Event Report
Shohei Yoshida×Katsumi Kumakura×Shintaro Uchinuma

吉田昌平『新宿(コラージュ)』(NUMABOOKS刊)刊行記念トーク、吉田昌平×熊倉桂三×内沼晋太郎「アートブックの印刷とデザインの話:『新宿(コラージュ)』を中心に」

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東京都

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新宿(コラージュ)

写真家・森山大道の代表的な写真集のひとつ『新宿』(月曜社、2002年)を一冊まるごと解体し、コラージュの手法を用いて再構築した吉田昌平氏の作品集『新宿(コラージュ)』が、ブックコーディネーターの内沼晋太郎率いるNUMABOOKSよりこの7月に刊行された。真っ白いスリーブケースと表紙が特徴的な本書は、普段はアートディレクター/デザイナーとして活動する著者の吉田が、自ら装丁を手がけたもの。コラージュの素材感や厚み、陰影といったディテールをリアルに再現する印刷は、亀倉雄策、永井一正など名だたる巨匠たちとの仕事で知られる山田写真製版所の名物プリンティングディレクター・熊倉桂三との試行錯誤の中で生まれた、やや異例ともいえるクオリティだ。印刷・写真集愛好家必聴の『新宿(コラージュ)』制作秘話をお届けする。

*6月に銀座 蔦屋書店にて行われたトークイベントから抜粋して掲載しています。

構成=後藤知佳(NUMABOOKS)
編集協力=宮武麻衣子

プリンティングディレクターという仕事

手前から、内沼晋太郎、吉田昌平、熊倉桂三

手前から、内沼晋太郎、吉田昌平、熊倉桂三


内沼晋太郎(以下“内沼”):熊倉さんの肩書きである「プリンティングディレクター」というのは、印刷の現場においてどのような立ち位置なのでしょうか。

熊倉桂三(以下“熊倉”):印刷物を仕上げるためのコーディネイトをデザイナーと一緒にやっていく、という役割です。印刷物を浮世絵にたとえると、プリンティングディレクターは彫師と刷師を合わせたような存在ですね。それは信頼関係があってできているのだと思いますが、やはりこれまで一緒に仕事をしてきたデザイナーの先生方もある程度アドバイスを期待しておられます。今回の吉田さんの作品集『新宿(コラージュ)』(NUMABOOKS、2017年)でも、そういったやりとりをしながら作っていきました。

吉田昌平(以下“吉田”):僕としても、印刷屋さんからアドバイスをもらいたい、という気持ちはすごくあります。知識を持った方に、自分のイメージに近づけるための相談ができたり、そうしたやりとりがうまくいく人・うまくいく会社と一緒に仕事がしたいな、と。以前、僕がデザインした前康輔さんの写真集『倶会一処 』(2015年)、これも熊倉さんにプリンティングディレクションしていただきました。これは僕が印刷立ち会いに行けなくて…それで前さんご本人に立ち会いに行っていただきました。

倶会一処

前康輔『倶会一処』(2015年)ブックデザイン:吉田昌平/印刷:山田写真製版所


内沼:(客席に来ていた前康輔さんに)前さん、その本を作ったときの思い出はありますか?

前康輔(以下“前”):印刷って、機械が自動的に印刷していくものだと思っていたんですけれど、実際は完全にアナログで、機械を使って熊倉さんの頭の中にあるものを刷り上げていくという流れをそこで見せてもらって、すごく面白い体験だったんです。熊倉さんにやってもらって、自分のプリントよりも印刷の方がいいんじゃないかと思うくらいで。抽象的な言葉でと僕が伝えた要望を熊倉さんがクリアしていってくださるんですけど、それもボタンひとつでピッとやるだけではなくて、印刷機についているインキをアナログでベリッと部分的にはがしたりとか…そういった作業を見てすごいな、と感動しました。

熊倉:プリンティングディレクターというのは印刷マシンのいいところ、悪いところを熟知していないとできないですね。実は、凸版(*1)のときは、版を作るのは別工程として分業になっていて、プリンティングディレクターは版をいじっちゃいけなかったんです。当時はよくジレンマになっていたんですが、山田写真製版所に移ってからは、自分で版が作れる。だから、印刷の手前の段階から1、2%の世界まで考えた細かい指示ができています。そうして作った版が頭の中に入っているので、印刷の段階でも、こうするとどうなる、というのがわかる。そこが普通のディレクターとちょっと違うところかな。

