東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
動きのあるものを被写体にした写真集
スイス出身で現在はニューヨークに拠点を置くヘンリー・ルートワイラーは、4年間にわたる振付師のピーター・マーティンとニューヨーク・シティ・バレエ団との協働を重ねた末に、この一団の舞台裏を撮影するという先例のない許しを得ました。この幸運を掴んだ写真家が35mmライカ1台だけを携えて臨んだ1カ月におよぶ撮影では、文字通り「黒子」となってステージの影に潜み、パフォーマーのすぐそばまで迫りながら、狂おしいほどの存在感を逃さんとばかりに捉えています。踊り手は理想上の存在ではなく生身の人間であるというリアリティを心得たうえで、躍動感に溢れた動きをくまなく追い続けた彼だからこそ、美しく抽象的な表現へと昇華できたのでしょう。30年にわたる芸術的実践に対する情熱がほとばしります。
タイトル | ヘンリー・ルートワイラー『Ballet』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 11,200円+tax |
発行年 | 初版2012年/第2版 2015年 |
仕様 | ハードカバー/クロス装丁 |
URL |
パフォーマンス・アートのパイオニアと呼ばれるマリーナ・アブラモヴィッチが2014年にロンドンのサーペンタイン・ギャラリーで敢行したのは、「会場に住まう」という行為でした。タイトルは、展覧会を開催する総時間を示します。朝10時に作家自らが扉を開けて始まり、夕方6時には再び閉められるギャラリー空間に、すべての所持品を手放し身ひとつとなった鑑賞者が足を踏み入れます。作家と鑑賞者、そして数々の小道具だけが存在する。作家も含めた誰もが、一体何が起こるか全く見当がつきません。収録図版はいずれも別作品のものであり、本作については文字情報だけが記されています。それを目撃した当事者の記憶にのみ痕跡を残す。これぞパフォーマンス・アートの真骨頂ともいえる、なんとも不可思議な一冊です。
タイトル | マリーナ・アブラモヴィッチ『512 HOURS』 |
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出版社 | Koenig Books |
価格 | 5,800円+tax |
発行年 | 2014年 |
仕様 | ハードカバー/クロス装丁 |
URL | https://www.buchhandlung-walther-koenig.de/koenig2/index.php?mode=details&showcase=1&art=1513900 |
コンセプチュアル・アーティストのロニ・ホーンは、被写体の本質的特性を表現するために、ポートレイトという手段を用いることで、その形式の根幹を揺らがすような作品をたびたび発表してきました。なかでもピエロの頭部を被写体にした本作は、彼女の作品シリーズのなかで最も不可解なもののひとつ。よく目を凝らしてみていくと、ようやく目鼻立ちなのだとわかるほどのぼやけた顔ぶれ。これらはめいめいに動き回り、異なった感情や表情を浮かべているのだろうという察しがつきます。「出現と消失」という現象に着目したこの奇妙な実践を通じて、本来は叙述的ないし視覚的であるというポートレイトの特質をことごとく削ぎ、より直感的な理解や体験をもたらすのです。
タイトル | ロニ・ホーン『Cabinet of』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 11,400円+tax |
発行年 | 2004年 |
仕様 | ハードカバー/クロス装丁 |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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