな家庭の冷蔵庫を正面から撮ったシリーズ「冷蔵庫 ICE BOX」がある。2018年、『本の景色 BIBLIOTECA』(ウシマオダ)で第37回土門拳賞および第34回東川賞国内作家賞を受賞。主な著作に『冷蔵庫 ICE BOX』(BeeBooks)、『HATS』(パロル舎)などがある。

島尾伸三|Shinzo Shimao
1948年、島尾敏雄・ミホ夫妻の長男として神戸市で生まれ、奄美大島で育つ。作家、写真家。家族を被写体に日常を写した作品や、中国、香港、マカオなどの人々の生活や玩具、雑貨などを写したシリーズで、日本だけではなく、中国でも広く知られている。『まほちゃん』(オシリス)、『月の家族』(晶文社)など著書多数。

しまおまほ|Maho Shimao
1978年、東京都生まれ。漫画家、イラストレーター。両親は写真家の島尾伸三と潮田登久子。1997年『女子高生ゴリコ』(扶桑社)で漫画家としてデビュー。写真やファッションにも精通し、ファッション誌やカルチャー誌に漫画やエッセイを寄稿する。著作に『マイ・リトル・世田谷』『ガールフレンド』(ともにスペースシャワーネットワーク)などがある。

梅佳代|Kayo Ume
1981年、石川県生まれ。写真家。身近な人物や、日常の風景を切り取ったスナップ写真が高く評価され、日本だけではなく、海外でも展示を行なう。「男子」「女子中学生」で写真新世紀を2年連続受賞。2007年、写真集『うめめ』(リトルモア)で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞した。近著に『白い犬』(新潮社)などがある。

*展示情報などは掲載当時のものです

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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