7 December 2022

川内倫子が語るイメージと音楽の関係性。「写真は音を写せるか」〜MAKE WAVES RADIOより〜

7 December 2022

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川内倫子が語るイメージと音楽の関係性。「写真は音を写せるか」〜MAKE WAVES RADIOより〜 | 川内倫子が語るイメージと音楽の関係性。「写真は音を写せるか」〜MAKE WAVES RADIOより〜

ヤマハ銀座店の1階にある真っ白なピアノ、key between peopleを囲んで、繰り広げられる参加型インターネットラジオ「MAKE WAVES RADIO」。ヤマハのブランドプロミスであり、番組のタイトルでもある「make waves〜心震わす瞬間」を毎回ゲストの方に聞いていく。make wavesとは、ヤマハが自ら一歩を踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しする存在でありたいという思いを込め、人々が心震わす瞬間を表現した言葉になっている。
今回はIMAとのコラボ企画として、現在、大規模個展「川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なり」を開催中の写真家の川内倫子に、「写真は音を写せるか」のテーマで、ナビゲーター・クリス智子のリードで音楽と写真の関係性についてひもといてもらった。

写真:川島宏志
取材・文:IMA


写真は、自分の記憶と会話できる便利なツール

クリス智子(以下、クリス) 川内さんは写真家ですが、もともとはグラフィックご出身とか。
川内倫子(以下、川内) 大学ではグラフィックデザイン学科の映像コースを専攻しました。その中で写真の授業が週に1回だけあったんですけど、グラフィックデザインより写真の授業の方が楽しくなってきて。卒業してからもっと写真を勉強したいなと思ったんですけど、写真の学校に行くよりは現場で覚えていきたいと思い、写真のスタジオに就職しました。

クリス 写真のどういうところが面白いと思ったんですか?
川内 その時は、撮影するというよりも、どちらかというと暗室作業が好きだったんです。大学の暗室でモノクロのプリントを教えてもらった時に、現像液に漬けて画像がフワッと浮かび上がってくるのが面白かった。それで、だんだんのめり込んでいって、卒業してからもやりたいなと思ったんです。

クリス グラフィックデザインと写真はものすごく違う気もしますが。
川内 そうですね、さっき見たものが、画像として紙に定着されて、自分の手の中にあるというのが面白かったんですよね。自分の経験が平面の紙になるということが。

クリス そこで写真家になろうと思ったんですか?
川内 最初は写真家やカメラマンになりたいというよりも、自分が見たものを自分の理想的な形で平面に表したいと思ったんですが、それが意外に難しかったんですよね。だから技術を学ぶためにスタジオに。というと就職したところに失礼なんですけど(笑)。

クリス 何かを表現したいという気持ちがはっきりあったのか、それとも「違う」ということが積み重なって自分の表現が見えていったのか。
川内 写真の技術を身につけるのもなかなか難しくて、特にその当時はアナログのフィルムカメラでデジタル技術もないから加工もできないし。自分の見た通りに紙に定着できないというもどかしさを抱えながらずっとやっていました。

参加型インターネットラジオ「MAKE WAVES RADIO」


クリス 撮れてしまう写真の偶発性というよりは、自分の頭の中でイメージを見つけてシャッターを切っていたんですかね。
川内 そうですね。自分が見たものじゃないものがイメージとして現れてきているという違和感を埋めるために、技術が欲しかったというか。それをずっと続けていたら、いまに至るという感じです。

クリス 何見ていたんですかね(笑)。
川内 見るものって毎日新しくて更新されるじゃないですか。毎日更新されると、いまの自分がアップデートされて、また更新されて……そうなると、終わらない。

クリス 写真の面白い一面としては、例えばフェイクでシーンを作って写真を撮っても、それが事実として見えてしまうような時もあるじゃないですか。実際に自分が見たものもあるはずなんだけど、写真として見せられると写真の方が強いというか。川内さんはイメージに現れたものより、自分の感覚の方を大事にしているのですか?
川内 どっちでもないかな。表現が難しいんですけど、自分が撮った写真を見て、私はこういう風に見ていたんだとか、ちょっとずれや違和感があるとか、なんらかの思いがあるわけです。自分が何を見ていたのかということを整頓するために、写真はすごく便利なツールなんです。何かしら自分の記憶と会話できるから。それが、自分にとって大事な時間ですね。


