有数の写真コレクションを誇るメトロポリタン美術館写真部に、エグルストンが1965〜74年に制作した2200点にわたる「Los Alamos」シリーズから厳選されたポートフォリオが寄贈された。これを記念して、ニューヨーク市では初めて、エグルストン・アーティスティック・トラストが制作した75点を公開する展覧会を開催。プリントはカラーネガから印刷されたダイ・トランスファー・プリントである。ギャラリーの外側の壁には、同時期に撮っていたモノクロ写真も10点ほど展示されており、カラーからモノクロに移っていく過程を見ることもできる。
この展示の白眉は、1965年に故郷メンフィスのスーパーマーケットで撮った初めてのカラー作品が含まれていることだ。さりげない若者の横顔が強い西陽で浮かび上がる。撮影旅行はさらに、そこから南のミシシッピ・デルタ、ラスベガス、南カリフォルニアへと延びた。その途中でシリーズ名となったロス・アラモスも通った。
展示会場の中と外。外の黄色い壁の部分にモノクロ作品が展示されている。
ニュー・メキシコ州にあるロス・アラモスは、日本への原爆投下前に核実験を行った国立研究所で知られる場所だ。エグルストンはそのことを意識していて、撮影旅行に同行したキュレーターのウォルター・ホップスによると、その研究所の前を通ったとき「こんな秘密のラボがほしいもんだ」といって笑ったそうだ。
それぞれの作品の間には、いくつかエグルストンの率直ながらその写真哲学を学べる言葉も挟まれている。「モノクロでできることはカラーでもできると思ったが、大変なことだとすぐに学んだよ。むき出しのものだけ。そうでなければならないがね」。「赤は扱うのがとてもむずかしい色だ。なぜかわからないが、まるで他の色と闘っているみたいだ」。「いつ、どこで、どうして撮ったんだと、被写体についてよくきかれるが、何であろうと、ただそこにあっただけ」など。
カラー写真の両巨頭であるエグルストンとスティーブン・ショアの個展がニューヨークで同時開催されるのは珍しいことだ。実は、ショアの個展で展示されている「アメリカン・サーフィシズ」の最後の一枚は車中のエグルストンをとらえたもの。これを支点に、二人のロードトリップ表現の違いを探るのもひとつの見方である。
中央のケース内にポートフォリオが置かれている。
Photos and text by Yuriko Yamaki
タイトル | ウィリアム・エグルストン「Los Alamos」 |
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会期 | 2018年2月14日(水)~5月28日(月) |
会場 | メトロポリタン美術館(アメリカ) |
URL | https://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2018/william-eggleston-los-alamos |
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。