今年は依然として閉鎖的な空気に包まれつつも、少しずつ外出する機会が増え、実際に書店や展示に訪れることができた人も多いはず。そんな2021年は一体どんな写真集が売れたのだろう? 4つの書店に、本年の写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を教えてもらった。第一弾は、2020年に変わり続けるオルタナティブスペースとして、設計事務所DAIKEI MILLSと、洋書のディストリビューションを行うtwelvebooksがタッグを組んでオープンした「SKWAT/twelvebooks」。あらゆる業界の感度の高いアート好きが足を運ぶ、壁一面ずらりと本が並ぶ空間で多くの人が手にした写真集をチェックしてみよう。
セレクト・文=中野美登樹(twelvebooks)
▼1位
ジェイミー・ホークスワース『THE BRITISH ISLES』
イギリス人フォトグラファー、ジェイミー・ホークスワースの作品集。本書は13年間かけて撮影された、母国イギリスの記録であり、作者の代表作である2017年刊行の「PRESTON BUS STATION」(DASHWOOD BOOKS)の地続きのシリーズであるとも言えるだろう。ブレグジットから新型コロナ蔓延というイギリスの歴史における社会的に大きな変化を遂げた時期に重なっていながら、暗部よりもイギリスへの深い慈しみを感じるような、美しい光が印象的な風景とポートレイトが連なっている。ファッションフォトでも評価の高い作者ならではの、スタイリッシュな画作りを魅力とする新たなドキュメンタリースタイルが確立されている。
タイトル | ジェイミー・ホークスワース『THE BRITISH ISLES』 |
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出版社 | MACK |
価格 | 【通常版】9,900円【プリント付特装版】55,000円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー/220mm×260mm/304ページ |
URL | https://www.twelve-books.com/products/the-british-isles-by-jamie-hawkesworth |
▼2位
ジャック・デイヴィソン『PHOTOGRAPHS』
イギリス人アーティスト、ジャック・デイヴィソンの作品集。ファッションフォトで頭角を現した作者の初作品集ということもあってか、2019年の刊行時から現在の3刷に至るまで動きの衰えない、若手作家としては珍しいロングセラータイトルとなっている。1990年生まれのデイヴィソンによる本書には、弱冠17歳からの作品が収録されており、風格すら漂う作品のクオリティーには驚嘆するばかり。シュルレアリスムの影響を感じる、夢遊的かつ耽美的なイメージが更に巧妙な編集力によって、不思議な緊張感を演出するミステリアスな世界観を作りだしている。直感的でありながら、作者の技術に裏打ちされた、写真芸術の可能性を感じる1冊に仕上がっている。
タイトル | ジャック・デイヴィソン『PHOTOGRAPHS』 |
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出版社 | LOOSE JOINTS |
価格 | 7,700円 |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ハードカバー/240mm×255mm/136ページ |
URL | https://www.twelve-books.com/collections/loose-joints/products/photographs-by-jack-davison |
▼3位
ディアナ・ダイクマン『LEAVING AND WAVING』
アメリカ人フォトグラファー、ディアナ・ダイクマンの作品集は、作者が実家を訪れた後に手を振って別れを告げる両親の様子を27年間にわたって撮影した1冊。写真の記録性という重要な視点を実にハートウォーミングに描き出したものと言える。年月を追うごとにモノクロからカラーへと変化し、二人だった両親が一人になり、作者の子供が顔を現すようになり、反復されるイメージが時を重ねる毎に変化していく様をより際立たせている。通い合う心の温かみの一方で悲哀を孕み、写真のもつ重みを感じさせてくれる本書は、コロナ禍で家族に会うことすら難しかった昨今であれば尚更、写真の原点である「家族写真」の魅力を思い出させてくれるだろう。
タイトル | ディアナ・ダイクマン『LEAVING AND WAVING』 |
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出版社 | CHOSE COMMUNE |
価格 | 8,140円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー/190mm×235mm/112ページ |
URL | https://www.twelve-books.com/products/leaving-and-waving-by-deanna-dikeman |
▼いまオススメしたい1冊
『WHAT THEY SAW: HISTORICAL PHOTOBOOKS BY WOMEN, 1843–1999』
写真の始まりから21世紀の夜明けにかけて女性作家によって作られた写真集を、独自の視点から書き換えた新たな写真集史「HOW WE SEE: PHOTOBOOKS BY WOMEN」の第二弾として刊行された。欧米の男性写真家の写真集の研究が主とされてきた中で女性、同性愛者、ノンバイナリーというジェンダー的視点や欧米以外の有色人種の作家に焦点を当て、ポートフォリオ、個人アルバム、未出版書籍、ジン、スクラップブックと写真集の形態もさまざまに、写真集の概念を広くとらえ再編集された、多様性に満ち溢れた画期的なものとなっている。これまでの歴史を見直し、再編しようという試みが結実した、重要な資料的価値のある1冊。
タイトル | |
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出版社 | 10×10 PHOTOBOOKS |
価格 | 11,000円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ソフトカバー/300mm×240mm/352ページ |
URL | https://www.twelve-books.com/products/what-they-saw-historical-photobooks-by-women-1843-1999 |
SKWAT/twelvebooks
2020年、青山にオープン。設計事務所DAIKEI MILLSと、海外出版社の国内総合代理店として書籍の流通やプロモーション、関連作家の展覧会企画や来日イベントなどさまざまなプロジェクトを手掛けるtwelvebooksがタッグを組んで展開する、“変わり続ける”オルタナティブスペース。
〒107-0062
東京都港区南青山 5-3-2 2F
https://ja.twelve-books.com/