自分が現れてしまう写真は、今でも恥ずかしい

クリス ひとつぼ展でグランプリを受賞したことは、作品で認められたひとつの形だと思いますが、その反応と、自分が表現したかったものが合致した感じはあったんですか?
川内 微妙にずれはあったんですけど、その時に、撮った写真を人に見せるのが初めて恥ずかしいと思ったのをすごく覚えています。それまでは上手に撮れたら友達や先生に見せていたのに、ひとつぼ展でグランプリいただいた作品を見せて、初めて恥ずかしいと思ったんですね。今考えると、それは自分が写真に表れているからだと思うんです。そういう意味では良かったんだと思うんですね。それくらい自分自身が写っていたので。

クリス それはどういうものが写っていたんですか?
川内 日常的な、よく目にするモチーフばっかりなんです。それが初めての経験だったんですけど、それ以降も毎回自分が写っているから、作品集を出したり展示をするたびに恥ずかしい。でもやっぱり一番最初の時が一番恥ずかしかったですね。

クリス 写真は何かの被写体を写してはいるけど、やっぱり自分が写っているんだなっていう感覚はありますよね。
川内 そうですね。だから恥ずかしい。

クリス 今日は写真と音というのをテーマにしているんですけど、川内さん自身は、「写真と音」という言葉を聞いたときにはどんなことが頭に浮かびますか?
川内 自分の中では、撮影しているときは無音なんです。ものすごく集中しているので、あまり自分の中で音を感じなくて。それはそれで面白い体験だと思うんですけど。

クリス 川内さんの写真を拝見しているときには、今おっしゃったような集中したときに周りの音が聞こえなくなるような、音がなくなるような気配を感じます。写っているものが水だったり、木のそよぎであったり音がするものなんだろうけど、対峙するときの物と物の間には音がないような感じすらします。
川内 集中すると、そうかもしれないですね。

クリス 写真って考えたり、撮ったり、現像したり、一連の長い工程があるじゃないですか。そういう過程では音楽や音は入れるんですか?
川内 プリントするときとか、仕事を始めるときには音楽をかけると、ドライブがかかりますね。起爆剤のような感じです。特に暗室の時に音があるのは助かります。

川内倫子


クリス 作業のいろんな工程のときに音が欲しいこともあるし、ないこともありますよね。
川内 スタジオで勤めていたときは、いろんなカメラマンさんが来ていたんですけど、絶対ロックしかかけない人もいたりして、みんな音楽に助けられている感じがありました。

クリス 音楽と川内さんの作品というところで言うと、ミュージックビデオとか映像という作品も、洋服のブランドなどと作品がコラボレーションという形でありますよね。Baobabとharuka nakamuraのkanataという曲も、ジャケットや映像という形でご一緒されています。制作に至ったきっかけは?
川内 もともとはBaobabと友達で。harukaくんも共通の友達がいたりして、一時期同じ街に住んでいたりしていたので知っていたんです。Baobabと私がある場所でイベントをやったときに、harukaくんも来てくれて。そこで一気にみんな仲良くなって、それからharukaくんとBaobabが一緒に音作りをするようになって。そんな縁もあって私も一緒に参加させていただくことになったんです。

クリス 今回の個展「M/E」でも、その映像が流れてますね。Baobabはボーカルで、haruka nakamuraのキーボードですが、それぞれの音ができてから、映像や作品を合わせていったんですか?それとも川内さんの作品の中から選んだんですか?
川内 音が先でしたね。音に合わせて撮ったり、もともと自分が持っている映像のアーカイブを使ったりして、混ぜて作りました。
自分では絶対に作れない世界なので面白かったですね。編集は全部自分でやったんですけど、位置をちょっとずらすだけで見え方が変わったり、すごく楽しくて。

クリス 一枚の写真と、流れていく写真という感覚なんですか?
川内 写真集の編集の感覚に近いんですけど、そこに音が入ってくるっていうのが、自分ではできない世界なのでとても豊かな時間というか。編集している時間が幸せでした。

