My Favorite Photobooks

vol.1 若木信吾がおすすめする写真集3選

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東京都

24 October 2019

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若木信吾がおすすめする写真集3選 | 若木信吾

私物の写真集から3冊を選んでもらい、その魅力について話を聞く連載企画「My Favorite Photobooks」。第1回目のゲストは、写真家でありながら映画監督としても活躍する若木信吾。東京を拠点としながらも、故郷・浜松に写真集専門の書店「BOOKS AND PRINTS」を運営する若木は、写真集のコレクションも多く、造詣も人一倍深い。自身が最近興味を持っているという、アンダーグラウンドシーンを再発見する写真集の醍醐味について語る。

文=錦多希子
写真=猪原悠

テーマ:アンダーグラウンド・アクティビティ

若木信吾の写真集との出会いは幼少期まで遡るため、定番のタイトルや思い入れの深い写真集はずっとあるが、最近はこれまでとは違う視点で写真集を集めるようになったという。若木が気になっている3冊に通底しているテーマ「アンダーグラウンド・アクティビティ」とは、普段は見えない都市の暗部やアンダーグラウンドカルチャーのこと。いずれも過去に撮られた写真が再発掘されて作られている。「共通しているのが、どれも写真集を作れるクオリティがある写真だということ。撮る側の意識が写真的な美を求め、撮る行為を通じて何か美しいものを体験しようという感覚があります。そういうものは、いずれ誰かしらの目に留まるのだと思います」。今回は、こうした集団の内側にいたからこそとらえられた記録者の視点が垣間見られる、3冊の写真集を紹介してもらった。

岩を登るロッククライマーのごとく、街の中を登る「シティクライマー」たち。19世紀末にはすでに存在していたが、1937年に同名の書物が刊行されたことを受けて、カルト的なムーブメントとなった。真夜中にケンブリッジ大学の建物の外壁を、命綱もない状態で登っていた青年たち。この仲間が撮影したアーカイブ写真をもとに、写真家であるトーマス・マイレンダーが一冊に再構成したのが本書となる。「クライマーと至近距離で撮影できているのは、カメラマンも一緒に登っているから。まだストロボのない時代に、定常光をバシッと当てているのにも驚きです」。造本もとても凝っていて、中面の文字まで真っ黒。ページの間には研究結果を記したメモと思わしきものが随所に挟み込まれている。上からのアングルでとらえた写真は最後の最後まで明かされないという、構成もユニークだ。「どうして登るのか?登ってどうだったんだろう? そのディテールが知りたい」。シティクライマーたちの果敢な挑戦は、若木のあくなき探究心をくすぐって止まない。

タイトル

トーマス・マイレンダー『THE NIGHT CLIMBERS OF CAMBRIDGE』

出版社

AMC(Archive of Modern Conflict)

発行年

2014年

仕様

ハードカバー(クロス装丁)


昨今1980年代の記録が写真集として改めて出版される傾向がある。この時代に青年期を過ごした若木の眼には、感慨深いものとして映っているようだ。「当時はすでに中高生だったから、このシーンのことを覚えていたりして、それが歴史的事実となって写真集になること自体が驚きですね。いま振り返ってみると、同時代にこんなことが起こっていたんだ改めて気づかされます。80年代って面白い時代だったたんですよね」。サンフランシスコのパンクカルチャーをドキュメントした本書には、有名無名を問わずさまざまなミュージシャンたちが登場する。「時代の中に入っているときは、写真は現実の強度に負けてしまう。けれど、時代が経つとどんどん写真のほうが強くなる。これを見ればパンクを聴かなくても、当時のパンクシーンがわかります。それがまとめられているって、ひとつの偉業だと思うんですよね。カメラを持って、バンドを追う人たちはどの時代にも必ずいる。その才能が現れた1冊です」。

タイトル

ルビー・レイ『Kalifornia Photographs 1976-1982』

出版社

TRAPART BOOKS

発行年

2019年

仕様

ハードカバー


かつてニューヨークのハドソン川沿いには、船着場=ピアが点在していたが、1970年代にハイウェイが崩落した象徴的な事故により、その時代に終わりを告げた。その後廃墟と化し、80年代にはゲイの人々が集まる発展場となった。ゲイたちの密会、ドラッグの売買、売春、そして自殺など、都市の闇を抱えたこの場所を、1970〜80年代にドキュメントしたこの写真集には、その時代の隠されてきたカルチャーがストレートにとらえられている。「ピアグループ」と呼ばれる集団のひとりだった写真家アルヴィン・バルトロップは、元海兵隊で、軍の撮影を任されていた。退任後はタクシー運転手のかたわら写真を勉強し直し写真家となった、異色のキャリアを持つ。「彼がこうした秘密の写真を撮り続けられたのは、『集まり』の中の人間だったからこそ。普通の人が怖いと感じる環境に、命の危険をさらしてでもその状況に飛び込むときには、ある種の背徳感と高揚感が混じる。そしてその向こうには快楽がある。彼は、個人的欲望を満たすことを求めて集まる人たちの瞬間を記録に残していたのです」。

タイトル

アルヴィン・バルトロップ『The Piers』

出版社

TF Editores

発行年

2015年

仕様

ハードカバー

若木信吾|Shingo Wakagi
写真家/映画監督。静岡県浜松市生まれ。ニューヨークロチェスター工科大学写真学科卒業。雑誌・広告・音楽媒体など幅広い分野で活動中。雑誌「youngtreepress」の編集発行を務め、浜松市の書店「BOOKS AND PRINTS」のオーナーでもある。映画の撮影、監督作品に「星影のワルツ」「トーテム~song for home~」「白河夜船」(原作:吉本ばなな)などがある。