アメリカの中北部に位置するミネソタ州一の都市ミネアポリスは、製粉業の成功による富で各種の芸術が発展した街である。19世紀末に開設されたミネアポリス美術館は、この地域最大の規模を誇る総合美術館。古典から現代アートまで幅広く展示し、日本美術の収蔵も多い。
ここで畠山直哉の個展が開催された。畠山は、国内外で数多くの個展やグループ展を開いてきたが、今回の個展は作家の30年以上に渡る仕事を網羅的に振り返るのではなく、展覧会名「未来都市を掘り起こして」が示唆するテーマに沿って厳選された90点をふたつのギャラリーで見せた。
会場に入ると、まず2枚の石灰石の爆発写真「Blast」が目をとらえる。初期のシリーズで、第22回木村伊兵衛賞受賞につながった「ライム・ワークス」の関連作品だ。このコーナーは、その前の「ライム・ヒルズ」と共に、作家が故郷の工場に関心を持ったことがきっかけで始まった各地の石灰石とその鉱山の写真で構成されている。
次のコーナーでは、夜の渋谷川や暗いトンネル内部、山手通り、都市の俯瞰図と、ミクロとマクロでとらえられた東京が焦点に当たる。都心部を5枚の続き写真でとらえた「東京森ビル」を見ていたある鑑賞者は、東京の巨大さに驚嘆の声をあげた。この美術館がある人口42万人の小都市の規模からすれば、東京は想像を絶する大きさである。畠山のテーマである「都市と自然」も、鑑賞者の体験次第で違う印象をもたらすことは明らかだ。
仕切りを超えた先は、作家の故郷である陸前高田が津波に襲われた直後から2016年までの風景作品と、津波前の同地のスナップショットをスライドショーにした「気仙川」で構成されており、当展覧会の3分の1のスペースと作品数を占めていた。ここでも鑑賞者が、この災害、あるいは何かしらの自然や人的災害に遭遇したり関心があるか否かで、展示作品への入り込み方が変わってくることが容易に想像できる。
Naoya Hatakeyama, born 1958 12/07/2014 - KesenchÔ-Atagoyama, from Rikuzentakata, 2014 Chromogenic print 17.48×21.65(inch)(print); 20×24(inch)(paper) Minneapolis Institute of Art The Ted and Dr. Roberta Mann Foundation Endowment Fund 2017.13.7
ボストンとニューヨークで開催された東北大震災への各写真家の反応を集めた重要なグループ展「In the Wake」でも展示された作品を含む、30点ほどの被災地の写真はいまも心に響く。叙情的な趣もある「気仙川」と比較して観るとなおさらだ。しかし被災から5年後までの移り変わりを何度も眺めているうちに、まるで輪廻のごとく、街が悲惨な状況から脱して再生していることに気づかされる。「気仙川」に登場するのと同様の祭りの列とそれを取り巻く緑に、人や自然が持つ回復力も感じられる。
その自然な営みの様は、ふたつめのギャラリーの突き当たりに展示されている「無題」に集約されている。東京と横浜の高層ビルから撮られた96点の都市風景の組写真によるこの作品は、津波以前に完成したが、そこで示されているのは移ろいゆく都市の姿だ。隣に展示されている解体前後の大阪スタジアムの写真2点も、圧倒的なスケールで建築物の生と死を見せつける。同時に死は新たな生も予感させる。
二度と津波災害に遭わないために、海岸や河岸のそばではなく山を新住宅用に造成する光景は石灰石鉱山のようだったと、作家も自ら語っているが、故郷の被災という衝撃的な出来事の記録が、作家が長年追求してきたテーマに円環をもたらした、と感じさせる展覧会だった。
Text by Yuriko Yamaki
タイトル | 「Escavating the Future City」 |
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会期 | 2018年3月4日(日)〜7月22日(日) |
会場 | ミネアポリス美術館(アメリカ) |
URL | https://new.artsmia.org/exhibition/excavating-the-future-city-photographs-by-naoya-hatakeyama/ |
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。