29 June 2021

長山一樹
“プロになると決めたときからハッセルブラッドです”

私と愛機 vol.11~旬のフォトグラファーとカメラの関係~

29 June 2021

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長山一樹“プロになると決めたときからハッセルブラッドです” | 長山一樹

ファッション写真をメインに、最近ではYouTubeで話題の番組「THE FIRST TAKE」の撮影などでも活躍する長山一樹。スタジオで働いていた駆け出しの頃から現在に至るまで、彼が一貫して愛用してきたのはハッセルブラッドだ。しかし、現在計画しているプロジェクトでは、眠っていた8×10を取り出して新たな挑戦に取り組むという。

撮影=川島宏志
文=小林英治

「こう撮る」と意図を持って被写体と対峙する

―長山さんは永年ハッセルブラッドを愛用しているということですが、購入したきっかけは何でしたか?

ハッセルを使っているのは、写真専門学校を中退してスタジオマンとして働き出してからです。もともとは、専門の時に好きだった先生がカールツァイスオタクで、もろに影響受けてカールツァイス教にどっぷりつかっていたんです(笑)。それで学生時はCONTAXで全て揃えていたんですが、プロになる上で中判カメラが必要になった時、やっぱりハッセルだなと。最初に買ったのは503CWという機種で、それから中判はハッセル以外に所有したことがありません。

―ハッセルブラッドの良いところはどういう点ですか?

やっぱり、どしっと構えないと自分のやりたいことがブレてしまうので、被写体を真っ直ぐ撮る感じを覚えてしまうと、ちょっと煽ったりとか、対象をズラしたりとか、構図でいろいろやろうとしても違う感覚になります。結局センターでバシッととらえた方が強い写真になるんですよね。そういうことに気づいてからは、撮影前に意識して「こう撮る」と決めた方が結果良いなと思って。つまりスナップ感覚ではなく、ちゃんと意図があって、画角を決めるカメラということですね。35mmで慣れていると、ハッセルは機動力がないし遅いし、持ってるけど使わないという人も多いですけど、個人的にはその不自由さにネガティヴな印象はなかったです。

愛用するハッセルブラッドH6D 50C(左)と503CW(右)

愛用するハッセルブラッドH6D 50C(左)と503CW(右)


―良い意味での制約としてとらえられたと。物として好きというのもありますか?

それは確実にあります。やっぱり機械式を使うというのがそもそもテンション上がりますし、手で使うカメラというか、そういう感覚が好きでしたね。オートフォーカスのカメラも、ハッセルのデジタルを買うまでは持ってなかったんです。デジタルのハッセルの最初はH3Dという機種で、それから4、5、6と後継機が出るごとに購入して使い続けています。いまメインで使っているのがH6Dです。


1億画素の画像で作りあげたドキュメンタリー写真

―フィルムからデジタルの移行はスムーズでしたか?

すごくスムーズに移行しましたね。今後フィルムは減っていくだろうと思っていましたし、切り替えるタイミングがいつかみたいな感じだったんで。デジタルになってからは、例えば洋服の見え方のシルエットだったりシワの出方だったり、より細かいところをひとつひとつ詰めていけるので仕事だけで考えると、デジタルの方が精度が上がるとやればやるほど実感しました。そのため切り替えはめちゃくちゃ早かったですね。世代的にも、フィルムへの執着はなかったですし、むしろ早く自分のものにしないといけないという意識が強かったです。

―2018年には、ニューヨークの交差点から定点で撮影した超高解像度の画像を重ね合わせて1枚にした「ON THE CORNER NYC」という作品を発表されました。

あのときは、ハッセルブラッドのH6D-100Cという1億画素のデジタルカメラで撮影しました。すごく自分でコントロールしたドキュメンタリーを撮りたいなと思って、手前からロングまで超鮮明に見せたかったんです。

―一見スナップのようで、隅々まで計算された画面構成になっています。

イイなと思った交差点で三脚を立てて、自分の気になった人や瞬間を、光があまり変わらないうちに数十枚撮って、実際そこに写ったお気に入りのショットをいくつか重ね合わせることで、自分の中で一つの“時間”を作りあげたものです。実際にあったドキュメントだけど、ドキュメンタリー写真でイメージするスナップやノーファインダーというのとは真逆の方法で、超高解像度で、止まっていて、ちょっと絵画的に見えるものにしたいなと。

長山一樹

―その後もお仕事とは別に作品を何か撮っていますか?

最初はあの手法を続けようと思ったんですけど、飽き性というか、もう一回やったらつまらないなと思って。「ON THE CORNER NYC」は作品をやるためにどうしようというよりは、フッと湧いてきたんですよ。時期的には、仕事だけをやってることに対してのマンネリもあったし、全然違うことやりたいということもありました。その次の年は、ちょうどいまのスタジオを作ったりした年で、作品を撮るというよりも、全然違うヴィンテージ家具にハマって、日本中どこでもその話があれば飛んでいくようになりました。オーダーメイドのスーツに凝り始めたのも同じ時期くらいかな。だから物にハマっちゃったんですよ。

―そういった興味がその後の仕事につながっていった面もありますか?

