Interview
Pierre Rainero

「カルティエ、時の結晶」展で感じるラグジュアリーの本質。メゾンが追求する二つのこととは?
時間を横断する展示空間は、新素材研究所 / 杉本博司+榊田倫之がデザイン

24 October 2019

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「カルティエ、時の結晶」展で感じるラグジュアリーの本質。メゾンが追求する二つのこととは? | ピエール・レネロ

創業172年のジュエリー、カルティエ。その威厳とクリエイティヴィティを実感できる展覧会「カルティエ、時の結晶」が12月16日まで国立新美術館で開催中だ。時間とラグジュアリーを思考する機会だろう。

日本において4回目となるカルティエ コレクションを集めた同展は、ハイジュエリーを「デザイン」という軸で概観する。会場構成を務めたのは杉本博司と榊田倫之率いる新素材研究所。アート、カルチャー、デザイン、ファッションフリーク全てのジャンルの人々にとって見逃せないエキシビションに仕上がっている。来日したカルティエ インターナショナル イメージ スタイル&ヘリテージ ディレクターのピエール・レネロに概要を訊いた。

取材・文=海老原光宏
ポートレート撮影=早坂直人(Y’s C)

カルティエをデザインで俯瞰し、時間で考える

いままでカルティエは世界中の美術館などで展覧会を実施してきた。今回は35回目となる。通常の美術展と同様にキュレーターの目を通し、展覧会を構成。これまではそのジュエリーの歴史的ストーリーを語る展覧会が多かったが、今回はデザインにフォーカスしたエキシビションとなっている。

展覧会に合わせ来日したピエール・レネロ。歴史的文化に造詣が深く、彼の眼を通さないで市場に出るカルティエのアイテムはない。

展覧会に合わせ来日したピエール・レネロ。歴史的文化に造詣が深く、彼の眼を通さないで市場に出るカルティエのアイテムはない。


「今展は、1970年代以降に製造した現代宝飾品と歴史的作品を共に展示します。国立新美術館キュレーターの本橋弥生さんが、色や素材などのデザインを軸にしたテーマを決めてくれました。展覧会は、序章と3つの章で構成されているのですが、これを考案してくれたのは、会場構成を担ってくれた新素材研究所の杉本博司さんと榊田倫之さんです。展示の順番は論理的でなければなりませんが、我々は“時間”という概念を見出したんです」とレネロは語る。

ジュエリーは、地球が非常に長い“時間”をかけて生み出したもの。そしてカルティエにとって時を刻む時計も主要アイテムの一つだ。展覧会は、杉本による逆進する時計作品『逆行時計』(2018年、個人蔵)から始まる。そして現れる序章「時の間」では、光の柱のようなヴェールの中に、ミステリークロック、プリズムクロックが一つずつ展示される。この序章を中心にして、1~3章が配置されていく。

第1章「色と素材のトランスフォーメーション」ではピーコックパターンといった極彩色の色合わせ、プラチナの使用など当時パイオニアとなったデザインをヒノキと御簾(みす)で仕切って展示。第2章「フォルムとデザイン」は、栃木の大谷石で構成した洞窟のような空間に、フォルムにフォーカスした宝飾品を紹介する。第3章「ユニヴァーサルな好奇心」は自然や動物、様々なカルチャーから着想を得た宝飾品が、彗星の軌道を表現した楕円形の什器に内包される。美術館の空間を生かしたダイナミックな展示だ。

ミステリークロック、プリズムクロックが展示される序章「時の間」。

古風な佇まいを感じさせる第1章「色と素材のトランスフォーメーション」。

石切り場のような空間の第2章「フォルムとデザイン」。

第3章「ユニヴァーサルな好奇心」では楕円の什器にコレクションを展示。

また、作品が飾られるトルソーは屋久杉や神代杉などを仏師が彫った特注品。展示什器の素材自体も「時」を象徴しており、カルティエの宝飾品たちを重厚に、力強くプレゼンテーションする。

