24 June 2022

アートシーンが盛り上がりを見せる南仏の最新写真ニュース|フランス通信 vol.1

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フランス

24 June 2022

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アートシーンが盛り上がりを見せる南仏の最新写真ニュース|フランス通信 vol.1 | アートシーンが盛り上がりを見せる南仏の最新写真ニュース

© Loose Joints

フランスはコロナ渦から解放され、4月から屋内でのマスク着用義務も解除された。街も活気づき、世界中から観光客も戻ってきている。カフェやレストランのテラス席で日光を味わいながら日常を謳歌するフランス人は、美術館やアートイベントなどにも積極的に足を運んでいる。その中で、コロナ渦の影響により、経済的な理由や、リモートワークの可能性を見出したアーティストや美術関係者はパリから地方、特に南仏に移住する人があとを絶たない。移住地として、またバカンスのディスティネーションとして、とりわけ賑わっている南仏の3つの街をセレクトする。フランス最古の港町として有名なマルセイユ、南西部のトールゥーズ、ここ数年美術文化に力を入れるモンペリエ。その各都市での新しいスポットやこの夏一押しの展覧会を紹介したい。

文=糟谷恭子

1. 出版社Loose Jointsが主宰するブックショップ、ギャラリー「Ensemble」(マルセイユ)

「Ensemble」

© Loose Joints

マルセイユは、以前は治安の悪い街として知られていたが、2013年に欧州文化首都に指定されることで、地中海文明博物館(MuCEM)の建設や街の整備より、徐々に住みやすい街と変わっていった。また他の都市に比べて物価も安く、地中海に面し、年間を通して晴天が続くことから、コロナ渦で新境地を見出すことを決意した、アーティストや美術関係者にとって、最も人気の高い引越し先となっている。

素晴らしい作家のセレクトと、洗練されたデザインで質の高い写真集を制作することで知られる出版社Loose Jointsも、コロナ渦中にマルセイユに拠点を移した。昨年7月には、写真集専門のブックショップとギャラリーEnsembleを、紀元前から存在するパニエ地区と一番活気のあるビュー・ポート地区の間にオープン。Ensembleとはフランス語で「一緒に」という意味。世界で活躍するさまざまな写真家の写真集を厳選して集め、店内にディスプレイしているほか、展示スペースも設けられ、企画展が年に何度か行われている。またオランダのデザイナーKooijの家具も一緒に展示され、心地の良い空間に仕上げられている。

ギャラリー名

「Ensemble」

時間

13:00~18:30

休廊日

日月火曜

URL

https://ensemble.biz/

Loose Jointsを主宰するルイス・チャップリンとサラ・ピエゲ=エスプノン © Loose Joints

今年4〜5月に開催されていたTommy Smitsによる展示「Homo Dentis」 © Loose Joints

© Loose Joints


2. 川内倫子、水谷吉法らが参加する、鳥をテーマにした展覧会「Des Oiseuax」(トゥールーズ) 

© Yoshinori Mizutani / Atelier EXB, 2022 Tirage jet d’encre pigmentaire, 75x50cm.

© Yoshinori Mizutani / Atelier EXB, 2022 Tirage jet d’encre pigmentaire, 75x50cm.

トゥールーズ市は宇宙産業でとりわけ有名で、エアバス社も本社を構える。また赤レンガとテラコッタ瓦の建物が多いことから、「バラ色の都市(la ville rose)」と呼ばれている。2012年より、毎年6月に写真期間を設け、市内の至る所で写真に特化した展覧会が数多くオーガナイされている。

