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Emilia van Lynden

エミリア・ヴァン・リンデンインタヴュー
コレクターと若手写真家をつなぐ、写真の「明日」を見るためのプラットフォーム

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エミリア・ヴァン・リンデンインタヴュー「コレクターと若手写真家をつなぐ、写真の『明日』を見るためのプラットフォーム」 | エミリア・ヴァン・リンデン

経済的な視点からアートの新たな役割を考察する連載企画「アートと経済」。第3回目のゲストは、2012年にスタートし、今年7回目の開催となる「Unseen Amsterdam」のアーティスティック・ディレクター、エミリア・ヴァン・リンデン。「Unseen Amsterdam」は現代写真に特化した多面的なイベントで、3年以内に作られた「Unseen(見たことのない)」現代写真の発表の場として、コレクターや、来場者と関わりながら常に発展を続けている。彼女が目指す唯一無二な「場」の作り方とは?

文=松本知己
写真=高橋マナミ

―まずはじめに、Unseenでの仕事に到るまでのバックグラウンドを教えていただけないでしょうか。

私は最初から写真や現代美術という分野に携わっていたわけではなく、イタリアのバロック建築について勉強していました。その頃から建築と写真のつながりを感じていて、そのあとに現代美術や写真を研究するようになりました。その後、2013年からUnseenで働き始め、2015年から『Unseen Magazine』編集長として活動しています。現在はUnseenにおいてアーティスティック・ディレクターとして働いています。

―日本では、代官山フォトフェアといった写真のフェアはあるものの、運営母体はギャラリーのため、ディレクターというポジション自体が日本人にとっては珍しい存在だと思います。

Unseenでは、アドバイザリーコミッティはありますが、そこにはギャラリーは介在せず、ギャラリスト以外の専門家たちに参加してもらっています。そういう意味では、Unseenの運営にはギャラリー同士の複雑な関係性や政治性はありません。これはとても重要なことだと思います。ギャラリーが運営に大きく関わっているParis PhotoやAIPADといった有名なフェアもありますし、大きな成功を収めていると思います。ただ、私たちはそれらのスタイルを追いかけるのではなく、新しいモデルを確立して、別の観客を引き付けたいと考えています。それが私に課せられた役割だとも思います。

─Unseenは2012年に始まり、今年で7年目を迎えます。設立当時を振り返ってみると、今年度のフェアとの違いはありますか?

まずフェアとしてのUnseenは、2012年にUnseen Photo Fairという名前で始まりました。53の国内外のギャラリーが参加しましたが、その時点ではヴィンテージやモダンプリントと呼ばれる作品も多くありました。しかし、2013年にそういった昔のプリントを見せない、まさしく新たな作品を見せる場にすると決めたのです。具体的にいうと、最近3年間で制作された作品です。また、そこからさらに発展させて、「Premiere」というカテゴリーも作りました。それは、これまでギャラリーや美術館、ほかのフェアでも見せたことのない、Unseenがお披露目の場となる作品たちです。今年は、Unseenで見られる作品の60%はこのプレミアに属するものになります。これは参加するギャラリーにとっても、初めて展示販売する作品ですので、チャレンジなことだと思います。しかし、そういう現場に参加、協力してくださることで、フェアとしても新しい側面を見せていけると考えています。2012年と比べたら、まったく違うものになっていますよね。

また2015年は、Unseen Photo FairとUnseen Photo Festivalというように、フェアとフェスティバルを分離するようなかたちで運営していました。フェアが4日間で、フェスティバルは10日間と開催期間も異なり、アムステルダムのあらゆるところで写真に触れられるよう展開をしていました。しかし、いまはUnseen Amsterdamという名前で運営を一本化し、開催場所もひとつのエリアに集中させています。フェア、展覧会、ブックマーケット、そして昨年からスタートした「CO-OP」など、さまざまなプログラムをひとつの場所で体験でき、とても刺激的な場になっています。来場者も、フェアや展覧会などが別物として扱われたり、細分化されてしまうと見逃してしまうものが出てきますよね。ただ、どのプログラムも写真についてのことであり、とても密接に関係しています。だからこそ、ひとつの場所で多くのものに触れられることはとても重要なことです。


