昨年よりも行動制限が緩和され、さまざまな写真展やフェアの開催、海外アーティストの来日が増えたこの1年、写真集を扱う書店では一体どんな本が人気を集めたのだろうか? 今年も4つの書店に、写真集売上ベスト3といまオススメしたい1冊を紹介してもらった。第4弾は、代田橋に店舗をオープンして2年が経ったflotsam books。コンパクトなスペースでありながら展示も頻繁に行われ、写真を学ぶ学生から最前線で活躍する写真家までが集う書店として知られている。店主の人柄が滲み出る店内にぎっしりと写真集やZINEなどが並ぶ中、どんなタイトルが人気だったのか注目したい。
セレクト・文=小林孝行(flotsam books)
目次
▼1位
Taka Mayumi 『恋するトリコ』
日本のフォトグラファー、Taka Mayumiの初写真集『恋するとりこ』。Taka は約10年間活動してきたパリから2013年に拠点を東京に移し、今年でまた約10年が経とうとしています。本書は作家の20年以上に渡るキャリアの中で撮られた写真群から選ぶベスト盤的な写真集です。人、風景、ファッション、動物、花など自由に並べられた作品は心地の良いシークエンスを生みだし、優しく美しいイメージの洪水の中に誘い込んでくれます。274ページとかなりページ数も多く、見応えもあるので一回見ただけだとわからない感じもあって、ついつい何度も見たくなってしまう良さがあります。
タイトル | 『恋するトリコ』 |
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作家名 | タカ マユミ(Taka Mayumi) |
出版社 | Self published |
価格 | 8,800円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
▼2位
イェレナ・ヤムチュック『УYY』
ウクライナの写真家・アーティストのイェレナ・ヤムチュックの作品集『УYY』。タイトルの「УYY」はスラブ語で「ウクライナ」を意味するУкраїнаと、作家の名前Yelena Yemchukの頭文字を取ったもので「why-why-why」と掛けてるのではないかと思う。元々不安定だったロシアとウクライナの関係は、2022年のロシアの軍事侵攻によって世界的に注目を集めたこともあり、さらに意味深に見えてくる1冊です。写真作品と絵画作品が並置され、断片的なヴィジョンや儚い姿などが白昼夢のように散りばめられています。本書は作家であるフランチェスカ・トッデが立ち上げた出版レーベルDépart Pour l’Imageから出版されています。
タイトル | 『УYY』 |
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作家名 | イェレナ・ヤムチュック(Yelena Yemchuk) |
出版社 | Départ Pour l’Image |
価格 | 9,790円 |
発行年 | 2022年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
▼3位
ピーター・サザーランド『STREET LORDS』
昔からあちこちでストリート写真を撮っていた写真家、ピーター・サザーランドが、ばったり出会った友人たちに「ポートレイトを撮ってもいいですか」と話しかけて撮っているうちに出来上がった1冊。登場している人物たちは、サザーランドが住んでいたニューヨークを中心に、ロサンゼルス、ロンドン、東京、ソウルなどで撮られた写真家の交友録みたいな写真集になっています。「これはニューヨークへのラブレターであり、私が長年にわたって愛してきた、ほかの多くの都市へのラブレターでもあります」と写真家は語ります。
タイトル | 『STREET LORDS』 |
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作家名 | ピーター・サザーランド(Peter Sutherland) |
出版社 | Triangle books |
価格 | 5,720円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー |
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▼いまオススメしたい1冊
サビハ・チメン『HAFIZ』
2020年よりマグナム・フォト候補生となったトルコ出身の写真家、サビハ・チメンの初写真集。自身も通ったトルコのコーラン学校を3年間かけて撮影しています。タイトルの「HAFIZ」は、コーランの604ページすべてを暗記した人たちのことです。いままであまり知られることがなかったコーラン学校の少女たちの日常や夢を親密に描きだしています。2022年、 Paris Photo–Aperture PhotoBook Awardsのファーストブックアワードを受賞した1冊でもあります。
タイトル | 『HAFIZ』 |
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作家 | サビハ・チメン(Sabiha Çimen) |
出版社 | Red Hook Editions |
価格 | 13,200円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
flotsam books
2010年にオンラインストアとしてスタートし、2020年1月に実店舗を東京・代田橋にオープン。店頭では定期的に気鋭作家の展示が行われ、作家とファンの交流の場にもなっている。新刊から古書まで店主のセンスが光る品揃えの店内には、訪れる度にいつも新たな出会いが待っている。
〒168-0063
東京都杉並区和泉1-10-7
https://www.flotsambooks.com/