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奥山:写真について考えてはいますが、最終的にどういう展示にする、本にする、などといったアウトプットまでを考えて撮ることはほとんどないです。やりながら撮ったあとにどうして撮ったのか、自分にとっての写真は何なのかとかを反芻します。常に言葉にしようという気持ちはあるのですが、でもすべて理解できることはほとんどなくて。
光田:撮る前からわかってしまっていたら、言葉で説明するだけでいいわけですから。撮ったものと改めて出会い、それが何かを考えることからしか、作品は出来ない。
奥山:自分が無意識にやってしまっていることに、本質的な答えが潜んでいると思います。撮ったものに対してしっかりと目を凝らすのは体力のいる作業。写真を始めた頃は、この作業をあえてやらないようにしていた時期もあって。今回はそうではなくて、しっかり撮ったものを自分の中で言葉にすることや、考えを詰めてから本を編集したり、展覧会の構成を組み立てようと思いました。以前の作品『BACON ICE CREAM』では、自分の頭の中で浮遊しているイメージをできる限り言語化しないで、まとめたときにどういうものが生まれるのか、そこからどういう言葉が出てくるのかを長い目で待つ作品を作ろうとしていました。
『BACON ICE CREAM』奥山由之(2016年、パルコ)
光田:『BACON ICE CREAM』のときは直感的な感覚を大事にして編まれていると。奥山さんにとって一枚一枚の写真は自分の中で独立したものですか?
奥山:今回の作品が分岐点になっていて、一枚一枚の独立は以前よりも強くなっていると思います。ただこれまでは、それぞれに全く違った意味合いを持つ写真の集合体、ではなく、全体でもってひとつの解を導いていくような、従属性の高い写真が多かったと思います。
光田:『BACON ICE CREAM』は写した時間、その場所、その瞬間がキラッときらめいていて、それがリズミカルにつながり、全体としてひとつの何かを作っていく感じです。今回はシークエンスにストーリー性がありますよね。
奥山:4章に分かれていますが、章ごとに見てもらいたい内容があって、より自分の意図が明確になってきている気がします。ソリッドになってきているというか。
左の壁面が3章、右の壁面が4章
光田:シークエンスの有無は大きいですね。瞬間に意味を越えた価値を置くのがスナップショットだと思うのですが、それが集まることで撮影者独自のものが出てくる。今回はドキュメンテーション的な要素もありますね。シークエンスとか人とか場所とか、個々の出来事を撮影することで、奥山さんはこれまでとは写真への態度を変えられたのかなと思いました。
奥山:写真への向き合い方は、この村での撮影をきっかけに無意識的に変わったと思います。その変化に対しての怖さも感じたのですが。
光田:これから活躍していく作家なので、スタイルを固めていく必要はないと思います。ここでは家族や、自然の中で生きることがテーマというわけではなく、抽象度の高い作品になっています。1章と3章は人物の写り方も非実体的だし、2章と4章は少し実体的で、体温がある。先に言及された球体というのは、人間関係の円あるいは縁ということですか?
奥山:2章と4章は生活を描くときに、希望に向かうことやポジティブな面だけではなくて、生と死が表裏一体で循環していくことを描こうと思いました。哲朗さんは長野に身体的に引き寄せられて移住して、そこへ自分も引き寄せられて通うようになった。引き寄せられる何かが球体的に形を成している。そのことは人が生活していく上ですごく大事なことだと僕は感じています。今回はそういった感覚を想起させる写真を、多く取り入れたいと思いが強くありました。
▼写真展 | |
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タイトル | |
会期 | 2017年11月18日(土)〜12月24日(日) |
会場 | Gallery 916(東京都) |
時間 | 11:00〜20:00(土日・祝日は18:30まで) |
休館日 | 月曜(祝日を除く) |
入館料 | 【一般】800円【大学生・シニア(60 歳以上)】500円【高校生】300円【中学生以下】無料 |
URL |
▼写真集 | |
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タイトル | 奥山由之 『As the Call, So the Echo』 |
出版社 | 赤々舎 |
発行年 | 2017年 |
サイズ | ハードカバー/254mm×220mm /168 ページ |
URL |
奥山由之|Yoshiyuki Okuyama
1991年東京生まれ。2011 年『Girl』で第34 回写真新世紀優秀賞受賞。 2016 年には『BACON ICE CREAM』で第47 回講談社出版文化賞写真賞受賞。著作は他に『THE NEW STORY』(15 年)、『march』(15 年)、『君の住む街』(17年)などがある。主な個展は、「Girl」Raum1F(12 年)、「BACON ICE CREAM」パルコミュージアム(16 年)、「THE NEW STORY」POST(16 年)、「Your Choice Knows Your Right」REDOKURO(17 年)、「君の住む街」表参道ヒルズ スペースオー(17年)など。本展覧会に併せて写真集『As the Call, So the Echo』を赤々舎より出版。
光田由里|Yuri Mitsuda
写真と近現代美術史を専門とする美術評論家。現在はDIC川村記念美術館学芸員(2015-)を務める。京都大学文学部を卒業後、富山県立近代美術館(1985-1989)、渋谷区松濤美術館(1989-2013)を経て現職。近年の主な展覧会企画は、『美術は語られる ―評論家・中原佑介の眼―』(DIC川村記念美術館、2016)、『The New Word to Come 日本の写真と美術の実験』(ジャパン・ソサエティー、グレイ・ギャラリー、ニューヨーク、2015)、渋谷区松濤美術館時代には、『ハイレッドセンター・直接行動の軌跡』(2013-14)、『岡本信治郎 空襲25時』(2011)、『野島康三 作品と資料』(2009)、『中西夏之新作展 絵画の鎖・光の森』(2008)、『大辻清司の写真 出会いとコラボレーション』(2006)、『合田佐和子 影像』(2003)、『女性の肖像 日本現代美術の顔』(1996)など。著書に日本写真協会学芸賞を受賞した『写真、芸術との界面に 写真史 一九一〇年代−七〇年代』(青弓社、2006)や、『高松次郎 言葉ともの−日本の現代美術1961-72』(水声社、2011)などがある。
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2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。