29 November 2021

【アートとSDGsの関係①】
美術家・長坂真護“サステナビリティはイノベーション”

Presented by THE NORTH FACE

29 November 2021

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【アートとSDGsの関係①】美術家・長坂真護“サステナビリティはイノベーション”Presented by THE NORTH FACE | 長坂真護さん

人も企業も、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を避けては通れない現代。ものをつくるアーティストも同様だ。アートとSDGsはいまどう響き合っているのか?アパレルブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」と共に環境やジェンダーをテーマに作品づくりを行う作家のクリエイティヴィティを考える。
ザ・ノース・フェイスはアウトドアブランドらしく、自然や環境保護活動はもちろん、近年では“SHE MOVES MOUNTAINS 私が動けば、世界が動く。”と謳ったキャンペーンを実施し、女性によるトークイベントを開催するなどジェンダー格差是正にも取り組む。
また、こうしたブランド活動をオウンドメディア「WINDOW」で発信。そのアーティスティックなサイトデザインからは、SDGsをアートに訴えてくる。
そんなザ・ノース・フェイスと訪ねる第1回目は、電子廃棄物で作品をつくり、注目を集める長坂真護さん。元ファッションデザイナーでもあった長坂さんが考えるアートとSDGsとは?

撮影・瀬沼苑子
文・龍見ハナ

interview20211110SDGs_12

ザ・ノース・フェイスのオウンドメディア「window」

―長坂さんは、ガーナのEウェイスト(電子廃棄物)を用いたポリティカルな作品制作で知られています。2017年にガーナを初めて訪れたことを機に、作風も水墨画から現在の手法となり、アーティストとして大きな転機を迎えられたわけですね。

長坂真護さん

決定的な変化でした。それまで僕は日本画で人物を描くことが多かったのですが、現地で初めて黒人をモデルに描こうとしたときに、水墨画では彼らの魅力を描ききることができないと気づいたんです。大きな衝撃でした。そこで初めて油絵に挑戦しました。野球に例えると、ピッチャーから野手に転身するくらいの変化です(笑)。

―そもそも、なぜEウェイストを作品の素材に使おうと思ったのでしょう?

ガーナでEウェイストの山を目にしたときに、これをアートにして売れば、作品が売れるほどに地球をきれいにすることができる、と閃いたんです。それまでの僕は、自分ではないほかの誰かのために絵を描いたり作品を制作したりしたことはありませんでした。

でもガーナとEウェイストとの出合いによって、アートの新たな役割に気づくことができたし、利他的な作品制作を通じて、人種を超えた愛情やヒューマニズムを信じられるようになりました。

―それまで慣れ親しんだ表現方法を手放して新しいチャレンジに向かうことは、長坂さんにとって勇気のいる行為でしたか?

これまでの経験から、簡単にできることよりも、できるかどうか不安だな、くらいの方が、良い結果を得られるのは分かっていました。何の不安もなくアーティストとして成功できても、せいぜい0が10になるくらい。

でも、ちょっと怖いけどやってみようかな、どうしようかな、ということに挑戦した結果、その10が100になったりするんです。そうやって自分の可能性を最大化できると、僕のDNAが喜ぶ(笑)。DNAが喜ぶことをやっていると、精神的にも安定するんです。

さまざまなEウェイストを用いた長坂真護さんの作品

さまざまなEウェイストを用いた長坂真護さんの作品

さまざまなEウェイストを用いた長坂真護さんの作品

さまざまなEウェイストを用いた長坂真護さんの作品

さまざまなEウェイストを用いた長坂真護さんの作品


作品もビジネスもサステナブル

―作品のみならず、作品販売においてもサステナブルな独自の方法を採用していらっしゃいますね。

長坂真護さん

アート販売の仕組みって、作品制作にかかわる材料もスタジオ代も何もかも作家持ちで、それをギャラリーが委託販売するという形態が一般的なんです。作品が売れたら、販売価格の50%以上を手数料としてギャラリーが得て、残りが作家。もし、売れなければ作家に作品を返却するという、非常にアンフェアなシステム。

だから僕は、ボランタリーチェーンの仕組みをアート販売に取り入れました。今、世界9カ所に自分の作品の販売拠点があるのですが、すべて加盟店契約という形態を取っているんです。

この方法であれば、アーティストとギャラリー双方がウィンウィンの関係を構築できます。また、コロナ禍になって作品のオンライン販売もはじめました。アートをオンラインで売ることに眉を顰める人もいるかもしれませんが、実際には非常に好調で、良い循環が生まれていると感じています。

―ゴミを用いた作品制作から販売方法まで、長坂さんの一連の取り組みは、ご自身が提唱されている「サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)」の考え方を象徴するものだと思います。改めて、サステナビリティの面白さはどんなところにありますか?