*1:凸版印刷株式会社。熊倉の前職場

撮影かダイレクトスキャンか ―コラージュ作品をデータにする

『BRUTUS』No.818

吉田が森山大道作品のコラージュを始める契機となった、雑誌『BRUTUS』No.818「森山大道とつくる雑誌特集」付録のタブロイド。中面に吉田によるコラージュが2点掲載される(デザイン:吉田昌平)。


内沼:吉田さんが、森山大道さんの『新宿』(2002年)全ページ分の制作をなさっていたタイミングで、僕が吉田さんと知り合いまして、この本『新宿(コラージュ)』を作ることになりました。本を作ると決まった後に、その印刷を山田写真製版所さんにお願いするにあたってまずは見ていただいたのですが、そのときの熊倉さんの印象はいかがでしたか?

熊倉:この作品をどうやって美しく、立体的に表現するか。今回の作品集では、紙に塗られた糊の跡が乾いてグロスっぽくなっているようなところもリアルに再現できていると思うんですね。まず、このコラージュをデータ化する方法として「撮影」と「ダイレクトスキャン」のふたつの選択肢があるんですが、僕はダイレクトスキャンの方が絶対にいい、という話をしたと思います。一般的なダイレクトスキャンでは、ディテールは出るけれど、陰影はあまり残らない。ですが、今回は平面スキャナーで片側の光源を落として、片光だけでスキャンをするという手法を取りました。こうすることで、作品表面の凹凸のディテールがものすごくリアルに出る。

吉田:僕は最初「スキャンじゃなくて撮影で行くのかな」と思っていたんです。片光でスキャンするという方法があるということをそのとき僕は全然知りませんでした。

新宿(コラージュ)

吉田昌平『新宿(コラージュ)』より。画像は片光でスキャンしたもの。


内沼:“片光”というのは、要は、家庭用のスキャナーもそうですが、2本の蛍光灯で均一に光を当ててスキャンをするところを、その片方の蛍光灯の光を消してしまう、ということですよね。それは本来スキャナーが持っている機能ではありませんよね?

熊倉:そうです。だからオペレーターは非常に嫌がるんです。面倒くさくてしょうがない(笑)。でもいまの会社では「いいものを作るためにみんなで努力しようよ」という考え方を持ってくれていて、面倒なことでも社員が積極的にやってくれるので、非常に助かっています。

吉田:今回立ち会いに行って熊倉さんの作業をずっと隣で見ていましたが、熊倉さんは「周りにいるスタッフの方たちに対して、“Love”を持って接する」とおっしゃっていたんです。そういったことで、現場の方のモチベーションが変わりますよね。これまでは、色校(印刷の色味を見るための試し刷り)のやりとりをするにしても、その向こう側にいる人のことをあまり意識していなかった。赤字ひとつでも、それを修正する人の作業が嫌にならない言葉の選び方がある。そういうのを大事にしていかなきゃいけないな、と。やっぱり印刷物って、人と人が作るものなんだなというのを、熊倉さんとご一緒して思いました。

熊倉:僕のキーワードというのは「Love」なんです。社員に対してもオペレーターに対してもそうですが、「Love」という気持ちを持って話をすることによって、相手もそれが上司からつっけんどんにいわれていることではなく、愛のこもった言葉でいわれていることだという受け取り方になりますよね。そういったところを、僕はものすごく注意しています。デザイナーの先生方に対してもそうで、それぞれのクリエイターを好きになって仕事をすれば、絶対にいいものができると思っています。だから「Love」という言葉が出てくるし、自分自身をそういう風に律しています。

山田写真製版所の方々と

山田写真製版所の方々と(左から2番目:熊倉桂三/左から3番目:吉田昌平)。


新宿

森山大道『新宿』(月曜社、2002年)。『新宿(コラージュ)』には吉田氏がこの写真集1冊をすべて用いて制作したコラージュ全点を掲載している。


印刷物のコラージュを、また新たな印刷物に

内沼:写真ではなく、写真“集”のコラージュをまた印刷物にするとき、印刷の面ではどういう難しさがあったのでしょうか?

