Kyoto City KYOCERA Museum of Art

建築家・青木淳+西澤徹夫のリノベーションで生まれ変わった「京都市京セラ美術館」
新たなアートスポットの見どころを紹介

AREA

京都府

4 September 2020

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建築家・青木淳+西澤徹夫のリノベーションで生まれ変わった「京都市京セラ美術館」新たなアートスポットの見どころを紹介 | Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru

2020年春、京都の新たなアートスポットとして「京都市京セラ美術館」が開館した。それまで「京都市美術館」として長く親しまれた建物が、建築家・青木淳と西澤徹夫の設計でリニューアルオープン。機能と格式が調和した歴史的建造物×リノベーションの妙は、展覧会と合わせて是非とも堪能したいポイントだ。

文=三角草右

生まれ変わった最古の公立美術館建築

京都市京セラ美術館のルーツは、1933(昭和8)年に開館した「大礼記念京都美術館」だ。昭和天皇の即位を記念した美術館建設は、関西の財界や市民の寄付により実現したパブリックプロジェクトとなった。建築のデザインは古都京都の景観を損ねないよう「日本趣味ヲ基調トスルコト」を念頭に、コンペによって決定。採用された前田健二郎のプランは、鉄骨鉄筋コンクリート二階建てのモダンな外装に日本趣味の屋根を載せた「帝冠様式」と呼ばれるスタイルだった。現存最古の公立美術館建築としても知られる京都市京セラ美術館のユニークな外観は、そんな87年前の意匠を今日まで伝えている。

美術館に入る時にまず目を奪われるのは、メインエントランスから左右に伸びるファサード「ガラス・リボン」。美術館前の広場「京セラスクエア」から眺めると、地面に美しいスリットが入ったように見える。その奥には、魅力的なアイテムが並ぶミュージアムショップやカフェでくつろぐ人々が。重厚なレンガ建築とは対照的に、明るく開放的な雰囲気がある。

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru


87年の歴史を活かすリノベーション

メインエントランスをくぐるとチケットカウンターがある。美術館の地下部分にあたるこの場所は、もともと「下足室」(実際はクローク)として使われていたそう。ここから大階段を登っていくと、本館のハイライト「中央ホール」に出る。天井高16メートルの大空間は、もともと「大陳列室」と呼ばれた展示室だった。今回のリノベーションでは、各展示室につながるハブ空間として大幅に機能転換。アイコニックならせん階段とバルコニーが心地よい躍動感を演出している。

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru

中央ホールの壁面の上部にズラリと並ぶ大きな採光窓は、照明設備がいまほど十分でなかった戦前の美術館建築ならではの意匠かもしれない。採り込まれた光は、重厚な漆喰の白壁に反射して、空間全体にやわらかく拡散する。まるで抱擁されるような安心感は、ほかの美術館では体験できない、京都市京セラ美術館ならではのものだろう。

本館展示室をめぐり終えたら、2階に行ってみるのがオススメだ。愛らしい円形窓やステンドグラス、大理石の壁。昭和初期の雰囲気がそのまま残った空間は、建築好きでなくてもグッとくるものがあるはず。

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru

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東山の裾で、躍動する「いま」を眺める

本館の建築を大胆に再解釈したリニューアルもかなり見応えがあるが、京都市京セラ美術館の魅力はこれだけにとどまらない。美術館の「もう一つの顔」といってもいい新館「東山キューブ」は、コンテンポラリーアートをはじめとした現代文化の諸相を紹介するための展示スペースだ。リニューアル後の初企画展は、世界的に活躍する日本人アーティスト・杉本博司の個展「杉本博司 瑠璃の浄土」。仏教に説かれる宇宙観、物質が流転する悠久の時間、それらのあいだで営まれる人類の呪術/美術/技術——。壮大なスケールの展覧会が、天井高5メートル・床面積約1000平米の大空間の中で展開する。

Photo: Koroda Takeru

「杉本博司 瑠璃の浄土」展示風景 © Hiroshi Sugimoto 撮影:小野祐次

「杉本博司 瑠璃の浄土」展示風景 © Hiroshi Sugimoto 撮影:小野祐次

東山キューブをかこむ回廊からは、雄大な東山を借景した日本庭園を望むことができる。「杉本博司 瑠璃の浄土」展の開催期間中は、庭園の池に杉本博司の《硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)》が設置されている。千利休の待庵にインスパイアされた二畳の茶室。そこに冠された「モンドリアン」の名は、20世紀を代表する抽象画家ピエト・モンドリアンにちなんだもの。このガラスの茶室には西洋と東洋の「アート」が同居していると杉本はいう。まさに日本の伝統と海外の先進が溶け合ってきた京都にふさわしい設えとなっている。

Photo: Koroda Takeru

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《硝子の茶室 聞鳥庵》2014年 京都市京セラ美術館での展示風景 ©Hiroshi Sugimoto Architects: New Material Research Laboratory / HiroshiSugimoto + Tomoyuki Sakakida. Originally commissioned for LE STANZE DEL VETRO, Venice / Courtesy of Pentagram Stiftung & LE STANZE DEL VETRO. 撮影:小野祐次

東山キューブと同じく、リニューアルにあたり新設された展示空間「ザ・トライアングル」は、京都にゆかりある新進アーティストの発表の場になっている。斬新な空間を新進気鋭のアーティストたちがどう活かしていくのか。シーズンごとの楽しみにするのもいいかもしれない。

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru


京都市京セラ美術館の新しいチャレンジ

京都市京セラ美術館は、日本の美術館の“新しい挑戦のかたち”であるといえる。日本の美術館は、その多くが高度経済成長期からバブル期にかけて建設され、開館から30年から半世紀近くが経過した。ハードの老朽化が顕著となり、自治体の人口・税収減などの問題もすでに深刻化しているが、単純なコストカット以外に有効かつ創造性のある解決策はいまだ少ないのが現状だ。

そのような流れに一石を投じるように、ハード整備についてはネーミングライツ制度を導入して地元企業の支援を取り付けるとともに、再開館後の運営については公民双方からなる運営チームを編成して、今までとは全く違う美術館運営へと乗り出した。さまざまなノウハウを持ったメンバーによってコンテンツの企画やPRが行われていくのを、行政が柔軟な対応と発想でバックアップしていけるかどうかが今後のカギとなるだろう。

美術館がアートを楽しむ場所であることは言うまでもないが、それは同時に日本の「文化」をつくりあげる長期のパブリックプロジェクトでもある。京都市京セラ美術館のチャレンジが、日本の新しい文化に結実するかどうか。京都に出かけたときは、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

Photo: Koroda Takeru

Photo: Koroda Takeru

タイトル

京都市京セラ美術館開館記念展「杉本博司 瑠璃の浄土」

会期

2020年5月26日(火)~10月4日(日)

会場

京都市京セラ美術館(京都府)

時間

10:00~18:00(事前予約制)

休館日

月曜

料金

【一般】1,500円【大学・高校生】1,100円【中学生以下】無料

URL

https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20200321-20200614