環境負荷を減らす取り組み=事業の縮小や損失を連想する人もまだ多いかもしれませんが、例えばファッション業界とエネルギー業界が協業するなど、これまで交わることのなかった異なる分野の人たちが、サステナビリティという言葉のもと手と手を取り合えることが何より面白いですよね。

それは僕が自分の活動である、ガーナのEウェイストを用いた作品販売や既存のギャラリーを介さない作品販売の仕組みを通じて実感してきたことです。

サステナビリティは何かを規制したり、新たな制約を生むものではなく、さまざまな人がコラボすることでイノベーションが生まれ、サステナブル・アート、サステナブル・建築、サステナブル・フード、サステナブル・ファッション……というように、新しいビジネスを旗揚げできる可能性もあるんです。

―サステナブルなファッションという意味では、サプライチェーンの見直しや、リサイクル技術や環境負荷の低い素材の開発など、さまざまな新しい試みが生まれています。かつてはファッションデザイナーとしても活動されていた長坂さんからご覧になって、世界第2位の環境汚染産業と糾弾されることも多いファッション業界は、どんなふうに変わることができると思いますか?


長坂真護さん

学校を卒業して自分のファッションブランドを立ち上げたのですが、いろいろあって会社を畳まざる得なくなったとき、服の在庫がすべてゴミに変わったわけです。改めて、大量生産・大量廃棄の恐ろしさに気づいた瞬間でした。現代って、世界の衣類生産量の約50%が最終的には誰にも着られることなく焼却されたり、埋められたりしていると言われていて、それって地球学の道理に反していますよね。

もちろん、ファッションが与えてくれる高揚感やアイデンティティに対する憧れは今でもありますし、その意味で、ファッションにはものすごい力があると思います。でも、意識の高い若者たちが大量生産品に対して拒絶反応を示しはじめているように、特にプレタポルテ=量産品は、従来どおりのやり方ではもう立ち行かなくなっています。

そんな中、さまざまなブランドがサステナビリティに舵を切り始めたのはすごく良いことですし、サステナブルな服の選択肢が増えることはありがたいですよね。

―ザ・ノース・フェイスにとってサステナブルな商品開発は創業からのミッションで他社の先陣を切っています。リサイクル素材を積極的に採用していますし、人工タンパク質を用いたムーンパーカのように、地上資源を使用しない新素材を用いた実験も行っています。

例えば今後、テクノロジーの進化によって服が3Dプリントで受注生産できるようになれば、生地を裁断して縫い合わせる必要もなくなるし、廃棄も激減できる。

生産の完全自動化によって人間の仕事は減るかもしれないけれど、ファッションが地球環境に与えている大きすぎる負荷を考えれば、まずはそれを減らす仕組みを構築することが第一義であることに変わりはありませんから。ザ・ノース・フェイスがそういった生産を始めたらすごいですね。

―ザ・ノース・フェイスでは、141カスタムサービスというウェアとバッグの1点物を作れるサービスを行っており、長坂さんが考える未来の服作りに近づいているかもしれません。

interview20211110SDGs_11

ザ・ノース・フェイスのオウンドメディア「window」


―ガーナにリサイクル工場を建設する計画を進行中とのことですが。

実は今年から始めているのですが、Eウェイストをリサイクル処理した原料を用い、100%リサイクルボディのフィギュアを3Dプリントする「ミリープロジェクト」を進行中です。そのための原料を生産する小規模な工場をガーナに建設予定なんです。これを第一弾として、2030年までの間に、段階的により大きな規模のリサイクル施設を作る計画です。

―2030年までに10年を切っていますが、世界はそのときどうなっていると思いますか?

よく言われるように、変化のピークは2045年、シンギュラリティによってもたらされると思います。その予兆が、2030年にはよりクリアに現れているんじゃないかと考えています。

例えば、コロナ禍によって働き方が激変したように、すでにこれまでの常識が崩れ始めています。環境問題の観点から、あらゆる産業が大量生産をやめて、ものづくりにおける無駄をさらに排除する方向に向かうことが予想されますが、無駄を減らすと人手もこれまでのようには必要でなくなり、労働の意味も変わってきます。そのとき、僕たちは何に生きる意味を見出しているのか……僕にもわかりませんが、少なくとも、より精神的なものの価値が尊重される世界になっているのでないかと想像しています。

長坂真護さん

長坂真護プロフィール
1984年生まれ。文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、ホストクラブで貯めた資金で自身のブランドを設立するもほどなく倒産。路上アーティストを経て、画家としての活動をスタートする。2017年6月に「電子機器の墓場」と言われるガーナノース・ラム街、アグボグブロシーを訪れたことを機に、当地の電子ゴミを用いた作品制作を開始。作品販売の利益をもとに、2018年、現地に無料の学校「MAGO ART AND STUDY」を、翌年には「MAGO E-Waste Museum」を開設するなど、アートを通じた支援活動を精力的に行っている。

interview20211110SDGs_11

ザ・ノース・フェイスのオウンドメディア「window」

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