2019年はどんな写真集が売れたのだろうか? 2019年の売上ベスト3といまオススメしたい1冊を、4つの書店が紹介する。第2弾はひとつの出版社にフォーカスを当て、定期的にその刊行物を特集するユニークなブックショップPOST 。足を運ぶたびに新しいアートブックとの出会いを提供してくれるPOSTの今年のベストセラー写真集を見てみよう。
セレクト=中島佑介(POSTオーナー)
文=錦 多希子
シェルテンズ&アベネス『ZEEN』
オランダを拠点とするアーティストユニット・シェルテンズ&アベネスとPOSTは縁が深く、実は2012年に日本では初となる個展を開催しています。その彼らが本年3月にアムステルダムのFoam写真美術館にてひらかれた展覧会にあわせて、Caseより出版されたのが本書です。そして、6月に開催された本書の出版記念展では、約7年ぶりに彼らの作品を展示しました。本展では、本書の特色でもあるページ割りに着目した展示構成があらわれました。制作背景やジャンルを問わず、視覚的に類似する要素を持つ別個のイメージを並列することで、互いに思いがけない連想や関連性を生み出す。この掲出の仕方により、観るものは想像力を掻き立てられます。本書を通じて、彼らのユーモアを感じてほしいです。
タイトル | シェルテンズ&アベネス『ZEEN』 |
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出版社 | Case Publishing |
価格 | 5,400円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | ソフトカバー(エンボス加工・箔押し) |
URL |
ホンマタカシ『Every Building on the Ginza Street(通常版)』
ホンマタカシによるエドワード・ルシェのオマージュシリーズ第9弾となる本書は、本年3月に開催されたTOKYO ART BOOK FAIR Ginza Editionにて初めてお披露目となり、のちPOSTに巡回しました。オリジナルではハリウッドの街路であるサンセット・ストリップの1960年代の日中の街並みが繰り広げられる一方で、本作では舞台が通称・銀座通りに代わり、現代の銀座の夜景が続いていきます。本書の最後に続く空白は、銀座通りの全長が短いことに依るもの。こうした点からも、いかにオリジナルに忠実であるかというのが伺えます。なお会場では、一部ではルシェが参照したかもしれないと目される「銀座八丁」もあわせて掲出され、ルシェ・ホンマの比較のみならず、銀座の新・旧という観点からの比較にも感慨深さを覚えるようすを多く見受けました。
タイトル | ホンマタカシ『Every Building on the Ginza Street(通常版)』 |
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出版社 | POST / limArt |
価格 | 4,800円+tax |
発行年 | 2019年 |
仕様 | 蛇腹製本 |
URL |
Sophie Calle『Because』
本年初頭、フランスを拠点とするコンセプチュアル・アーティストのソフィ・カルの展覧会が都内各所で開催されたことが記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。本書は、ギャラリー小柳で発表された作品シリーズの、待望の英語版です。写真やことばといった表現手段を組み合わせながら、物語性の高い作品世界を紡ぐ。これが彼女ならではの手法ですが、観る者に痛烈な感情を湧きあがらせることにおいても、他の誰にも代えがたい圧倒的な力を持つ表現者です。ことばの断片により「理由」を得てから、写真イメージにありつくという本作の成り立ちを踏襲したブックデザインを採用する本書は、まさにアーティストブックといっても差し支えがないほど。コンセプチュアルな表現を尊重した作品集のあり方として、心から拍手を送りたい1冊です。
タイトル | Sophie Calle『Because』 |
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出版社 | Éditions Xavier Barral |
価格 | 6,200円+tax |
発行年 | 2019年(英語版) |
仕様 | ハードカバー |
URL |
▼いまオススメしたい1冊
ダン・エル・グリゴレスキュ 『Brancusi』
20世紀を代表するアーティストとの呼び声も高い、コンスタンティン・ブランクーシの手がける抽象彫刻は、極限まで削ぎ落とされることで素材感が際立つ、極めて独創性の高い表現に特徴を見出すことができます。実際、分野・年代を超えて、彼の作品世界に影響を受けたと公言する表現者も数多くいるほど。復刻版である本書には、初版の収録作品に加えて、撮影した写真家のアーカイブより厳選したイメージが加わり、より一層見応えのある内容となりました。一説によると、ブランクーシは自らの作品を見せるためには写真が最も適した方法だと述べていたそうで、光と影によって映し出される作品群をみていると、なるほど…!と納得することしかりです。本書を通じて、作品に宿る研ぎ澄まされた美意識を存分に感じ取っていただけたら嬉しいです。
タイトル | ダン・エル・グリゴレスキュ 『Brancusi』 |
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出版社 | Edition Xavier Barral |
価格 | 8,200円+tax |
発行年 | 2019年(英語版) |
仕様 | ハードカバー |
URL |
POST
2005年より恵比寿に洋書専門のアートブック古書店「limArt」を開店。2011年に代々木ヴィレッジ内に姉妹店「POST」をオープンし、出版社という括りで特集し、定期的にすべて本が入れ替わるプロジェクトが始動。2013年より旧・limArtの場所にPOSTが移転して以降は、出版社特集のほか、新刊と古書を展開している。また、店舗奥のスペースでは、本にまつわる展覧会を企画運営している。
〒150-0022
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2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。