「我々の期待をはるかに超える空間デザインです。美的にもコンセプトにも満足しています。我々の意図をよく理解してくれました。“結晶化”というデザインコンセプトは杉本さんがつけてくれたものなんです。新素材研究所とはディスプレイの手法や素材、光について何度も話し合いました」

杉本博司はアーティストとしての活動の傍ら、2008年に古素材を用いる建築設計事務所「新素材研究所」を榊田倫之と設立。古代、中世、近世の素材や建築技法を現代に受け継ぐ設計活動を行っている。現時点での集大成として、2017年に文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープンした。彼の写真から建築まで流れる一貫したテーマもまた「時間」だ。

「伝統と新しさが生きている江之浦測候所に共感し、新素材研究所に依頼を決めました。杉本さんの写真は『海景』や『劇場』など、光と時間を意識した作品が多い。また『建築』や『Stylized Sculpture』などのシリーズでは、被写体に歴史的概念を見出して撮っています。私たちの展覧会意図を理解してくれると思いました」と起用理由について話す。


カルティエの二つの機能

この圧倒的に豪奢で美しい宝飾品を作り出したのは、人間の手と地球だ。地球から自然発生した鉱石を人が貴び、人の手によって装飾品とされる。そこまで果てしない時間が掛かっている。ジュエリーになるまでが時の結晶なのだ。対して現代はデジタル化が進み、情報量が多く、時の進みが速い。この現代におけるジュエリーというラグジュアリーの極北はどのような価値を持つのだろう?

「常に美しいものを求めている。それがカルティエです」と話すレネロ。

「常に美しいものを求めている。それがカルティエです」と話すレネロ。

「逆説的ですが、そういうデジタルな世界は実世界をさらに高めてくれると思っています。いろんな分野で歴史的に繰り返してきたことではありませんか?例えば時計では、クオーツが発明され、機械式の価値が上がりました。時代のスピードが速くなればなるほど、確固たる価値が求められるようになるんだと思います。

カルティエの役割は二つあります。ひとつは、常に美しいものを求めていること。もうひとつは人々が欲しいと思うものをつくること。後者を可能にするには常に時代を先取らなければなりません。しかしこればかりは秘訣がない。あれば楽なんですけどね(笑)」

カルティエはひとつのデザインを仕上げるのに数年の歳月をかけることも当たり前。この言の通り秘訣があるわけではない。この展覧会に足を運べばわかるが、カルティエは先述の通り、当時あり得ない配色と目されていた青と緑を組み合わせたピーコックパターンやアールデコを先んじた直線的なデザインなど、自然に時代を先行してきた。展示の随所にこうしたメゾンの革新性が見られる。最後にお気に入りの展示を訪ねてみると、

「もちろんすべてなのですが、あえて一つ選ぶとなると……章の移り変わりに置かれた、カルティエのアイテムと古美術品が共に置かれたディスプレイですね。ぜひ注目して頂きたい」

章が切り替わるポイントに古美術とハイジュエリーが共に展示される。長い時間を経てきたことが共通するのか、違和感はない。

章が切り替わるポイントに古美術とハイジュエリーが共に展示される。長い時間を経てきたことが共通するのか、違和感はない。

このほかにも見どころは豊富。精巧につくり出された蛇、たわわに実るエメラルドにサファイア、ダリの絵画『記憶の固執』のような腕時計、ルイ・カルティエのアーカイヴ、もちろんアイコンのパンテールも。

人の手によって創造され、時間と素材という贅を尽くした装飾品は芸術へと昇華する。今後も朽ちることのない価値と輝きを放つカルティエのハイジュエリー。今展は本物の美に触れられるまたとない機会だ。

会場構成:新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

タイトル

「カルティエ、時の結晶」

会期

2019年10月2日(水)~12月16日(月)

会場

国立新美術館(東京都)

時間

10:00~18:00(金土曜は20:00まで/入場は閉館の30分前まで)

休館日

火曜

入場料

【一般】1,600円【大学生】1,200円【高校生】800円

URL

https://cartier2019.exhn.jp/