ホテル、カフェ、ヘアサロンなどを始めとして、近年では公共施設や医療機関などでも「写真を飾る」インテリアが少しずつ見受けられるようになってきた。そのような店舗や施設ではどんな作品を、どのような目的で飾っているのか。取材を通じて、アート写真の購入や飾り方についてのヒントが得られればと思う。第1回は、東京・原宿のセレクトショップ「インターナショナルギャラリー ビームス」を訪れた。店舗ではイギリスのフォトコレクティブ「rockarchive.com(ロックアーカイブ社)」の作品を展示、販売している。服を売る店がなぜアート写真を取り扱っているのか。バイヤーを務める関根陽介さんに話を聞いた。
文=加瀬友重
写真=山口賢一(JAMANDFIX)
インターナショナルギャラリー ビームスはファッションのショップである。それも最先端のブランドを数多く揃えるセレクトショップだ。この店でアート写真が販売されていることは、一般的な客はもちろん、服好きの間でも意外に知られていない事実ではないだろうか。
「アート写真を販売し始めてから、実はもう10年になります。『rockarchive.com』は、主に1960~70年代のジャズやロックミュージシャンたちの写真を扱うイギリスのエージェント。社主はジル・ファマノフスキーという女性で、彼女自身も60年代にジミ・ヘンドリックスのツアーに同行した経験を持つ、筋金入りのロックフォトグラファーなんです。いまもオアシスを始めとしたビッグネームたちと交流があるとか」
インターナショナルギャラリー ビームスに展示されている「ロックアーカイブ社」の作品
そう教えてくれたのは、インターナショナルギャラリー ビームスのバイヤーを務める関根陽介さんだ。ビームスは2008年に「rockarchive.com」の日本の代理店となり、インターナショナルギャラリー ビームスのみでその作品を販売する、という契約を結んでいる。つまり日本国内で「rockarchive.com」の写真を購入しようとすれば、基本的にこの店で買うしかないのだ。
「店に展示している写真ももちろん購入できますが、基本的には見本としてピックアップしたもの。本国のサイトには数千点に及ぶ作品があります。欲しい作品のサイズを選んでもらって、インターナショナルギャラリー ビームスを通じて注文するというわけです」
ファッションと音楽はとても関係の近いカルチャーだ。コレクションのランウェイには四つ打ちのテクノミュージックが流れ、デザイナーたちの多くがクリエイションやコンセプトのヒントは音楽にあるといってはばからない。そう考えると、日本のリアルファッションを40年以上にわたって牽引し続けてきたビームスが、音楽を感じるアート写真を販売することは実は不思議でもなんでもなく、むしろ自然なことだ。
「音楽からファッションに入っていった人は結構多いと思うんです。例えば僕くらいの40代半ばの人間は、レゲエ、パンク、グランジから古いところではビートルズまで、いろんな年代の音楽をいいとこ取りで聴いてきました。その世代のブランドのデザイナーやディレクターと海外で話していても、自分と同じようなミュージシャンが好きだったり、影響を受けていたり。ファッションをやっていくうえで、音楽は隣り合わせにあるものだと思っているんです」
バイヤーの関根陽介さん
「本格的にアート写真を売る」いうよりは、あくまでファッションとの関係性の中で販売していこう、というスタンスだ。「日本においてアート写真は、ヨーロッパのように“ジャンジャン売れる”ものではありませんからね」と関根さんはいう。店にディスプレイしてあるレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の写真に感銘を受けて購入する人もいれば、1枚手に入れたあとに2枚、3枚と少しずつ買い足していく人もいる。事務所に飾るために20枚まとめて買う人もいる。10年間「マイペースで売れている」そうだ。
「基本的には洋服のバイイングと同じで、自分自身が『これはいい』と思うからアート写真を売っているわけです。特に店頭で展示する分の写真は、自分が通ってきた、影響を受けてきたミュージシャンをセレクトしています。そうしないと熱い気持ちで紹介できませんからね。5、6万のジャケットを1着買うのであれば『同じくらいの値段で、たまにはアート写真もどうでしょうか』と。それも若い人にこそ勧めたい。自分が好きなミュージシャンであれば、まさに一生ものだと思うので」
エディションが100までのシリーズはデジタルファインアートプリント方式。サイズは基本的にA3~A0までの4種類となる。一番よく注文されるサイズはA2だそう。「せっかく買うなら少し大きなものを」という人が多いのだとか。ちなみにエディションが30までの作品は希少性の高いものばかりで、価格も高額だ。150年以上の寿命を持つというシルバーゼラチンファイバープリントで仕上げられる。こんなロックなアート写真は、いったいどう飾るのがいいのだろう。
「僕個人の考え方で恐縮ですが、例えば1,000円で買ったポスターと一緒に並べてみたり、壁掛けしてみたり、床に置いてみたり…。ある意味逆説的なのですが、あまり“お洒落にならないように”飾っています。というのは、好きなスニーカーを買うのと同じ感覚で(アート写真を)買っていますので、どちらかというと雑然と並べてあるような感じがいい。ジーンズとかサングラスと同じような感じで、ポンとそこに“在る”感じがいいのかもしれません。
これも個人のことですが、寝室にはA1サイズのカート・コバーンの横位置の写真を、クローゼットには好きなアーティストのA3サイズを何枚か飾っています。でもこういう写真が目に入るだけで、『よし、今日もやるか!』みたいな気分になるんです。まずは一枚でいい。こういう写真が家にあると、絶対に何かが変わってくると思います」
店舗名 | |
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時間 | 11:00~20:00 |
定休日 | 不定休 |
URL |
*「rockarchive.com」の作品の価格はレートにより変動するが、約5万円~(額装費は別途)。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。