熊倉:印刷物をまた印刷物にする。このことは第一の課題としてありました。印刷物というのは規則正しく並んだドットで表現されています。それをスキャンして、またドットで表現しようとすると、モアレが起こってしまうんです。それは印刷屋として絶対に引き起こしてはいけない。そこで、今回は「FMスクリーン」という手法を使っています。元の印刷物のドットをさらに小さなドットで印刷していく。そうすると、モアレは出なくなるのです。

内沼:印刷方式として「AMスクリーン」と「FMスクリーン」があって、AMはドットの大きさで濃淡を表現するけど、FMはドットの間隔で濃淡を表現する、ということですね。

吉田:こちらがリクエストした4種類くらいの用紙でテスト刷りをしていただきましたが、「こんなに作品と印刷物とで見間違えるくらいの精度で印刷できるんだ」ということに驚きました。糊の跡とか指紋とか、むしろ原画よりよく出ているものもあったりして(笑)。スタッフの方も一回、作品の現物と印刷を見間違えたんですよね。作品だと思って触ったら印刷物で。それぐらい、今回は再現度が高かったんです。

テスト刷りと作品現物を並べて比較しているところ

テスト刷りと作品現物を並べて比較しているところ。左が作品、右が印刷。


最後の決め手は“色っぽさ”

熊倉:今回、モノクロの作品ということで、ダブルトーン、もしくはトリプルトーン(*2)で印刷設計をしようと思い、テストを行いました。

*2:通常、写真集などのカラーの印刷物はCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色のインキを使って印刷を行うが、ダブルトーン、トリプルトーンはそれぞれ2色、3色(色については本文後述)で印刷を行う。モノクロの印刷物で使用されることが多い手法。ページごとの色のブレを軽減でき、スミの濃い部分を豊かに表現することができる。

内沼:ダブルトーンとトリプルトーンというのは、今回の場合は印刷時に黒(スミ)を何色使うか/何回刷るか、ということですよね?

熊倉:そうです。一般的なダブルトーンですと、スミとグレーで一回ずつ印刷をしますが、僕はダブルトーンではスミとスミ、トリプルトーンでもスミ・スミ・スミで印刷します。そうすることで最シャドー(絵柄の一番濃いところ)の力強さが最大300%で出せます。インキの重なり具合でディテールを強調できるし、通常ではベタッとつぶれてしまうところもきちっと表現できます。その代わり、3色スミのトーンカーブを作る(版の調整をする)のがとても大変な作業になります。きちっと調整しておかないと、中間からシャドーから、みんなつぶれてしまう。その調整を独自の方法で行っています。今回、最終的にはダブルトーン+半マットニスという3色を使って印刷しています。「シャドーの中のシャドー」というテーマで挑みました。

吉田:トリプルトーンのほうがダブルトーンに比べて力強かったのですが、実際の作品に近いのはダブルトーンでした。

山田写真製版所の富山工場での印刷立ち会いの様子

山田写真製版所の富山工場での印刷立ち会いの様子


用紙も最後まで悩みました。最初は真っ白い紙のほうがメリハリが出るので、モノクロ印刷には向いているのではと思っていたんですけれど、実際はちょっと黄色い、「ニューエイジ」という紙を使いました。そういうちょっと黄色い紙の方が、色っぽく見えたんです。

熊倉:かつ、少しマット系の用紙ですね。ニューエイジは。

吉田:そこも勉強になりました。森山さんの過去の写真集の本文用紙はちょっと黄色っぽいものが多くて、それはどうしてかなと思っていたんです。

熊倉:(黄色っぽく見えるのは)スミとグレーのダブルトーンで印刷していることにも関係があるかもしれません。

内沼:本になったときに、吉田さんはどうお感じになりましたか?

吉田:もう、立ち会いのときに見すぎてて正直よくわからなくなってきているんですが(笑)、仕上がりは素晴らしいものになったと思います。そもそも、本と作品は違うものですから、同じにしたいという考えでも僕はありませんでした。ただ、この本を手に取って読むときの重さや柔らかさ、そういった感触を皆さんにどう感じてもらえるか、というのは楽しみです。

熊倉:紙の風合いもあるし、五感に訴える印刷物になったかなと思います。

吉田:紙の柔らかさも最後まで悩みました。束見本(印刷・製本前に本の体裁を確認するためのテスト製品)をいくつも作っていただいて…。結果、本を持っているときの印象を重要視して仕様を決めました。今回デザインも真っ白なんで、そこはきっちりこだわりたかったところです。

吉田昌平『新宿(コラージュ)』

吉田昌平『新宿(コラージュ)』。外箱の背に文字が入るのみで、本体の表紙には何も印刷されていない。


「真っ白い本」の理由

内沼:ご質問があれば受け付けます、どうぞ。

質問者:本屋さんで本を売るときに、表紙や背のインパクトは大事だと思うのですが、そこを除外してまで本を真っ白にされた理由をもう少しお聞かせください。

吉田:表紙を真っ白にしたのは、森山さんの『新宿』という写真集を一回解体して、またもう一回本にすると考えたときに、表面的なデザインは排除して、ただ綴じ直すだけにしたいなと。要は束見本みたいなイメージです。とはいえ、実際に書店に並ぶときに情報が何もない状態で売っていくのは難しいので、そこはシュリンクしたあとに帯代わりのシールなどで情報を補っていければと、少しずつ内沼さんに相談していきました。