Fair, Unseen, 2017 © Iris Duvekot

Fair, Unseen, 2017 © Iris Duvekot

―ただ、コレクターにとっては価値付けされていないものを購入する、という一種のハードルもあると思います。Unseenという場をマーケットとして発展させる上で重要なことはなんでしょうか。どのようにコレクターと関わっているのでしょうか。

「教育する(educate)」という言葉がキーとなると思います。多くのコレクターは、すでに知っている作品・価値付けされた作品を購入する傾向にあります。あらゆる意味で安心安全ですからね。「投資(investment)」という言葉はあまり使いたくないのですが、そういう側面もあると思います。しかし、Unseenはそういったものと真逆といっていいかもしれません。会場で見られるのは若い作家で、美術館などにも収蔵されていない作品が大多数です。

それゆえに情報発信に力を入れています。例えば雑誌を発行したり、ウェブサイトを充実させ、Unseen Amsterdam開催前から作家や作品のコンテクストを重点的に紹介しています。来場者が何を見ているのか、理解を深めてもらうのです。種をまき、時間をかけて育てていくプロセスが必要です。

また、重要な点のひとつに、作家本人がフェアの現場にいてもらうようにすることが挙げられます。昨年は約120人の作家がフェアに参加したのですが、そのうち92人がフェアのブースにいました。作家本人がいることで、作品が誰によって作られたのかはっきりわかり、また作品理解も一層深まります。ギャラリーも作家や作品のことは十分に理解した上で、コレクターとコミュニケーションを取りますが、やはり本人と話ができることは特別です。コレクターだけでなく、作家にとってもインスピレーションを得られる場になります。コレクターも作家の人となりを知ることで、作品を購入して作家を応援したい気持ちが高まるでしょう。実際、コレクターたちからも評判が良いですね。あと、特に若い世代のコレクターは前述したような「安心安全」のスタイルではなく、直感的に購入することも多いのも確かです。若い世代ほど、実験的だったり、前衛的な作品を求めているようにも思います。だからこそ、作家に会って話をすることは作品購入への近道にもなるのです。


Fair, Unseen, 2017 © Almicheal Fraay

Fair, Unseen, 2017 © Almicheal Fraay

―オランダという国、またアムステルダムという町は、歴史的に見ても、新しいものや実験的なものを受け入れてきた土壌があると思います。その土壌とUnseenの相性が良いともいえますね。

その通りです。パリを見ても、歴史的にも写真との関係は深く「伝統」があると思います。もちろん、アムステルダムにも長い歴史はあるのですが、大きく違うことは明らかです。ただ、オランダは芸術を常に受け入れてきたし、オープンな国ゆえに、常に変わり続ける「写真」と付き合う上でも相性はいいかもしれません。だからこそ、Unseenが始まった2012年から、新しいものを見せ続けてきましたし、それを追求してきました。実際、世界中の現代美術のフェアに行っても、誰が買うんだろうというような価格の有名作家の作品が並んでいて、「自分がここにいてもいいのだろうか」という気持ちになりませんか?私たちがやってきたことはその対極にあることなんです。作品を買ってもらえたらもちろん嬉しいけれど、買わなくてもいいんです。まずは実際来て写真に触れてほしい、新しい作家や潮流を発見してほしいのです。来場者は写真に向き合うことで、写真や作家、作品について学び、将来的には購入まで行き着くというプロセスを私たちは作っているのです。

Paris Photoとフェアの立ち位置が重なる部分もありますが、違いも明確です。Paris Photoはフェアの狙いとしては作品をコレクション(=販売)につなげることかもしれません。いかにコレクターとギャラリーをつなげるかに重きが置かれていると思います。私たちはもちろんコレクターに来てもらうことも重要視していますが、またさらに大切なこととして「発見」がある場を作ることなのです。来場者・コレクターには、写真の「明日」を見る場としてもとらえてほしいです。


