Photobooks of the Month

年々、人気が高まるアメリカの写真家トッド・ハイドの新刊が入荷しました。トッド・ハイドはオハイオ州出身でこれまで一貫してアメリカ郊外を題材とした作品を発表してきました。家の中から漏れる光だけを使った夜間の長時間露光撮影により不思議な色彩で家屋を浮かび上がらせ、郊外の不気味な静けさを際立たせた『House Hunting』、車のフロントガラス越 しに撮影された美しくも荒涼とした風景写真を集めた『Roaming』、そして1970年代にオハイオ州郊外で過ごした少年時代への心の旅『Excerpts from Silver Meadows』と、長い年月をかけて物語を紡ぐかのように切々とアメリカ郊外を描き続けてきたのです。そんなトッド・ハイドの今回のテーマは「大いなる冬」。これまでとは一転してヨーロッパや日本も含め広く撮影旅行する中から、より普遍的な世界を描き出しています。暗く広大な大地、煙る視界、厳しい凍えのなかの輝き…写真家が新たに生み出した心象風景はこれまで以上にスケール感が増し荘厳な気配すら漂わせます。トッド・ハイドの新境地を示す、ファンの方には見逃せない1冊です。

サルヴァトーレ・フェラガモ、A.P.C.、バレンシアガ、セリーヌなどトップブランドのビジュアルを手掛けるファッション・フォトグラファーであると同時に、パーソナルワークとして紛争地帯の写真を撮り続ける女性写真家ハーリー・ウィアーの写真集です。2年前にフランスのカレー市の難民キャンプを撮影したこのシリーズは、キャンプ撤去が強行された難民支援のために500部制作したところ、わずか5日間で完売したそうです。キャンプの厳しい状況のなかでも人々は手に入るものをかき集め何とか工夫して小さなパーソナルスペースを作りあげています。そんな彼らの「HOMES」をハーリーは持ち前のセンスと透明感のある美しい色彩で表現しています。カレー市の難民問題は未だ継続していることを受けハーリー・ウィアーは3点を新しいイメージを足して本書の再版にふみきりました。売り上げの一部はこの地域で人権擁護活動を続けている慈善団体に寄付されます。

地下鉄の駅構内の壁や柱、階段、シャッターなど構成される視角の一部を切り取って撮影し、まるで現代アート作品を見せるかのように提示する澤田育久の写真集です。白いタイル貼りの壁をバックにした白タイルの円柱と自販機（？）の側面、あるいは階段の白い側壁が切り取る斜めのラインと蛍光灯の反射光といったように、澤田は公共空間特有の機能を重視した無個性な内装と、地下鉄駅という複雑な空間構成からミニマリストの作品かと見まごうイメージを切り取ります。撮影した写真は大きく引き伸ばしで吊り下げられ、背景と一体化した視界の中で鑑賞するインスタレーションとして展示されます。今回の写真集では、もとの作品と澤田自身がインスタレーションビューを撮った写真が等価に織り交ぜられ、さらに異なるサイズのページを階段状に綴じることで後ろのページの写真を背景としながら前のページの写真を見るという仕掛けが施されています。見る側の視点を強く意識した1冊です。

Shelf
外苑前にあるブックショップ。写真集を中心とした洋書を専門に取り扱っており、店内には希少な本から絶版書までさまざまなジャンルの写真集が所狭しと並べられている。

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tel / fax: 03-3405-7889
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