内沼:僕は出版社であると同時に本屋ですので、この本の売りやすさについても考えました。ですが基本的な考え方として、デザイナーなり作家なりが「こうした方がいい」と思うものを曲げない方がいいと思っています。『新宿』という既存の写真集を解体しているわけだから、そこに新たな意味が生じるようなことはあまりしたくないし、どういう表現だったらその過程がうまく伝わるかということを吉田さんと考えていきました。

新宿(コラージュ)

吉田昌平『新宿(コラージュ)』。書店などへの流通時はシュリンクの上にこうしたシールが貼られる。


皆さん、これからの野望みたいなものはありますか?

熊倉:野望ですか?夢でもあるんだけど、出版やりたい!

吉田:僕も出版やってみたいんですよね。やっぱり本が好きなんです。だから好きなように作ってみたい。自分なりの売り方も試してみたいですし。そして、売る大変さも知る必要があると思っています。

内沼:え?皆さん、出版をやりたくなっている(笑)。

熊倉:うちで徹底的に印刷にこだわった本作りをしたら面白いだろうなと。印刷会社は受注産業なので、お客さんの予算もあって、なかなか思い通りの印刷というのはできない。自分たちで出版をやれば、予算内で思い通りの印刷をするということもできるかもしれない。世の中があっというような本をいつか作りたいです。

内沼:印刷屋さんが出版をやるというのはずるいというか(笑)。でも、いいですね。そこからまた面白い本が世の中に出てくる。売る側としても、そうした本を扱いたい、と思います。

タイトル

『新宿(コラージュ)』

出版社

NUMABOOKS

価格

5,800円+tax

発行年

2017年7月

仕様

182mm×247mm/256ページ/スリーブケース入り

URL

http://numabooks.com/shinjukucollage.html

▼EXHIBITION
アートディレクター/グラフィックデザイナーとして活躍中の吉田昌平による作品集『Shinjuku(Collage)』(numabooks)の刊行を記念して個展が開催。本書は、森山大道写真集『新宿』(月曜社、2002年初版)の全ページを素材としてコラージュした128点からなる作品集。本展では、その中から厳選した作品が展示、販売される。

「ぼくは吉田さんのコンセプトによって、すでにぼくの手から離れた〈もうひとつの新宿〉風景の中を歩き回れることを楽しみにしている。」 ―森山大道

タイトル

吉田昌平個展「Shinjuku (Collage)」

会期

2017年9月13日(水)~9月28日(木)

会場

ON READING(名古屋)

時間

12:00~20:00

定休日

火曜

URL

http://onreading.jp/exhibition/shinjukucollage/


吉田昌平|Shohei Yoshida
1985年、広島県生まれ。アートディレクター、グラフィックデザイナー。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイン事務所「ナカムラグラフ」での勤務を経て、2016年に「白い立体」として独立。カタログ・書籍のデザインや展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを中心に活動。そのかたわら、アーティストとして字・紙・本を主な素材・テーマとしたコラージュ作品を数多く制作発表する。2016年、雑誌『BRUTUS』(マガジンハウス)No.818「森山大道と作る写真特集」への参加を契機に、森山大道氏の写真集を素材としたコラージュ作品の制作を始める。作品集に『KASABUTA』(WALL、2013年)。
http://www.shiroi-rittai.com/

熊倉桂三|Katsumi Kumakura
1947年東京生まれ。株式会社山田写真製版所 取締役技術開発室長/プリンティング・アーツ・ディレクター。 凸版印刷を経て2007年山田写真製版所に入社。40年以上にわたり、日本を代表するグラフィックデザイナーや写真家、クリエイター達と協働し、高品位の印刷作品を世に送り出してきた。金沢美術工芸大学非常勤講師、ミームデザイン学校講師ほか。
http://www.yppnet.co.jp/

内沼 晋太郎|Shintaro Uchinuma
1980年生まれ。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。NUMABOOKS代表、下北沢「本屋B&B」共同経営者。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)、『本の未来を探す旅 ソウル』(共著/朝日出版社)など。
http://numabooks.com/