Fair, Unseen, 2017 © Almicheal Fraay

Fair, Unseen, 2017 © Almicheal Fraay

―フェアはフィジカルな場ですが、近年オンラインでの作品売買も増えてきています。情報発信する上でもインターネットの存在は欠かせないと思いますが、インターネットとの付き合い方をどうとらえていますか。

たしかにオンライン売買は増えているものの、まだ多くの人が実際に作品を目にしたいと思っています。ただ、インターネットによって情報を伝えていくことで、フェアというフィジカルな場もより活発になると思います。フィジカルな場とインターネットがまったく別のものととらえるのではなく、連動しているものとして見ています。

Unseenでは、オンラインプラットフォームを年末にローンチできるよう準備を進めています。このプラットフォームは、販売を目的としたものではありません。作家や作品の理解を深めてもらうための、教育的なプラットフォームとでもいうでしょうか。フィジカルな場とインターネットが常に良い関係になるように追求していくことが重要です。

―『IMA』でもパナソニックを特別協賛にした「BEYOND 2020」という日本人の若手写真家のグループ展を2年前から、Unseenの一環としても開催してきました。現代写真に対するスポンサーの理解は進んでいるのでしょうか?新しいものへの協力を仰ぐのは難しくないのでしょうか?

まずいわなければならないのですが、 Unseenをサポートしてくださる企業をはじめとする多くの方々を単に「スポンサーシップ(sponsorship)」としてとらえてはいません。「パートナーシップ(partnership)」であると考えています。

「BEYOND 2020」ではカメラを並べたり、パナソニック製のカメラで撮影された平凡な写真の展示ということでなく、実力ある日本の若手写真家の作品をアムステルダムで展開するコラボレーションなのです。それは企業やUnseenにとってももちろんですが、そこに参加する作家にとっても有益なことです。協力を仰ぐにしても、例えば企業やブランドと一緒に何かを作り上げることによって、お互いが発展できるよう心掛けています。単純にお金を軸にした関係性ではないのです。Unseenに関わる作家たちのキャリアがいかにより良くなるのかを考えながら、お互い何を手助けできるのかを常に模索しています。新しい試みが多いので、困難も伴いますが、作家に還元できるかたちを追求しています。(若手育成プログラム

―最後に、今年の見どころを教えていただけないでしょうか。

すべてのプログラムが平等に重要なことなので、ひとつだけ取り上げるのは難しいですね(笑)。その中でも紹介したいものとして、昨年から始まった「CO-OP」というプログラムを取り上げましょう。ギャラリーという枠に入らないところでの動きを取り入れる重要な試みで、もうすでにUnseenにはなくてはならないプログラムです。ギャラリーに所属していない写真家集団(コレクティブ)に対して無料で場所を与え、展示をしてもらい、また作品販売も彼らの手でおこなってもらうというものです。ギャラリーに所属している写真家だけがマーケットに乗るのではなく、そういう立場ではない写真家たちの活動も持続可能なものにするためには、こうした場を作ることが有効な手段だと思います。写真家自身も、マーケットについて肌身で感じられるし、自分たちの活動をどう表現すべきかなど多くのことを学べるでしょう。また、ネットワークも広げられます。このプログラムによって、ギャラリーの枠にとらわれない魅力的な活動をしている写真家たちの可能性も広がるし、立場の向上にもつながるでしょう。Unseenは、Unseen Amsterdamと組織を通じてマーケットを広げるだけではなく、写真家たちとともに歩み、これに関わる人たち皆が成長発展する場所なのです。


COOP, Unseen, 2017 © Maarten Nauw

COOP, Unseen, 2017 © Maarten Nauw

エミリア・ヴァン・リンデン 02

エミリア・ヴァン・リンデン|Emilia van Lynden
アムステルダム大学卒業。2012年より、現代写真表現の場の発展を目的に開催されているUnseenのアーティスティック・ディレクターを務める。また、2015年創刊の年刊誌『Unseen Magazine』の編集長を務め、若手アーティストの発掘や、支援にも力を入れている。7回目となるUnseen Amsterdamは2018年9月21日(金)〜23日(日)にWestergasfabriek(アムステルダム)で開催予定。