1 June 2023

河野幸人が選ぶ
若手作家による2020年代のベスト写真集3冊

1 June 2023

Share

河野幸人が選ぶ若手作家による2020年代のベスト写真集3冊【IMA Vol.39特集】 | 河野幸人が選ぶ、若手作家による2020年代のベスト写真集3冊【IMA Vol.39特集】

世界同時多発的に写真集ブームが起こった2010年代、作り手は増加し、受け手の見る目はどんどん成熟していった。 ブームのピーク、そしてコロナ禍を経て、現在の若手作家が生みだす新しい写真集は、どう変化しただろう? 『IMA』vol.39の関連記事第3弾は、写真集のプロフェッショナルたちが2020年以降、35歳以下の作家が出版した写真集を、さまざまなテーマのもと3冊ずつ紹介する「若手作家による2020年代のベスト写真集」の企画から、写真家、IACK店主である河野幸人を選者に迎えたセレクトを紹介する。現実とインターネットの世界が曖昧に混ざり合い、生まれた3冊を見てみよう。

セレクト=河野幸人(写真家、IACK店主)

「境界線が揺らぐ現代社会に呼応するイメージ」

少し前は写真を投稿するプラットフォームといえばTumblrやFlickrであり、そこでは私生活を題材に撮影されたスナップ写真が散見された。インターネットは写真を志す者たちに新たな表現の場所を与え、そして同時によりフィジカルな表現、フィルム写真や自費出版、アートブックフェアなどのイベントも大きな盛り上がりを見せた。現在はInstagramや動画サイト上で2010年代とは比較にならないほど幅広く、より多くの人が、とりとめもない日々の様子や作品を不特定多数に向けて発信している。オンラインとオフライン、公と私の境界すら曖昧な時代において、私生活はいかに作品テーマとして批評性を持ち得るのだろうか? 紋切り型の「テクノロジー」や「ユースカルチャー」の枠組みから飛び出し、現代における写真と生活のあり方を問う作品集をセレクトした。

『You I Everything Else』 Linn Phyllis Seeger (Skinnerboox、2020)

本作は「ポスト・デジタル時代のロマンス」をテーマに、作者がパートナーと交わしたチャットなどのスクリーンショットから構成。造本や手法にまず目がいくが、本書の面白さはすでに写真という表現ジャンルで語り尽くされてきたテーマを、文化の壁を超えて多くの人が理解可能なオルタナティブな視覚言語で表現する点にある。もはやカメラで記録するまでもなく、私たちの私生活のスナップ写真はデータとして残されているのである。


『Inner, Outer, Paintings, Friends』 Lukas Panek (Palais Books、2021)

作者が撮影した500枚以上もの写真やスクリーンショットのアーカイブと絵画作品を収録。かつて散見されたスナップ写真の現代版ともいえる作風だが、日常風景と制作風景、そして実際の作品を織り交ぜたり、バーチャル/リアル、ローカル/グローバルなどの構図をフラットかつダイナミックに扱うさまは、社会とイメージの結びつきがより複雑かつ流動的になった時代に、我々が生きていることを実感させる。


『Shame Space』 Martine Syms (Primary Information、2020)

フェミニズムや黒人文化をテーマに制作を行う作者が物語とアイデンティティの可能性を探究する本作は、作者の別人格的存在の日々を綴った日記と、映像作品のスチル写真から構成。本来別々の作品が1冊になることで、曖昧なデジタルワールドで生きることに対する葛藤やある種の高揚感が描き出されており、またフィルム写真ともスマートフォンの写真とも異なる画像の質感は、時代の空気感に不思議とマッチしている。

河野幸人︱Yukihito Kono
1989年、石川県金沢市生まれ。2011年に渡英し、London College of Communicationにて写真を専攻。現在は写真家として活動する傍ら、2017年に「開かれた書斎」というコンセプトのもと、金沢市でIACKをオープン。現代写真を中心とした作品集の販売やギャラリーとしての企画展、海外独立系出版社や自費出版作品の流通を行う。
https://www.iack.online/

  • IMA 2023 Spring/Summer Vol.39

    IMA 2023 Spring/Summer Vol.39

    特集:混迷する世界を駆ける若き才能

Share

Share

SNS