今年はフランスでも評価の高い、写真専門の美術館ギャラリーシャトードーで、グザビエ・バラル出版社との協力により、同社から「Des oiseaux」 という鳥をテーマとした写真集シリーズで出版した作家を集めて展示を開催中。パリのGalerie Vu(ギャラリー・ヴュ)の創立者でもあるクリスチャン・カジョールのキュレーションにより、今日、環境が大きく変化する中で生きる鳥たちの生命体をさまざまな角度から描写したイメージを鑑賞することができる。若手から大御所までのインターナショナルに活躍する写真家が「鳥」を観察し、それぞれのテイストで作品として提示している。日本からは川内倫子、水谷吉法が参加するほか、テリ・ワイフェンバック、ペンティ・サマラッティらが参加している。この後には9月からブラッセルの写真専門アートセンターのHangerに展覧会が巡回する予定。

タイトル

「Des Oiseuax」

会期

2022年6月3日(金)〜8月21日(日)

会場

Chateau d’eau Tolouse ギャラリー・シャトードー(トゥールーズ)

時間

13:00~19:00

休館日

月曜

URL

https://www.toulouse.fr/web/cultures/lieux-d-expositions#/event/47285/Des%20oiseaux?_k=u05p8i

© Paolo Pellegrin-Magnum Photos /Atelier EXB, 2022 Sans titre, Kyoto, Japan. Tirage jet d’encre piezographie, 90 x 120cm

© Rinko Kawauchi / Atelier EXB, 2022, sans titre, de la série « Under the same sky », 2020. Tirage lambda, 33,3x50cm

© Terri Weifenbach / Atelier EXB, 2022 sans titre, Washington, D.C., États-Unis, 2016. Tirage jet d’encre pigmentaire, 33x48,3cm


3. ピーター・リンドバーグのレトロスペクティブ展「Devenir Peter Lindbergh」(モンペリエ)

Peter Lindbergh, Amber Valletta, New-York, 1993

Peter Lindbergh, Amber Valletta, New-York, 1993

学生都市として知られるモンペリエは、5、6年程前から写真、現代美術に力を入れ、2028年に欧州文化首都を目指し、クオリティーの高い展覧会や美術イベントなどを開催し続け、さらなる盛り上がりを見せている。2019年には世界的に有名なキュレーター、ニコラ・ブリオが「MOCO(Montpellier Contemporain)」という名前で、公立モンペリエ美大と美術施設を統合し、現代美術館「Hôtel des collections」、アートセンター「La Panacée」のふたつをオープンさせている。1回目の展示には日本から長谷川祐子がキュレーターとして招かれ、公益財団法人石川文化振興財団の所有するコレクション展を企画したり、フランス国内の作家にとどまらず、世界各国から作家を召喚するなど、とりわけダイナミックな動きを見せている。

モンペリエ市には市が運営する写真に特化したアートセンター「Pavillon Populaire」が存在する。今夏は2019年に急逝したピーター・リンドバーグのレトロスペクティブ展を開催する。ファッションフォトを芸術の域まで押し上げたのがリンドバーグ。写真家になる前は、美大でペインティングやコンセプチュアルアートを学び、その経験がほかのフォトグラファーとの違いを生んだともいえるだろう。これまでのステレオタイプな女性像を打ち破った彼は、型にはまった美しさではなく、「自分自身であること」をモットーに、ナチュラルで解放された自由な女性を表現した。彼のミューズとしてケイト・モスやアンバー・ヴァレッタなど、スターダムに上がっていったスーパーモデルも数多い。リンドバーグが描く、歳を重ねることを恐れず、ありのままを受け入れる女性像は、現代を生きる私たちに勇気を与えてくれることだろう。

タイトル

「Devenir Peter Lindbergh」

会期

2022年6月23日(木)〜9月25日(日)

会場

Pavillon Populaire(モンペリエ)

時間

11:0013:0014:0019:00

休館日

月曜

URL

https://www.montpellier.fr/506-les-expos-du-pavillon-populaire-a-montpellier.htm

Peter Lindbergh, Kate Moss, New-York, 1994 Peter Lindbergh, Marie-Sophie Wilson, Tatjana Patitz & Lynne Koester, Le Touquet, 1987

Peter Lindbergh, Hommage a Pina Pauch, Paris, 1997

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