昨年よりも行動制限が緩和され、さまざまな写真展やフェアの開催、海外アーティストの来日が増えたこの1年、写真集を扱う書店では一体どんな本が人気を集めたのだろうか? 今年も4つの書店に、写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を紹介してもらった。第1弾は、アトリエでありギャラリーでもある書店、IACK。金沢にあるスペースで積極的に展示を企画するほか、東京でも頻繁にポップアップイベントを行うなど精力的に活動を広げている。写真集好きにとって目が離せない注目の書店では、どんなラインナップになったのか見てみよう。
セレクト・文=河野幸人(IACK)
目次
▼1位
アバロス村野敦子『Empty Nests』
今年IACKでも個展を開催した、写真家のアバロス村野敦子による作品集。2019年にパリを目的地として渡仏したアバロス夫妻は、空き時間を利用してワインやコウノトリ伝承で知られるフランスのアルザス地方を訪れます。しかし季節は晩秋、子育てを終えたコウノトリたちはすでに暖かいアフリカ大陸へと渡っており、ふたりが見かけたのは「空(から)」の巣ばかりだったそうです。本書は彼女が街のさまざまな場所で撮影した空の巣の写真を、図鑑のような類型学的視点からまとめあげています。類型学/タイポロジーは主観的表現とは対極に位置する手法ですが、本作では被写体となるモチーフと作家の心情がリンクすることで、客観的記録性の中にも心情の変化や旅の軌跡といった主観的な要素を感じさせるバランスが面白く、読者の自由な解釈に開かれた1冊となっています。
タイトル | 『Empty Nests』 |
---|---|
作家名 | アバロス村野敦子(Atsuko Murano Abalos) |
出版社 | LibroArte, Inc. |
価格 | 4,400円 |
発行年 | 2021年、初版 |
仕様 | クロス装ハードカバー/188 x 265 x 15 mm/52ページ |
URL |
▼2位
ヴェロニク・ローラン『Memories of an Unknown Island』
第2位も今年IACKで個展を開催したフランス系イギリス人写真家、ヴェロニク・ローランのアーティストブック。コロナ禍において厳しいロックダウンが実施されたイギリスで、ある日ローランは友人から旅先で撮影した写真を見せてほしいと頼まれます。外出も自由にできないため、ローランは写真を選んでは印刷し、床に並べる作業を毎晩のように行っていた最中、それらの写真がとある架空の島で撮影された写真のように感じた瞬間があったそうです。その直感をもとに蛇腹本として制作された本書は、身体的制限が課された時代だからこそ生まれた、想像力の力強さと可能性を感じさせる壮大な1冊に仕上がっています。手元で開くだけでなく、テーブルに広げたり、立てたり、また掛け軸のように壁から吊るすこともでき、それぞれ写真の印象が大きく変わるところも見どころです。
タイトル | 『Memories of an Unknown Island』 |
---|---|
作家名 | ヴェロニク・ローラン(Véronique Rolland) |
出版社 | Jane & Jeremy |
価格 | 9,790円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | 蛇腹本/初版100部/サイン入りCプリントが付属/200 x 150 x 10 mm/40ページ |
URL | https://www.iack.online/products/memories-of-an-unknown-island?_pos=1&_sid=1a3c6b538&_ss=r |
▼3位
ヨヘン・レンペルト『Paare / Pairs』
今年ドイツのフランクフルトで開催された個展に際して刊行された、ドイツ人写真家、ヨヘン・レンペルトの最新刊。タイトル通り、本作でレンペルトは同じ被写体、ペアの動物、あるいは視覚的に示唆に富んだ組み合わせをテーマに写真を構成しています。彼の作風を特徴づける、壁に小さなプリントを直接貼りつける展示手法を反映するかのように、本書においても空白のページや余白が贅沢にとられており、余韻を感じさせる彼の表現とその世界観を存分に堪能できます。既存のファンだけでなく、初めて彼の作品世界に触れる人にもおすすめの作品集です。
タイトル | 『Paare / Pairs』 |
---|---|
作家名 | ヨヘン・レンペルト(Jochen Lempert) |
出版社 | Roma Publications |
価格 | 5,610円 |
発行年 | 2022年、初版 |
仕様 | ペーパーバック・スイス装/290 x 212 x 15 mm/112ページ |
URL | https://www.iack.online/products/paare-pairs-by-jochen-lempert?_pos=1&_sid=5f247b42a&_ss=r |
▼いまオススメしたい1冊
ジョン・ディヴォラ『SCAPES』
イタリアの独立系出版社Skinnerbooxより出版された、アメリカ人アーティスト、ジョン・ディヴォラの作品集。本書はディヴォラが90年代に制作した3つの作品、〈Four Landscapes〉〈As Far As I Could Get〉〈Dogs Chaising My Car in The Desert〉を収録しています。いずれの作品も既によく知られた作品ですが、本書が面白いのは「90年代」と「白黒写真」という枠を設けることで、独立したものとして発表されていた作品群を一連のシリーズとして再解釈し、彼が当時関心を持っていたテーマやその軌跡を浮かび上がらせるとともに、各々の作品に新たな視座を与えているところです。同出版社と制作した作品集としては2作目となり、大御所作家と現代的なアプローチで写真集制作を行う独立系出版社によるコラボレーションの魅力も存分に感じられます。どの作品もユニークかつ挑発的であり、いま見ても新鮮さにあふれているので、現代写真に興味のある方には特にお手に取っていただきたいです。
タイトル | 『SCAPES』 |
---|---|
作家名 | ジョン・ディヴォラ(John Divola) |
出版社 | Skinnerboox |
価格 | 6,600円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ハードカバー/初版750部/287 x 248 x 17 mm/96ページ |
URL | https://www.iack.online/collections/all-items/products/scapes-by-john-divola |
IACK
2017年に写真家・河野幸人のアトリエとして石川県金沢市に設立。「開かれた書斎」というコンセプトのもとアトリエは週末に一般開放され、現代写真を中心とした作品集を手に取ることができる。ギャラリーとして企画展や、国外独立系出版社や自費出版作品のディストリビューション業務も行う。
〒920-0864
石川県金沢市高岡町18-3
https://www.iack.online/