東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=森屋恵美(Shelfオーナー)
トーマス・ルフ、アンドレアス・グルスキー、カンディダ・へーファーらとともに「ベッヒャー派」の第一世代と呼ばれ、ドイツを代表する現代写真家であるトーマス・シュトゥルートの展覧会の写真集です。1976年からデュッセルドルフ美術アカデミー教鞭をとっていたベルント・ベッヒャーの下、まだ学生数も少ない中で手厚い指導を受けたこの世代の写真家らの活躍は目覚ましく、「ベッヒャー派」という呼称自体、彼らの活躍があってこそ生まれた言葉だといっても過言ではないでしょう。今年の10月までリヒテンシュタイン公国のヒルティ美術館で開催中のこの展覧会は、シュトゥルート自身がキュレーションを行い、自らの作品を美術館のコレクションする絵画や彫刻と組み合わせて19世紀後半以降の美術の文脈の中で配置することを試みています。その展示風景を収めた写真はどこか80年代に発表された「美術館」シリーズを彷彿させるところもあり、興味深い1冊となっています。
タイトル | トーマス・シュトゥルート『Composition ’19』 |
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出版社 | Schirmer / Mosel Verlag GmbH |
価格 | 6,800円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ハードカバー/310mm×230mm/130ページ |
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今年はバウハウスの(設立)100周年ということでいつになくバウハウス関連の本が多く出版されています。本書はバウハウス出身の女性作家のみを特集しており、デザイナーやアーティストとともに写真家も何人か取り上げられています。バウハウスが実際に開校されていたのはわずか14年ですが、その理念が後のデザイン、建築、写真、アートに大きな影響を与えたことはよく知られるところです。当時女性に新しい教育の場を供したこともそのひとつです。本書には今まであまり紹介されることもなく知られてこなかった作家までを掘り下げて、その作品ややプロフィールを掲載しています。100周年記念ならではの1冊です。
タイトル | 『Bauhaus Madels』 |
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出版社 | TASCHEN |
価格 | 5,030円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ハードカバー・クロス装/170mm×240mm/480ページ |
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建築家・西沢立衛が設計した個人住宅「Garden & House」が完成したのは7年前のこと。都内の狭小スペースに庭と部屋を積み重ねるかのように建てられたこの住宅が竣工したとき、内田鋼一、金氏徹平、廣瀬智央、鈴木理策の4人の作家の作品を展示した「私の秘密の花」展が非公開で開催されました。ペドロ・アルモドバルの映画名をもつこのミステリアスな展覧会を舞台に鈴木理策が「Garden & House」を撮りおろした作品が本書です。彫刻作品が君臨するテラリウムのような室内、カーテンの隙間からオリジナルプリントを照らすドラマティックな光。きたるべき住人を待つ無人の時を謳歌するような謎めいた時間と空間がたっぷり詰まった本書は個人的にも大好きです。
タイトル | 鈴木理策『私の秘密の花–西沢立衛のガーデン&ハウス』 |
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出版社 | トゥルーリング |
価格 | 4,900円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ソフトカバー/A4変型/100ページ |
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2年間におよぶこのブックレビュー連載も今回が最後となりました。長きにわたりお付き合いくださいましてありがとうございました。もし少しでも写真集に興味を持って頂けたようでしたら、シェルフやその他のブックショップをのぞいて頂ければ幸いです。
それでは続きは店頭にて。
Shelf
外苑前にあるブックショップ。写真集を中心とした洋書を専門に取り扱っており、店内には希少な本から絶版書までさまざまなジャンルの写真集が所狭しと並べられている。
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-7-4
tel / fax: 03-3405-7889
http://www.shelf.ne.jp/
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。