ありますね。物にハマってから、より自分が好きなものとか自分ぽいものがハッキリしてきて、それを外の方にもインプットしてもらえるようになりました。表面的なことで言うと、例えばメンズでもカジュアルよりドレス寄りの仕事が増えたし、レディースでも大人っぽいものが増えました。自分が選ぶ物や装いをSNSでアウトプットしているから、いまはびっくりするくらい、何でこの仕事が自分にきたか、何を求められているかがすぐわかります。そういう感じによりなってきましたね。


物への興味のつながりから生まれた『大勉強』

大勉強

この『大勉強』というのは、石川県小松にあるPHAETON(フェートン)というセレクトショップが発行している本で、PHAETONのオーナーの坂矢さんと、小松に移住して編集長を務めるスタイリストの坂元真澄さんと一緒に作ってます。みんな物が好きで、坂元さんが「物にハマってる、スーツ好きな面白いカメラマンがいるよ」と坂矢さんに紹介してくれたんです。最初はファッションフォトだけの本を作ってたんですけど、だんだん発信したいコンテンツが増え『大勉強』のカタチになりました。ここでも全部ハッセルで撮っています。

―『大勉強』というタイトルが面白いですね。

「勉強」っていうのがPHAETONのコンセプトなんですよ。坂矢さんの買い物はいつも、買う前も後も勉強してる感じがします。「やっぱり大人になったら勉強したいよね」っていう人たちが集まってるので、「自分たちが勉強したいことをそのままやればいいんじゃない?」って方針で、半年に1号作っています。初号は北陸のガイドブック的なものとファッションを組み合わせて作ったのですが、2号目にいきなり「水」がテーマになって、最新刊3号のテーマはなぜか「宇宙」になりました(笑)。

―でも、すごいいまっぽいというか、そういう意味ではファッションですよね。

そう、これはこれでいまっぽいんですよ。東京のセレクトショップは似通っていくから面白くないと思っていて、アウトローで、外の方が新しい発見がある。実際坂矢さんと話していると、感受性が違うというか、東京にいたらこんな感覚にならないことを発言するし、物の集め方にしてもそう。そういう感じはある意味新しいし、結局、いまは東京のアパレルショップがこぞってこれをマネしちゃってるんで、PHAETONの方が早いなって思います。


木工作家との一発入魂のコラボレーション

―今後、取り組みたいテーマはありますか?

面白いことに、物をここ3年くらい掘り下げてきたなかで、いままた作品として撮りたいものが出てきました。ある木工作家さんと一緒にプロジェクトを進めています。

―どんな内容なんですか?

小山剛さんという木工作家さんがいて、お盆とかオブジェとかいろいろ作ってるんですけど、どれも1点もの。何を作るかは、自分がこの材に呼ばれてる、と思ったら、その材のここが好きというところを見つけて、それを中心に彫りはじめるんですよ。木と対話して、細かく彫っていった時間が「手の跡」として残っている。そういうのが気になるんです。SNSが当たり前になって、ヴィンテージの家具やスーツを気になりはじめたのは、その逆行みたいなところもありました。要は手間をかけることの方がどんどん魅力的になっていくというか、物に興味がわくと手仕事みたいなものに共感するんです。そこをもっと知りたい、見たいとなってきて、作業場に遊びに行ったりしました。ただ、作業現場をドキュメンタリー的に撮るのはスタイルではない。じゃあ何を撮るか?となったときに、自分は昔から木が好きで、「木と向き合う」ということをいつかやりたいとずっと思っていたことに気づいたんですね。それを小山さんと一緒にやったらいいんじゃないかと思ったんです。

小山剛さんによる木彫りの皿

作品も撮るんですけど、小山さんが材として木をどう見てるのかというのと、僕が被写体としてどう木を見るのか、そのかけ算をやろうと思っています。タイトルは「木写」です。小山さんには、普段の仕事と関係のない作品を自由に作ってもらいつつ、軽井沢の彼の工房にある縄文土器など作品のバックインスピレーション源と、彫る前の木の材そのものも撮ります。小山さんの作品も、僕がそれを写真にしたら、小山さんが思っていたイメージと全然違うものになっちゃう可能性もありますね。

―それもやはりハッセルブラッドですか?

いや、それが今回は違うんです。小山さんは、彫っていて、最後の止めどころをすごく悩むって言うんですよ。一回彫ったら後戻りはできないんで、下手したらすべてが無駄になるから、一刀一刀が超緊張するんです。僕もYouTubeの「THE FIRST TAKE」を撮影するようになって、一発に賭けるっていうことをここ1~2年やっているので、自分の写真でも一発入魂系をやりたいなと思っていたところなんです。そこでずっと眠らせているディアドルフの8×10を出して、この「木写」に関してはディアドルフ1機でやろうと思っています。フィルムは久しぶりだし、アナログだから撮影の自由度は無いし、現像するにもいまは高いし、その中でどうするかとても緊張しますね。

ディアドルフの8×10。木製ボディが味わい深い。

ディアドルフの8×10。木製ボディが味わい深い。

―それは楽しみですね。

このあいだ、木の材を借りてきて1回テストで撮ったんですけど、10枚に1枚しか使えるのが撮れなかった。単純に考えてものすごくお金かかるし、そのヒリヒリ感が結構ヤバいかなと(笑)。

―発表の形態としては写真集になるんでしょうか。

デバイスで見るっていうことがある意味当たり前になった時代に、写真集というものがそもそもいまっぽくないようにも感じられるけど、逆にいまだからできる可能性もあるなと思っています。デジタル上であまり感じられないものを残したい気分もあるので、紙や装幀にもこだわって、価格も上げて限定部数で作るのも良いかなと。夏から撮りはじめて、来年には何かしらの形にししたいですね。

長山一樹

長山一樹|kazuki Nagayama
写真専門学校中退後、株式会社麻布スタジオにスタジオマンとして入社。2004年 守本勝英氏に師事し、2007年独立。現在S-14 に所属。ファッション雑誌や広告、フォトブックなどコマーシャル界の第一線で活躍。スーツ姿にハット、ハッセルブラッドがトレードマーク。
https://www.ngympicture.com/
Instagram @kazuki_nagayama

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