8 August 2022

木村伊兵衛賞受賞!浅間国際フォトフェスティバルで吉田志穂にインタヴュー

8 August 2022

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木村伊兵衛賞受賞!浅間国際フォトフェスティバルで吉田志穂にインタヴュー | 吉田志穂 インタヴュー

3年ぶりに長野県の御代田町で開催中の「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」。浅間山の山麓で豊かな自然に囲まれた複合施設「MMoP(モップ)」を舞台に、国内外の作家の作品を堪能できる。出品作家であり、今回フェスティバルのために浅間山をモチーフに新作を制作したのは、今年木村伊兵衛写真賞を受賞した、注目の写真家・吉田志穂。山をモチーフに、リサーチを重ねて生まれる作品の制作背景や、アクリルを使ったインスタレーションの狙いなどを聞いた。

文=森かおる
写真=高橋草元

–今回の展示作品は2021年に木村伊兵衛写真賞を受賞した〈測量|山〉シリーズの最新作で、「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」のために浅間山をモチーフに作品を制作されたそうですね。

はい。浅間山をテーマに制作してほしいというディレクターからの依頼でした。私の制作の根幹には、いま目の前にあるものではなく、目に見えないものや存在しないものをどう撮るかということがあります。〈測量|山〉のシリーズは、山を撮影した写真がハードディスクいっぱいになるくらいまで溜まったときに、このハードディスクの中に山があると考えたら面白いなと思ったのがきっかけでした。その実体をもたない「山」をどうやったら写真にできるだろうか、と。

基本的なプロセスとしてはGoogle Mapで調べたり、インターネットで検索したり、現地の人に話を聞いたりしてリサーチを行い、山を撮影し、現像やプリントなどを組み合わせて作品にします。タイトルに「測量」とつけたのは、実際には存在しない「山」にかたちを与えていくこの作業に言葉を与えるとしたら「測量」だと思ったからです。今回の撮り下ろしも、こういったコンセプトに基づいて制作しています。

吉田志穂 インタヴュー風景


–どのように制作を進めたのか教えてください。

制作期間はかなり短かったのですが、計4回御代田に通って周囲のリサーチをしたり、写真を撮りました。経験上、テーマとする山そのものに登ることはあまり実にならないことがわかっていたので浅間山には登らず、その対面にある小浅間山に登ってみると見晴台に浅間山の歴史などが書かれた看板があって、浅間山が噴火した当時の写真がとてもよかったのでそれを撮影し、実際の景色を自分で撮影したものと重ねてイメージを作ったりしました。また、偶然にもかつてこのあたりを撮ったことがあったので、そのときの写真も重ねたり、組み合わせたりして、今回の作品に生かしています。

そして最終的にできあがったイメージをデジタルデータにし、ディレクターからの提案や、私も以前から興味をもっていたこともあり、アクリルに作品を印刷しました。これまでアクリルを使ったことがなかったので、印刷してみないとどうなるかわからないという実験的な面もありました。完璧に想定通りの仕上がりではありませんが、80%はうまくいったと思っています。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。


–イメージを重ねる作業はどのように行うのでしょうか。

透明なシートにプリントして、それを重ねて印画紙に露光をかけるというやり方です。デジタル合成はやらないようにしています。デジタルで重ねると、重ねた感じが明らかに出てしまうんです。アナログで合成すると画像が混じり合い、そのうえ合成したもののテクスチャーも拾うので、さらに深みが出ます。

プロセスが何重にも深まっていくにつれて、作品の内容もよくなっていくと考えているので、リサーチやイメージづくりをしたあとに一度か二度は必ずその場所へ戻り、プリントした写真を撮影した場所に置いてまた撮影するなど、さらに入れ子状にするようにしています。はじめは情報が少なくシンプルだったものが、情報が集積していくにつれて内容が厚くなり、見た目にも厚くなって、一層濃くなっていくのではないかと。

–次に、展示についてお伺いします。展示場所はまったくの屋外で、林の中ですね。作品は雨ざらしになり、風にも吹かれますし、人が触れたりさえするかもしれないという、ギャラリーや美術館とはまったく違う環境ですよね。

野外の展示は今回が初めてでしたが、やってみたいとは常々思っていました。不安もあったのですが、会場に来てみると自然の中だったので、透ける素材であるアクリルを使いましょうという提案をディレクターからいただいて、面白そうだと思って使うことにしました。

