21 April 2023

IMA next #043 審査員 若木信吾、
テーマ「ANONYMOUS」にまつわるQ&A

21 April 2023

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IMA next #043 審査員 若木信吾、テーマ「ANONYMOUS」にまつわるQ&A | 若木信吾

毎月IMAが開催するオンライン写真コンテスト「IMA next」では、毎回異なるテーマを掲げ、写真家やキュレーター、編集者などがゲスト審査員となり優れた作品を選出する。5月16日(火)5月23日(火)まで応募受付中のテーマは「ANONYMOUS(匿名の)」。本インタヴューでは、審査員を務める写真家、若木信吾に挑戦的なテーマに込めた思いや背景について尋ねてみた。

Q. テーマを「ANONYMOUS(匿名の)」にした理由を教えてください。

A. 昔からANONYMOUS PHOTO(匿名の写真)というものに興味があって、それに関する写真集や写真そのものも海外に行ったりすると探しに行くことが多かったです。有名な人が撮っていたり、写っていたりするわけではなく、とてもなにか純粋な何かが写っていて、写真そのものが持つ良さというものがとてもはっきりわかると思うからです。「匿名性」という言葉、テーマは今回のようなコンテストではとても曖昧でわかりづらいように感じると思いますが、一度それらも含めて、写真のあり方について考えるいい機会だと思い、このテーマにさせていただきました。

Q. 今回のテーマ写真に選ばれた3枚について、教えてもらえますか?

A. ぬいぐるみの写真は、僕の幼少期の写真アルバムの中に入っていた写真です。誰が撮ったのかもわかりませんし、僕がそのぬいぐるみが好きだったかどうかすらいまでは記憶が曖昧です。

砂浜に立つ二人の写真は、僕が高校生のときに撮った写真です。まだ何者でもない、ただの高校生だった自分が友達を演出して撮ったものですが、どんな意図だったかはっきり覚えていません。

学校の廊下に立つ二人の高校生の写真も、同じく僕が高校の時に撮ったものです。被写体を正面から、かっこよく撮ろうとするストレートな眼差しがとてもよく、何か自分が撮った写真ではないような気すらします。


Q. 若木さんは、CMや雑誌などで多くの著名な方を撮影されている一方で、世間からしたら「ANONYMOUS」な被写体の撮影もされています。撮影時に両者の違いを意識することはありますか? もしくは、撮影の仕方に違いはありますか?

A. 著名な方を広告や雑誌で撮らせていただくときは、その人の象徴となるものをより強く引き立たせて撮ろうとすることが多いです。例えば顔。どんなシチュエーションやどんな感情表現をしている瞬間でも、その写真を見ればすぐにその人だと認識できる顔が撮れていることが重要です。欲をいえば、その人の名前が出たら世の中の人が、真っ先にその写真を思い出せるようなものを撮れれば最高です。

一般の人を撮るときにはある意味同じ作業かもしれませんか、その姿形からその人特有のものをうまくとらえるように撮ります。この場合は特に顔だけに限らず、立ち方や仕草なども含まれます。そこに本人の意図がないため、新しい発見をすることが多いのです。つまり写真になることによってその個人のもつ独特さが固定され、顕になるのです。こちらは既存のイメージの縛りがないので、もっと自由に撮れる気がします。相手が撮影セッションというコミニュケーション方法に慣れていないため、予測もつかない時間や労力がかかることもありますが、大抵は有名人の撮影よりも早くスムーズに撮れることが多いです。

ここまで書いて全然アノニマスな写真と関係ない話になっていると思うかもしれませんが、いま書いた二つのシチュエーションではないことはなんでしょうか? 例えば家族写真や友人の写真、人に見せるためではなく、自分のためだけに撮った写真。そういったプライベート写真こそが、将来アノニマス写真(ANONYMOUS PHOTO)と呼ばれる要素を多く秘めています。

Q. インターネットやSNSの普及などによって、以前よりも「ANONYMOUS」な個人、集団、物語に焦点が当たるようになってきました。その変化によって、ご自身が作る作品に変化はありましたか? もしくは、そのほかの写真家が作る作品に、変化があったと思いますか?

A. 多くの写真家たちがANONYMOUS PHOTOによって、さらに写真の魅力に惹きつけられていると思います。私たちは多くの場合、自分たちがとる行動に意識的です。そのひとつが写真を撮る行為ですが、あれを見たいとかこれを残しておきたいとかいう欲望を写真は満たしてくれます。しかしその特定の欲望に興味のない人が、その写真をみるととても不思議な現象が起こります。撮っている人と撮られている人や物や風景や事柄といったものの関係性が浮かび上がってくるのです。また逆の話をすると、人はヌード写真を公共の場で見ることを避ける傾向があります。自分がほかの人にその写真を撮った人と同じようにみられたくないからです。

Q. 例えば昔のポストカードやファミリーアルバムなど、匿名の誰かが撮った写真を使った作品も今回応募可能かと思います。ファウンドフォトを使った作品の魅力は、どんな点にあると思いますか?

A. ファウンドフォトの魅力のひとつは、場所も時代も違う無名の人たちの写真に写された行動に共感や理解できる部分を見つけられるからでしょう。

Q. 匿名性がアート写真にどのような可能性をもたらすと思いますか?

A. この質問に関しては僕はうまく話せませんが、AIが作った写真とANONYMOUS PHOTOの違いや共通点を見つけたりすることはひとつの鍵のような気がします。

Q. 今後の予定を教えてください。

A. 9月にハンガリーで映画『星影のワルツ』の上映会、10月に福岡のOverground Galleryで個展を予定しています。

タイトル

「IMA next」THEME #43 “ANONYMOUS”

応募期間

2023年3月16日(木)〜5月16日(火)5月23日(火)

応募料金

2,000円/1エントリー

URL

https://ima-next.jp/entry/anonymous/

若木信吾|Shingo Wakagi
写真家。1971年3月26日静岡県浜松市生まれ。ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真学科卒業。雑誌・広告・音楽媒体・映画制作・絵本出版など幅広い分野で活動中。2010年から故郷の浜松市に書店「BOOKS AND PRINTS」のオーナーも務める。2023年10月福岡で個展開催予定。

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