31 August 2018

New Generation of Photography Scene
Jamie Shaw

写真シーンの新世代
オンラインコミュニティー育ちのデザイナーが独自の手法で写真とファッションの懸け橋を目指す

31 August 2018

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オンラインコミュニティー育ちのデザイナーが独自の手法で写真とファッションの懸け橋を目指す | Jamie Shaw

Jamie Shaw

2018年、グローバリズムの限界に社会が揺らぐ中、デジタルネイティブたちは、ソーシャルネットワークを駆使し、イメージという共通言語を使いながら独自の世界を広げている。国境や文化の壁も、写真家、出版人、キュレーターなどといった肩書の枠組みも越えて自由に活動を繰り広げる写真シーンの次世代を牽引するキーパーソンたちに、それぞれのヴィジョンや彼らから放射線状に延びるネットワーク上にいる、刺激的な仲間について話を訊いた。

文=IMA(IMA 2018 Summer Vol.24より転載)

インターネットの普及がなければ、いまの自分ではなかった可能性があるかもしれない。ここで紹介するジェイミー・ショー(1989年生まれ)は、オンラインコミュニティとの出会いがきっかけで、写真に、出版に、デザインに興味を持っていったという。「僕の初めての写真体験は、インターネット。小さな町で育ったので、13歳のときにFlickrやMyspace、のちにTumblrで急に世界が広がり、そこが僕のソーシャルスペースになりました」と当時を振り返る。「キッズたちが、遊び感覚でフィルムカメラで撮った写真をアップする写真コミュニティにも出会いました。それはとてもナイーブで、お互いを真似し合っていた。でもあとから考えれば、それはとても価値のあるものでした。写真や本、ZINEについて知ることが“クール”だと感じ、旅に出かけ、多くの人に会ってたくさんのイメージを撮り、最終的には写真がうまくなったのですから」。

スケーターだったショーも仲間たちの写真を撮っていたが、友人の写真家のZINEを作ったことでデザインに興味を持ちだす。「ロンドンでは、ルイス・チャップリンやアレックス・ウェブが10代で出版社Four teen-Nineteenを、ブルーノ・ケシェルが自費出版のオンラインプラットフォームSelf Publish, Be Happy(SPBH)を立ち上げたころで、出版ブームが最高潮に達していた時期でした。大学を卒業したばかりの僕は、友人たちのZINEをデザインし、それらを当時働いていたグラスゴーの書店Good Pressで販売することで、僕の下手くそな写真をオンラインにアップするのではなく、やっとコミュニティに貢献できるようになったんです(笑)」。ショーは、2013年にフリーランスのデザイナーとしてロンドンに移住し、オンラインですでにつながっていた写真家たちと実際に出会う。そのときのことを「彼らとは初めて会ったのに、すでにお互いのすべてを知っているような不思議な感覚でした」と話す。

デザイン仕事の傍ら、SPBHやファッション雑誌を中心に扱う書店でも働き、写真、アート、ファッション、デザイン、出版……さまざまなことをオンライン/オフラインの両方から吸収していったショーは、昨年、自身の雑誌『Enlarge Your Memories(EYM)』を立ち上げた。「ロンドンのクリエイティブ界では、アート、ファッション、写真の境界線がなく、興味の幅もネットワークも広がりました。ファッションや写真業界で働く同世代の友人たちは、ハードワークをして、ときには自腹で経費を負担しながら素晴らしい作品を作っているにもかかわらず、雑誌では編集の都合上カットされる部分も多い。セレブ写真家が優先され、ページを減らされることだってあります。彼らは大きなサイズで作品を見せることを渇望していました。そこで、毎号一人のデザイナーをフィーチャーし、ストーリーを余すところなく紹介する大判の雑誌を創刊することにしたんです」。

『Enlarge Your Memories vol.1』(2017)

『Enlarge Your Memories vol.1』(2017)

『Enlarge Your Memories vol.1』(2017)

『Enlarge Your Memories vol.1』(2017)
35×55cmの大判サイズが目を引く、『Enlarge Your Memories』の創刊号。カルト的人気を誇るファッションレーベルVetementsを経て自身のブランドを立ち上げたデザイナー、フィリップ・J・エリスによる、EU離脱を反対するメッセージを込めたコレクション「Bet ter Late Than Ever」をフィーチャーしている。撮影は、さまざまなファッション誌で活躍するヤン・ファウチャー。続く第2号は、注目株のデザイナー、マティ・ボヴァン特集とのこと。

