30 January 2023

ウィーン・フィルのヴァイオリニストがトップ指揮者をとらえた写真展がライカで開催中

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東京都/京都府

30 January 2023

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ウィーン・フィルのヴァイオリニストがトップ指揮者をとらえた写真展がライカで開催中 | ウィーン・フィルのヴァイオリニストがトップ指揮者を捉えた写真展がライカで開催中

ヴァイオリニスト、ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルクによる写真展「Living Music & the never-ending pursuit of the ideal」が東京、京都のライカギャラリーで開催されている。彼は世界トップの管弦楽団ウィーン・フィルハーモニーに所属。日々やって来る名だたる指揮者やソリストたちと共に演奏し、シャッターを切ってきた。写真展にはヘーデンボルクにしか撮れないアングルのモノクロのマエストロが並んでいる。彼は楽団のリハーサル時に、主にヴァイオリン席から撮っているのだ。小澤征爾、ヴァレリー・ゲルギエフ、リカルド・ムーティなど演奏会の記録写真とは異なる、より近い表情の音楽家たちはクラシック音楽ファン必見だろう。なぜ一流オーケストラの演奏家が写真を撮るのか?聞いた。

撮影=竹澤航基
取材・文=IMA

理想を追求する音楽家の一瞬を撮る

ーまず、ウィーン・フィルを撮影することになったきっかけを教えてください。

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

私は22歳でオーケストラに入団しました。定年の65歳まで43年という長い期間があります。この間、楽団でさまざまな出来事が流れていきます。しかし、メモや手紙など以外の記録が全くありませんでした。これはもったいないことと思い、趣味のカメラで撮ろうと思っていたんです。

でも、最初はなかなか難しいことでした。演奏している舞台にカメラがあることは違和感がありますよね。私が写真を撮ることを認知してもらうのに少し時間がかかりました。

リハーサルや演奏会前にカメラを持ちだしたり。私は楽譜担当で、指揮者と話すことが多いのですが、打ち合わせの時に、「今日写真撮りたいんですけどいいですか?」と話して、段々認知されていきました。「後で写真見せて」や「今日いいカットあった?」と自然に聞かれるようになって違和感が無くなって、今に至るまで撮り続けています。

―本展には数々のマエストロが並びます。何を表現したかったのでしょうか?

理想の音楽を追求している音楽家たちの瞬間を1枚に収めたかったんです。私にとって音楽は仕事というより、人生みたいなもの。展覧会名も今申し上げた通りの意味です。

人生は、いわゆるこの瞬間を生きること。瞬間は飛び去って行くものであって、それをいかに捉えられるのか。この瞬間、我々音楽家は理想の音楽を追い求めています。決してたどり着かないだろうけど、その追求しているときの感情をいかに写真に焼き付けるか。演奏中の楽団の中にいる私に撮れる特別な瞬間です。

そしてその写真を見てくれた方に、私がいた当時の瞬間を経験してほしい。もちろん動画を見る、録音を聴けば経験できるかもしれない。でも写真を見ることで想像してほしい。だから展示作品には、曲名を掲げています。

誰が、どこで何をしているかという情報も大事ですが、曲名で想像してほしいんです。曲を知っている人は想像しやすいけど、知らない人はその曲を聴かないとわからない。そこに作品と鑑賞者のコミュニケーションが始まって、その写真の世界を再度体験することになる。そういう狙いが本展にはあります。


カメラはコミュニケーション

―なぜ写真を撮るようになったのですか?

父がカメラ好きで、自分も影響されました。私はあまり人とのコミュニケーションが得意ではなく、1人で静かに何かしている方が好きなタイプでした。写真も初めは自然や建物など人ではないものを撮っていました。技術は基本独学で習得しています。

でもオーケストラに入って、楽譜担当になると指揮者と話さざるを得なくなり、段々人とのコミュニケーションに慣れてきました。そして彼らを被写体に写真を撮ることになると、人を撮る方が面白くなりました。

しかし、例えば演奏中どんなにこのカットを撮りたいと思っても、静かなフレーズの瞬間はシャッターを押せません。

―それはもどかしいですね。

手前から愛用のライカM6とライカM10 モノクローム。レンズはズミクロン 90mm f2とズミルックス 50mm f1.4を使用。

手前から愛用のライカM6とライカM10 モノクローム。レンズはズミクロン 90mm f2とズミルックス 50mm f1.4を使用。

まあ「ライカM6」や「ライカM10 モノクローム」のシャッター音は静かですし、音は一瞬なので押してしまえばいいんですがね。でもそれは指揮者や楽団メンバー、何より作曲家に対して失礼と思って、自重しています。

―撮った1枚が、演奏中の曲らしいという印象はありますか?

