13 February 2017

Book Review
Nigel Shafran

5つの物語が描きだす「喪失」と「再生」
ブックレヴュー『DARK ROOMS』ナイジェル・シャフラン

13 February 2017

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ブックレヴュー『DARK ROOMS』ナイジェル・シャフラン | Dark Rooms

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地上の使者としての写真家

本書の冒頭には小さく、 “For my family, past, and present(家族、過去、そして現在に捧ぐ)” と記されており、そこに未来を表す “future”という言葉は見当たらない。写真家の取り組みとは現在から静止した時間(過去)へと接続することであり、その姿は、シャフランが本作を制作するにあたってのもうひとつの影響源として名を挙げる1946年公開のイギリス映画『A Matter of Life and Death(天国への階段)』で、天国の使者が自在に時を止めて現世へと関与するさまと酷似している。

しかしここで決定的に異なるのは、天界の使者が静止した時間に関与することができるのに対し、我々にはそうすることは許されていないという事実だ。我々に可能なのは、写真という欠片を介して過去へと接続しながら、その中にでもなく未来にでもなく、現在の中にこそ光を見いだすということである。

本書は部屋で眠る息子のレヴの写真と、日常の象徴である自転車の写真で幕を閉じる。シャフランが暗い部屋の中で何を見たのかは、明白であろう。それこそが『Dark Rooms』という作品を包み込む静かな力強さなのであり、彼にとっての写真のあり方なのだ。

突飛な手段を取るわけでもイメージと戯れるわけでもなく、伝統的な構造を用いつつ同時にさらなる昇華を模索した本書は、現代における写真集というメディアの新たな在り方を提示しているのかもしれない。

Dark Rooms

タイトル

ナイジェル・シャフラン『DARK ROOMS』

出版社

MACK

価格

7,700円+tax

発行年

2016年

仕様

ハードカバー/210mm×272mm/180ページ

URL

https://twelve-books.com/products/dark-rooms-by-nigel-shafran

ナイジェル・シャフラン | Nigel Shafran
1964年、イギリス生まれ。写真家。ファッションフォトグラファーとして80年代に活動をはじめ、現在は自身の日常生活に焦点をあて、パーソナリティーが滲む身の回りの物や環境を取り入れる作風が特徴。被写体は妻から郊外のガレージに至るまで多岐に渡る。2007年にテート・ブリテンで開催された展覧会で注目を集め、その後フォトグラファーズ・ギャラリー、ジェフリー美術館、サーチ・ギャラリー、ヴィクトリア&アルバート博物館などで作品が展示される。

河野幸人 | Yukihito Kono
1989年、石川県金沢市生まれ。写真家。金沢市在住。2011年に渡英し、写真を学び始める。2014年にはLondon College of Communicationの写真科修士課程を修了。2012年以降、現在まで多数の作品を本の形態で発表し、2014年に50部限定で自費出版した作品『Raster』は、全米の写真業界で最も権威のある写真専門ギャラリー「Photo-eye」や 写真集ブログなどで、年間ベストブックのうちの一冊に選出された。自身の写真家としての活動の傍ら、写真に関する記事の執筆や各国大小さまざまなアートブックフェアへの参加など、写真集というメディアを軸に多岐にわたり活動を行う。

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