「大量のイメージを消費する現代社会において、ファッションデザイナーたちは洋服以外でもビジョンを打ち出すことが求められている」。まさにそれを体現したのが、フィリップ・J・エリスを特集した『EYM』の創刊号だ。エリスはランウェイを行わず、代わりに同誌でコレクションを発表したことで話題を呼んだ。ハイエンドな決まりきったイメージを何度も見せられることに飽きている我々の目を刺激する『EYM』が、どんなサプライズを起こしてくれるのか楽しみである。

「Fever Dreams」 Webber Gallery(2018)
今年の春、ロンドンのWebber Galleryで開催したグループ展「Fever Dreams」。下記でも紹介しているジャン・ヴィンセント・シモネ、グレース・アールボム(Soft Openingでの展覧会)をはじめ、ポートレイト作品で高い評価を得ている女性写真家モーリー・マタロン、『Dazed and Confused』などさまざまな雑誌で活躍するデクスター・ランダーという、いまをときめく4名の写真家をフィーチャー。展覧会に合わせてカタログも制作した。


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3D空間を独自の世界観で覆い尽くすインスタレーションの奇才・Jean − Vincent Simonet

Jean − Vincent Simonet

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ショーがキュレーションを手がけたグループ展「Fever Dreams」に参加した作家の一人、ジャン・ヴィンセント・シモネは、さまざまな都市、身体、自然、ファッション、色などをマッシュアップして、新たな美学を生み出す。掲載作品は、シモネの真骨頂ともいえるフォトコラージュ作品「Would you like to live Deliciously ?」である「Fever Dreams」では、同作とインクジェットプリントを使った実験的な作品を組み合わせた。ショーは、「独自の道を切り開き進化していく作家が好きで、ジャンもその一人。彼のインスタレーション制作を間近で見て、既存の枠を壊していく存在の重要さに改めて気づいた」とシモネの才能に一目を置く。

ロンドンから発信するDIY精神あふれるカルチャー誌『Gut Magazine』

Gut Magazine

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いつの時代も表現する場を渇望する若者によって作られたインディペンデント雑誌が、新たな価値観や美学を生み出してきたが、『Gut Magazine』も間違いなくその系譜に位置付けられるだろう。「本能的で、不器用で、生々しいもの」を受け入れるプラットフォームでは、若いクリエーターたちが感性を刺激し合っている。「共同編集長のエミー・エヴェリン・ホッジスは、昔からよく知る友人。数年前、とあるオープニングで缶ビールを飲みながら、お金もなくて、将来何をしたいかわからない状況に二人してグチってたことをいまでも覚えている。そのあと彼女は、自分の夢(そして悪夢)をかなえた。類を見ないほどのオリジナリティあふれる雑誌を作っている」。

24時間営業のギャラリーがピカデリー・サーカス駅構内にオープン!?「Soft Opening」

メキシコ人アーティスト、テオ・ホワイトによる、昔の漫画に見受けられ る黒人のステレオタイプを主題にした展示「Oh, Freedom!」。

グレース・アールボムとウィリー・スチュアートによる展示 「I Can Dream, Can I Not? Dreaming is Heavy Metal」。

ホワイトのポスターは、PageMastersで刷られたもの!

アントン・マーシュは、女性アーティストを支援するために、さまざまな都市でレジデンスプログラムを展開する期間限定のプロジェクト「Girl’s Only」を2014年に立ち上げ、一躍注目を集めた気鋭の女性キュレーター。マーシュのキュレーションを高く評価するショーは、「彼女がロンドンの中心にあるピカデリー・サーカス駅構内のウィンドウディスプレイを使って、年中無休24時間オープンのギャラリーを始めたんだ」と、Soft Openingをいま最もエキサイティングな場所のひとつとして勧めてくれた。公共の場で若手作家を起用した領域横断的な企画を展開し、アートファンのみならず、多くの人々を魅了している。

色彩のマジック!鬼才とうたわれる新人デザイナー・Matty Bovan

Photo: Lucy Alex Mac

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次号の『EYM』で特集するマティ・ボヴァン。ディストピア感あふれる彫刻的なニットウェアで、ファッション業界において頭角を現すデザイナーである。最近では、メイクアップアーティストとしての才能を買われ、マーク ジェイコブスやミュウ ミュウとのコラボも果たし、イラストレーター、ジュエリーデザイナーの顔も持つ。掲載写真は、ルーシー・アレックス・マックが雑誌『King Kong』のために撮影したボヴァン本人で、彼自身が衣装、ジュエリーデザイン、メイクのすべてを手がけた。10代からの付き合いというショーとボヴァンが、どのような化学反応を起こすのか楽しみである。

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2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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