25 March 2021

音楽から見るパリの現代史
「写真家ドアノー/音楽/パリ」展

AREA

東京都

25 March 2021

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音楽から見るパリの現代史「写真家ドアノー/音楽/パリ」展 | © Yuya Furukawa

© Yuya Furukawa

東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで2021年3月31日(水)まで開催中の「写真家ドアノー/音楽/パリ」展。ロベール・ドアノーといえば、パリの情景やファッション写真のイメージが強いだろうフランスの国民的写真家だ。代表作である《パリ市庁舎前のキス》はあまりにも有名。本展ではパリの音楽の都でもある側面をドアノーが切り取ってくれる。ポップミュージックからクラシック音楽まで、ドアノーはさまざまな音楽シーンへ足を運んだようだ。

文/IMA

「写真家ドアノー/音楽/パリ」会場風景 © Yuya Furukawa

「写真家ドアノー/音楽/パリ」会場風景 © Yuya Furukawa

「写真家ドアノー/音楽/パリ」会場風景 © Yuya Furukawa

「写真家ドアノー/音楽/パリ」会場風景 © Yuya Furukawa


「写真家ドアノー/音楽/パリ」展は、「街角」「歌手」「ビストロ、キャバレー」「ジャズとロマ音楽」「スタジオ」「オペラ」「モーリス・バケ」「1980-90年代」と、およそドアノーの撮影遍歴をたどるように8セクションで構成される。

ドアノーは幼少期に短期間ヴァイオリンを習ったことがあり、耳から写真の道に進んだと自覚していると書き残している。音楽を愛していたことを裏付けるエピソードだ。

展示のキーのひとつは、第二次世界大戦時のナチス占領が解ける1944年のパリ解放だ。抑圧された環境からパリジャン・パリジェンヌは抜け出し、街は活気を取り戻し、音楽に溢れる。いろいろなラッパや、太鼓を携えたバンドがパリを練り歩き、そこここで演奏し、オリジナル曲の歌集を聴衆へ販売し、みなで合唱する。その幸福感溢れるパリをドアノーは活写する。市井の人々へ向けられる彼のレンズはこの上なく愛に溢れている。

ロベール・ドアノー 《運河沿いのピエレット・ドリオンとマダム・ルル》パリ 1953年2月 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《流しのピエレット・ドリオン》パリ 1953年2月 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《音楽好きの肉屋》パリ 1953年2月 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《パリ祭のラストワルツ》パリ 1949年7月14日 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact


このパリ解放から数十年の最もパリが美しい時代をドアノーはとらえたのだ。しかしただ楽し気な写真だけではない、ドアノーの作品にはどこか哀愁も漂う。流しの美しいアコーデオン弾きピエレット・ドリオンや黒人ジャズ奏者、ロマたちなどの写真を見て欲しい。ドアノーはどこか憂愁を帯びた一葉を好むのだろう。会場にはコンタクトシートも展示されている。そこには天真爛漫な笑顔のフィルムもあるのだが、現像するのは愁いを纏った一枚だ。写真家、ストーリーテラーとしてのドアノーの一面を窺い知ることができる。

ロベール・ドアノー 《サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ》 1947年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《イヴ・モンタン》パリ 1949年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《レクリューズのバルバラ》パリ6区 1957年12月 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《ル・プティ・サン=ブノワのマルグリット・デュラス(作家)》サン=ジェルマン=デ=プレ 1955年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

パリ解放後、アメリカ進駐軍が進出してきたことによりジャズが広まった。写真はジャズクラブの1シーン。ロベール・ドアノー 《アーサ・キット》サン=ジェルマン=デ=プレ1950年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ジャズとロマ音楽を融合させたジャンゴ・ラインハルト。ロベール・ドアノー 《ジャンゴ・ラインハルト》パリ 1950年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact


パリはシャンソンやカフェ、キャバレーという大衆文化がみずみずしいのはもちろん、オーセンティックなクラシック音楽でも音楽史に重要な足跡を残してきた。ドイツ・オーストリアの音楽の都がある一方で、パリにはフランス革命以降サロン文化が花開き、ショパンやリストらが集結。19世紀末になるとドビュッシー、ラヴェルなど近現代音楽の先駆者が音楽シーンをリードした。続く現代音楽でもパリの影響力は強い。オリヴィエ・メシアン、ピエール・ブーレーズ、アンリ・デュティユー、ピエール・シェフェールなどが新たな音楽語法をつくろうとパリで切磋琢磨していたのだ。そんな彼らのポートレイトをドアノーが撮っていた。

ロベール・ドアノー 《録音中のマリア・カラス、パテ・マルコーニ・レコードのスタジオにて》 1963年5月8日 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《録音中のマリア・カラス、パテ・マルコーニ・レコードのスタジオにて》 1963年5月8日 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

作曲家ばかりでなく一流の演奏家も集まっている。ピアニストのイヴ・ナットやジョルジ・シフラ、プッチーニの「トスカ」録音に臨むマリア・カラスなどなどクラシック音楽好きなら立ち止まってしまうほどに貴重な面々のマエストロたちの肖像が揃っている。彼らが楽器に向かう姿勢はとても自然だ。ドアノーはあえて仕事場での撮影を依頼したという。被写体が最もリラックスすることを知っていたのだ。そこからドアノーと被写体との関係が浮かび上がってくる。

「パリの人への愛と都市の魅力を感じて欲しい」とBunkamura ザ・ミュージアムの学芸員は話す。見ると間違いなくパリを思い出し、そして頭の中はパリに溢れる。パリへ行ったことがある人はもちろん、まだ足を運んだことのない人も、パリの魅力に取りつかれること間違いない。美しく、愛があり、そしてもの哀しいパリ。まだまだ現地へ赴くことは難しいかもしれないが、パリのひと時を味わわせてくれる。“パリは、時間の浪費がチケット代わりになる劇場だ”とのドアノーの言葉のように、本展の時間も美しい浪費となる。

ロベール・ドアノー 《ポン・ド・クリメのジャック・プレヴェール》パリ19区 1955年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《バレエ「カルメン」の衣装合わせ、イヴ・サン=ローランとジジ・ジャンメール》 1959年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《雨の中のチェロ》 1957年 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

ロベール・ドアノー 《レ・リタ・ミツコ》 1988年10月13日 ゼラチン・シルバー・プリント © Atelier Robert Doisneau/Contact

タイトル

「写真家ドアノー/音楽/パリ」

会期

2021年2月5日(金)~3月31日(水)*3月27日(土)、28日(日)の二日間に限り「オンラインによる入場日時予約」が必要

会場

Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都)

時間

10:00~18:00(金土曜は21:00まで/入館は閉館の30分前まで/3月27日、28日の二日間に限り「オンラインによる入場日時予約」が必要)

URL

https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_doisneau/

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