個性的なセレクトが光るブックストアが月替わりでおススメの写真集3冊を紹介。今月は新刊から稀少なヴィンテージブックまでが並び、作家と真摯に寄り添いながら定期的に展示も行う吉祥寺の書店「book obscura」。
セレクト・文=黒崎由衣(book obscura)
カメラが浮かび上がらせる光の絵
山西ももは「写真は光の鋳造物」だと仮定し、段ボールで作ったカメラの中に光を集め写真を撮る。彼女はこれまで鋳金を学んでおり、土で型を作りそこに金属を流し込んで作品を作っていたからこその発想なのだろう。金属だろうと光だろうと制作過程は、彼女からしたら同じなのかもしれない。「とにかく原始のやり方で光を集めたかった」と山西は話してくれた。写真には本来、「構図が」だとか「何が写っているのか」という前に「像が浮かび上がってきた喜び」があるはずだ。彼女の作品を観ていると、光の絵がどれほど美しいものであるかと同時に、浮かび上がるという写真特有の美しさを感じずにはいられない。山西のように0から1を作り出せる人は何より素晴らしいと思う。
タイトル | 『The Light / Mustang 光の王国』 |
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著者 | 山西もも |
出版社 | roshin books |
出版年 | 2025年 |
価格 | 6,200円(税込) |
仕様 | 80ページ / ハードカバー / 270 × 255 mm |
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撮った全てが「写真」になる作家の眼差しの記録
「カメラが壊れてしまったので40分、実質30分しか撮れなかった」。そう言って富澤大輔が作った写真集がこの一冊。富澤は近代稀に見る、大きくなりすぎてポートレイトやドキュメントなどに分類される前の「写真」という純粋な大枠で写真を楽しんでいる作家だ。「何が写っています」「何を写しています」というより、佐内正史や熊谷聖司のように「どこでも写真」になることを知っていて、それらが写真でしか表現できない世界だと知っていると言った方が良いのかもしれない。本書は彼が台湾に帰った数日のうちの1日(火曜日)、でしかも数十分で撮られたのだという。作家本人は見せることをとまどっていたが、撮った全てが写真になっている。作品とはそれにかけた時間が全てではないということが本書をご覧頂ければきっと解るはずだ。
タイトル | 『GALAPA Program No.8 火曜日』 |
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著者 | 富澤大輔 |
出版社 | 南方書局 |
出版年 | 2025年 |
価格 | 3,300円(税込) |
仕様 | 38ページ / ソフトカバー / 310 × 251 mm |
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12年間見続けた遠景に宿る引力
村越としやの風景写真は、いつも「雲」がドラマチックで見応えがある。しかし今回の作品では雲は存在せず、そこにあるのは画面を上下に割るようにまっさらな空と海だけだった。海は、押し寄せては引く波のせいか私たちを引き込む何かがある。この作品に引き込まれる理由は、紛れもなく村越が初期から「見続ける」ことを大切にしながら写真にしてきた作家だからだと思う。見続けてきたからこそ、鑑賞者も観続けていられる。12年同じ場所から撮り続けていたこの作品は「同じ場所で同じ機材を使えば誰でも撮れる」と村越は話す。果たして、私たちがこの作品を観て同じように撮ることができるだろうか。テキストも充実した読み応えがある1冊だ。
タイトル | 『こぼれ落ちる言葉はやがて海に還る』 |
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著者 | 村越としや |
出版社 | murakoshi toshiya factory |
出版年 | 2025年 |
価格 | 16,500円(税込) |
仕様 | 32ページ / ハードカバー / 357 × 246 mm / エディションナンバー入り / 蛇腹製本 / スイス装 |
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book obscura
吉祥寺の井の頭公園を抜けた先にある、写真集を専門にアートブックやリトルプレスを取り扱う古書・新刊書店のギャラリー。2・3週間に一度展示内容を変えて写真展を開催している。先人の写真家が作った写真集と一緒に新進気鋭な写真家の展示が見れる場所だ。
〒181-0001
東京都三鷹市井の頭4-21-5 #103
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