音楽を聴きながら、指揮者の動きを見ながら撮っているわけなので、音楽が写真に流れ込んできていると思っています。

でも音楽より指揮者の動きの方が若干早かったりすることが多いので、そこは相手によってタイミングを覚えてシャッターを切るしかないですね。

演奏中なのでシャッターをバシャバシャ連続で切るわけにいかないし、フィルムに慣れているので、毎回これだっ!と思うときにシャッターを切りたいという意向もあります。


被写体のトップマエストロ

―印象に残っている指揮者を教えてください。

クリスティアン・ティーレマンは、私ととても呼吸が合って撮りやすい。リカルド・ムーティも。でもムーティは写真の選択が厳しいんです。彼の奥さんがセレクトします。タイミングが難しいですが、ヴァレリー・ゲルギエフを撮るのも好きですね。日本のマエストロ、小澤征爾は私が入団して初めてのニューイヤーコンサートが彼の指揮だったのでとても思い出深いです。

あとは京都で展示している、ショスタコーヴィチの交響曲7番を指揮するマリス・ヤンソンス。彼の父親も指揮者で、ロシアの巨匠エフゲニー・ムラヴィンスキーのアシスタントでした。ムラヴィンスキーとショスタコーヴィチは近い関係だったので、ヤンソンスが指揮するショスタコ7番はとても印象的でした。

亡くなった巨匠、カルロス・クライバーやカール・ベーム、ヘルベルト・フォン・カラヤンも撮りたかったです。もっと早く生まれれば良かった(笑)。

みなさんそれぞれに思い出や理由があります。写真がコミュニケーションの懸け橋となっていると思います。

ヘーデンボルクの左手。

ヘーデンボルクの左手。

―あらゆるトップ音楽家が共演にいらっしゃいます。今後撮りたい人は?

大体撮りましたが、ダニエル・バレンボイムを撮りたかったですね。残念ながら私には機会がありませんでした。引退してしまいましたね。

ソリストでは、ヴァイオリニストのヒラリー・ハーンに興味があります。でもウィーン・フィルは伴奏のためのオーケストラではないので、あまり協奏曲はやりません。

指揮者では今シーズン、気鋭の若手クラウス・マケラが初めて振りに来ます。だから撮ると思いますね。彼もライカを使っているんです。お互い撮り合うかもしれません。

―それはとてもうらやましい!

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

▼東京
タイトル

「Living Music & the never-ending pursuit of the ideal」

会期

2022年11月18日(金)~2023年2月28日(火)

会場

ライカギャラリー東京 (ライカ銀座店2F)

定休日

月曜

▼京都
タイトル

「Living Music & the never-ending pursuit of the ideal」

会期

2022年11月19日(土)~2023年2月28日(火)

会場

ライカギャラリー京都 (ライカ京都店2F)

定休日

月曜

ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク|Wilfried Kazuki Hedenborg
1977年生まれ。6歳よりヴァイオリンを始める。1989年、モーツァルテウム国立音楽大学でルッジェーロ・リッチに師事し、1998年に最優秀の成績で修了(芸術学修士)。同年ウィーン市立音楽大学でヴェルナー・ヒンクに師事し、2001年に首席で卒業。数多くの国際コンクールで入賞。2001年にウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団。2004年よりウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の正団員として活動する一方で、室内楽の演奏活動にも積極的に参加、ソリストとしても活躍している。音楽家としての活動のほか、写真家としても独自の道を歩む。2013年にはウィーン・フィル舞踏会にてワインギャラリー「ビック・ボトル」、2018年にはザルツブルクのライカギャラリーにて「Perspektivenwechsel」と題し写真展を実施。2022年11月、新譜『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第4 番、第5 番「春」、第10 番/ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク、森泰子』 (カメラータ・トウキョウ)をリリース。

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