クリス 写真1枚1枚も、並び方とか編集で全然変わりますよね。撮る時は全体の流れを想像してその中の1枚として撮っていないじゃないですか。
川内 それがつながっていくのが写真の編集でも一番楽しいところですかね。醍醐味というか。だんだん一つずつのパーツが大きなひとつの世界になっていくというのが、作っていて楽しいです。

「MAKE WAVES RADIO」の様子


ミクロからマクロに自分が反転していく感覚を写真で表現

クリス 現在開催中の個展のタイトルが、「M/E」。これにはmotherとearth、そしてme(自分)という二つの意味があるそうですが、「球体の上 無限の連なり」というサブタイトルも付いているんですね。今回の展示では、どういう写真をどんな形で編集して届けよう考えましたか?
川内 ちょうど東京で美術館個展をしたのが10年前だったので、この10年間の自分の活動に焦点を当てて構成しました。前半と後半に分けて、後半が新作の「M/E」です。

クリス この10年は社会的にもいろんなことがあったし、ご自身のライフストーリーでもいろんな変化があった中での作品ですよね。光や水のようなマクロな自然物から、街の風景や人の営みのようなミクロなものまで、人生をくぐりぬけるような感覚がありました。それは川内さんの作品にいつも感じるものでもあるんですけどね。
川内 自分の中でも小さなものから大きなものに、自分が反転していくような感覚を撮影中にすごく感じていたんです。撮影で感じたことを見てくださる方にも同じようにシェアできたらいいなという思いで、今回、ああいう展示になりました。
2019年にアイスランドに行ったときの体験が大きいんですが、休火山の内部に入ったんです。かつてマグマが溜まっていた内部にゴンドラで下に降りていけるんです。そこに入った時に初めて地球に包まれている感じがするという体験をして。自分の中では衝撃でした。ちょうど出産を体験してそんなに時間が経っていなかったので、自分が地球の胎内にいるような感覚にもなり、この星とのつながりを感じました。その感覚もシェアできるといいなと思って、体験型の空間構成にしてみました。

川内倫子


クリス 今回の映像体験も面白かったです。写真の下に水面がきたなと思ったら、宇宙なんだと思ったり、木が下にあるから自分が鳥みたいに思えたり、不思議な感覚になりました。
川内 あれも自分が体験したことをなるべく忠実に再現したいなと思って。平面の写真だけだと、わりと限界があるので、映像作品の力というのもあるなと。

クリス 番組ではヤマハのブランドプロミス、番組のタイトルにもなっているんですが、make waves心震わす瞬間をゲストの方にお伺いしています。川内さんのそういう瞬間はどういうとき、どんなものですか?
川内 撮影の時には、自分が感じる前に体が動いていることがわりと重要だなと思っていて。パッと体が反応しちゃうときがやっぱりいい写真が撮れているんですね。反射神経で撮ってますね。

クリス その後どうしてそれに反応したのか考えるのが面白いですよね。
川内 実際に撮ったものが全部発表に値するかというとそうでもないので、それを暗室でプリントしたり、デジタルだとデジタル現像しながら自分と写真の対話を積み重ねていくと、だんだん形が見えてくるという感じなんですね。その時間がすごく大事です。

MAKE WAVES RADIOはこちらから

川内倫子
72年滋賀県に生まれる。2002年『うたたね』『花火』(リトルモア刊)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。主な著作に『AILA』(05年)、『the eyes, the ears,』『Cui Cui』(共に05年)、『Illuminance』(11年、改訂版21年)、『あめつち』(13年)など。09年にICP(International Center of Photography)主催の第25回インフィニティ賞芸術部門受賞、13年に芸術選奨文部科学大臣新人賞(12年度)を受賞。主な国内での個展は、「照度 あめつち 影を見る」(12年・東京都写真美術館)、ほか多数。近刊に写真集『Des oiseaux』『やまなみ』『橙が実るまで』(田尻久子との共著)。現在、東京オペラシティ アートギャラリーで「川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なり」を開催中(〜12月18日まで)。

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