One of my favorite photo
Makoto Tanijiri

わたしの一枚
vol.1 谷尻誠(建築家)
作品名:ライアン・マッギンレー「Plotter Kill Storm」
「“こう撮る方法”を考え抜いたんだな、と思うと少し嫉妬します」

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自宅のリビングルームに飾られたライアン・マッギンレーの作品

自宅のリビングルームに飾られたライアン・マッギンレーの作品

人それぞれ好きな音楽や映画があるように、きっと写真にも個人のお気に入りがあるはずだ─さまざまなジャンルで活躍する人物たちが所有する私物のアートフォトを拝見し、その一枚について話を聞いてみたいと思った。連載企画「わたしの一枚」。第1回は広島と東京の2カ所を拠点とする建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」の共同代表、谷尻誠を迎えた。その一枚はいま最も“乗っている”アメリカ人写真家、ライアン・マッギンレーの作品。「アートの中で写真が一番好き」という谷尻は、この写真に何を思うのか。

文=加瀬友重
写真=鈴木泰之

この写真は、以前オペラシティで開かれたライアンの展覧会(「ライアン・マッギンレー BODY LOUD!」東京オペラシティアートギャラリー、2016年)で見て、「欲しいな」と直感したんです。もちろんほかにも作品が展示されていたのですが、この写真は偶然にも、同行していた妻も「いいな」と思った一枚でした。で、主宰のギャラリストの方に「買えますか?」とダメ元で聞いてみました。

すると意外にも、自分が買える値段だったのです。こういうときは素直に行動したほうがいいと思って、即決しました。これもたまたまですが、エディションナンバーが3と若かったことも背中を押してくれたような気がします。値段だけを見ると高額であることは間違いないのですが、同じお金を銀行に預けておくよりもいいかなと。もちろん売りませんが、作品として手に入れたほうが、価値があると思ったんですよね。

以前、片山正通さん(インテリアデザイナー・株式会社ワンダーウォール代表)が「美術館よりギャラリーで見るほうが好きだ」とおっしゃっていたんです。ギャラリーは“買う場所”だから、そこに行けば“買う目線”で、本気で作品を見る。なるほど、と思いました。展覧会や美術館でアートを鑑賞しているときは、普通は買うつもりで見ていませんからね。余談ですが、裏を返せば「買える美術館」のようなものがあってもいいのかもしれません。


谷尻誠

この一枚を見てまず感じたのは「こんなのどうやって撮るの!?」ということ。あり得ないシチュエーションのはずなのにあり得ている、その世界観に「敵わないな」と思って、欲しくなったんです。写真って「誰でも撮れるのに誰にも撮れない」というか。そう、自分が撮れそうで撮れないんですよ。シャッターを切るだけのシンプルな行為なのに、撮る人によって圧倒的な差が生まれるから好きなんです。フォトショップとかは別にして、あとで加工のできない、嘘をつけない感じがいいんですよね。

この写真は自宅のリビングに飾っています。“いい感じ”に収まっているでしょ?横幅は1メートルくらい(編集部注:H76×W114cm)。冬山で、氷壁をバックにして裸の男を撮影したものです。ライアンが撮るモデルは彼の友人だったり知り合いが多いんですよね。この裸の男が誰かは…わかりません(笑)。

アートって、機能が“無い”じゃないですか。でも、見るといつも気持ちが豊かになる。「やっぱり買ってよかったな」とか「これがあると部屋がキマるな」とか、見るたびにいろんなことを思う。そういう意味で機能が存在し続けるんですよね。“機能がない機能”って無敵だな、と思います。

世の中の誰もが、機能にお金を使っています。機能の無いものはあまり買いませんよね。カメラだってシャッターが切れなくなったらある意味ガラクタです。でもアートってそういうことが起きない。アートはアートで在り続ける。それが素晴らしいんです。

個人宅に限らず、公共施設や商業施設でも、アートフォトが普通に飾られるような状況になればいいな、という思いはあります。写真って空間のなかに「窓がひとつ増える」んですよ。光が入ってくるわけじゃないけれど、飾った場所に窓があるような感覚。空間に奥行が出るように感じます。


作品を好きになると、作者にも興味が湧いてきますよね。以前から写真家としてのライアン・マッギンレーは知っていたんですが、実際に作品を手に入れると、もっと作者のことを知りたくなる。ライアン自身が講演で話した言葉がインターネットに出ていたんです。「自分がやりたいことを実行するための方法を探し、見つけること」とか、めっちゃいいことをいっているんですよ(笑)。こういう言葉を知って、より好きになりましたね。

氷の壁の前に裸のモデルを立たせようなんて、普通だったら「不可能」とか「無理」という言葉が先に浮かんでくると思うんです。でも彼は「やる方法」を考えた。そう想像すると、世代的にも自分は近いですから「ああ、やられた!」と、少し嫉妬するというか…。そんな感覚も、自分の仕事に活かされていくような気がします。「出来ている人がいるのだから自分も挑戦しよう」、と。

谷尻 誠|Makoto Tanijiri
1974年、広島県生まれ。本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て、2000年に建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)」を設立。14年より吉田愛と共同主宰。03年「JDCデザインアワード」新人賞を始めとして、毎年数多くのアワードを受賞している。19年秋頃、広島にホテルをオープンするプロジェクトが進行中。レストラン、展示会などを行うギャラリースペースも併設される予定。穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授。講演なども積極的に行っている。
https://www.suppose.jp/

ライアン・マッギンレー|Ryan McGinley
1977年、米ニュージャージー州生まれ。2000年、ニューヨークの「パーソンズ・スクール・オブ・デザイン」デザイングラフィック科を卒業。主な個展に「The Kids Are Alright(03年)」「New Photographs(04年)」「Magic Magnifier(13年)」「The Four Seasons(16年)」などがある。作品はソロモン・R・グッゲンハイム美術館、サンフランシスコ近代美術館、スミソニアン博物館、ホイットニー美術館をはじめ多くの美術館に所蔵。日本のエージェントは「小山登美夫ギャラリー」。
http://tomiokoyamagallery.com/
http://ryanmcginley.com/