展示の意図としては、会場から浅間山が見えるので、アクリルに印刷した浅間山の作品から本物の浅間山が透けて見えるようなレイヤー感を会場に作りたいと考えました。展示をしてみると会場周辺の緑が透明のアクリルに透けて、印刷面の黒とのコントラストがいい具合になりました。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。


–作品から周囲の景色が透けて見え、まるで目の前の景色に階層ができているかのような不思議な感覚は、とても面白い視覚体験でした。

そう言っていただけるとうれしいです。理想としていたのは、見たことのない景色が作品として現れることによって、その場がまた新たな景色になることです。作品を会場に散らばらせて展示したのは、どのアングルから見ても作品が風景になるようにしたかったからです。なんとかうまくいったかなと思っています。

私はインスタレーションを作る作家ではありますが、室内で展示すると、どうしてももっとかちっとしてしまうというか、素材はこれ、内容はこう、と枠にはまってしまうのを窮屈に思うこともありました。今回野外で展示をしてみて、このくらいカジュアルでも面白いなと、勉強になりました。カジュアルさにはパワーがあるなと。触ってもいいくらいの展示もいいですね。今回の作品には、めくってもらうために中央にスリットを入れているものもあります。会期はひと月あるので作品が痛むことも想定していますが、それも面白いと思っています。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」での展示風景。

–普段展示されているギャラリーや美術館だと写真を好きな方が見に来ると思いますが、浅間国際フォトフェスティバルは家族連れなど来場者の客層もさまざまですね。

自分の展示会場に子どもが歩いているのを見たのは初めてでしたが、いい光景だと思いました。普段見てくれている方にももちろん見ていただきたいですが、いろいろな方に見てもらえるのはうれしいですね。

–今後の展開について考えていることがあればお聞かせ下さい。

私は、作品を使ってまた別の作品を作るということをよくやります。たとえば、インスタレーションビューを撮影したものをそのまま作品化してプリントにするとか。今回もアクリルのシートに印刷した作品をもらって帰って、何らかのかたちで次の作品を作れたらと考えています。

–モバイルプロジェクターを山へ持っていき、作品を岩肌に投影してそれをさらに撮影するなど、新しい機材や技術も積極的に取り入れておられるそうですね。

はい。アナログに固執して、カメラはもちろんフィルムで、プロジェクターを使うとしてもフィルムを入れて使うスライドプロジェクターを選んでいた時期もありました。でも、アナログとかデジタルとか、いい意味でどうでもいいと思うようになってきたんです。メイン機はフィルムカメラですがデジタルカメラも使いますし、モニターも、それにiPhoneを額装したりもします。使えるものは何でも使おうという気持ちです。自分で設定してしまっていた縛りから解放されたら、より自由に制作できるようになりました。

最近のフィルムはあまり質が良くなく、温度の変化によってベタついて現像ムラができてしまったりするのですが、そこがいいと思うときもあります。もちろんいい方向に作用する場合ばかりではないのですが、フィルムを使うと予定調和ではないことが必ず起こります。一方で、こんなところまで写ってしまうんだと思わされるデジタルカメラの精密さも、気持ちが悪くていいと思うときもあるんです。なるべくいろいろなものを使って、デジタルもアナログもないまぜにして、見たことのない新しいものを創造していきたいと考えています。


タイトル

「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA」

会期

 2022年7月16日(土)~9月4日(日)

会場

メイン会場「御代田写真美術館」|MMoP(モップ)周辺
(〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町馬瀬口1794-1)

時間

10:00~17:00(屋内展示は最終入場16:30まで)

定休日

水曜(8月10日を除く)

入場料

一部有料

URL

https://asamaphotofes.jp/

Shiho Yoshida |吉田志穂
1992年千葉県生まれ。東京都を拠点に活動。2014年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。2014年「第11回写真 1_WALL」グランプリ受賞。2017年「第11回 shiseido art egg」入選、2018年「Prix Pictet Japan Award 2017」ファイナリスト。主な展覧会に「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」東京都写真美術館(2021)、「あざみ野フォト・アニュアル とどまってみえるもの」横浜市民ギャラリーあざみ野(2021)、「TOKAS-Emerging 2020」トーキョーアーツアンドスペース本郷(2020)、「Quarry / ある石の話」ユミコチバアソシエイツ(2018)。2021年に写真集『測量|山』をT&M Projectsより刊行。2022年に第46回木村伊兵衛写真賞受賞。

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