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Masamichi Toyama

わたしの一枚
vol. 2 遠山正道(スマイルズ代表取締役社長)
「作家と知り合う可能性があるというのも、現代アートならではの醍醐味」

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遠山正道 01

スマイルズの社内にあるイベントスペース兼スタジオにて。左が立石幹人の作品、右は海外から届いたばかりのベルンド・オップルの作品だ

私物のアート写真を拝見し、その一枚について本人に話を聞く連載企画「わたしの一枚」。第2回は株式会社スマイルズの代表取締役社長、遠山正道を訪ねた。スマイルズは「スープストックトーキョー」を始めとして、既成概念にとらわれない新しい事業を展開する会社。社内には多くのアート写真がディスプレイされており、そのすべてが遠山のセレクトによるものだ。海外から到着したばかりのベルンド・オップルの作品と、「アイデアが素晴らしい」という立石幹人の作品の、わたしの“二枚”について語る。

文=加瀬友重
写真=鈴木泰之

【作品名】
・ベルンド・オップル「Terminal B」
・立石幹人「#housesofparliament – Sunrise Comparative Study of Upload Time」

ベルンド・オップルの作品は、今年のアート・バーゼルでたまたま見つけたものです。広い会場には毎年数多くの作品が展示されますが、ほとんどが驚くほど高額。「欲しくてもどうせ無理だろう」という意識が働くのかもしれませんが、それを差し引いても本当に欲しいと直感する作品は、意外に少ないんですよね。でもこの写真はとても好みでした。いつも通り諦め半分で(笑)ギャラリストに聞いてみたら、手の届く値段だったんです。

この作品を見てまず、「いったいどうなっているんだ?」と思いました。エクトプラズムのようなものが漂っていて、ちょっと呪術的な印象。でも、背景のシチュエーションはどこにでもある無記名な感じ。何かを狙って撮ったわけではないのに、変なものが漂ってきてしまったというような……。とにかく不思議だったので、ギャラリストにどう撮っているのか聞いてみました。すると、「3Dプリンタで小さな模型の空間を作り、それを液体で満たして、インクを注入した瞬間を撮影しているんです」と教えてくれました。

今年のアート・バーゼルで購入したベルンド・オップルの作品

今年のアート・バーゼルで購入したベルンド・オップルの作品

CGやフォトショップでやればできてしまうことを、リアルでやってしまうというのが面白い。水に垂らしたインクが広がる様を「きれいだな」と感じて写真に撮ろうとする人は世界中にいると思うのですが、こういう発想の飛躍と、その発想を実現してしまうところがすごいですよね。モダニティと有機性のようなものが混ざり合ったヴィジュアルだと思います。

確かエディションも少なくて、「ひとつのアート作品としてきちんと存在させよう」という若い作家の意気込みを感じました。この撮影はなかなか大変だと思うので、僕だったら20枚くらいは刷りたくなってしまいますが(笑)。

撮影のカラクリは知れば楽しいけれど、最初からはいわないでほしい。あとで知りたいです(笑)。いずれにせよ、広大なバーゼルの会場の中で欲しいと思える作品と出合って、しかもそれが買える価格だったというのが、とてもうれしかったですね。


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この企画のタイトルは「わたしの一枚」と聞いていましたが、実はこちら(立石幹人の作品)も紹介したかったんです。“わたしの二枚”でもいいですか?(笑)一見、絵画のような作品です。でも実は、ロンドンのウェストミンスター宮殿のこの位置から撮られた約11万枚の写真を、AIが重ねた結果出来上がったものなんです。彼は写真家でありながら1枚もシャッターを切っていない。これもまた、すごいことを考えるなあと思いました。

立石幹人の作品

立石幹人の作品。インスタグラムのハッシュタグ「#housesofparliament」に紐づく画像を11万枚も重ねて制作した

彼は人物写真などでもこういう手法を試みています。一枚一枚はきっと普通の写真なのに、無数に重ねると印象派のモネの絵のようになる。

作品を通じて作家と知り合う可能性があるというのも、現代アートならではの醍醐味かもしれません。立石幹人という人物はなかなか面白いんですよ。ルックスもカッコよくて、音楽も映像も作る多彩な人。ライアン・マッギンレーが編集したカルティエの本(編集部註:『With Nail & I』IMA Photobooks刊、2017年)があるんですが、彼はその撮影モデルの、一般公募に応募したそうです。そして見事に採用されたという。ライアンも立石くんのことを気に入ったみたいで、その仕事のあと、ライアンを京都案内したそうですよ。

これは鈴木芳雄(美術ジャーナリスト/編集者)さんがおっしゃっていたんですが、現代アートは「続けること」が大事だと。当然といえば当然で、ビジネスでいえば普通のことですが―アートは現実問題として「続けること」が難しい。家族や子どもができると金銭的なことも切実です。

それでも作家として活動を続ける強い理由がある。その強い理由を、作品を通じて作家とともに確認し共感することが楽しいのだと思います。そして少々おこがましいのですが、自分がいいと思った作家が「売れていく」様子を見つめることもまた、面白い。それにしても、どちらの作品も品がいいですよね。感覚的ですが、シュッとした感じ(笑)。

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このアート写真は私個人のコレクションなのですが、会社のコレクションの場合、「社員が見る」という前提が作品選びに影響しているかもしれません。僕自身も、こういうアート写真が持つ発想力、技術力、集中力を自分の仕事で発揮しているか?と自問するのですが……。ちょっと敵わないかもしれませんね。我々のような「見えないものを見て、それを見えるように見せる」ビジネスに携わる者にとって、こういう発想力や技術力はきわめて重要だと感じています。

新しいビジネスのアイデアを思いついたときって、社員には「これ絶対に秘密ね」と釘を刺します。そのアイデアを中途半端な形で、誰かに先に使われるのは嫌ですから。これはと思うアイデアが浮かんだときの“ワクワク感”は、きっとアーティストたちにもあるのだと思います。

彼らアーティストは何かに出会うべく思考を重ねていって、あるとき光明が差して、こういう作品をものにするのではないでしょうか。常に思索して、検証を重ねて、一枚の作品を得る。アート作品を購入するきっかけは直感で「いいと思う」かどうかですが、そういった創作過程にもある種のシンパシーを感じています。いや、シンパシーであり、ジェラシーでしょうか。

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人物プロフィール

遠山正道|Masamichi Toyama
1962年、東京都生まれ。慶應大学商学部卒業後、85年に三菱商事株式会社入社。2000年に株式会社スマイルズを設立。現在「スープストックトーキョー」のほか、ネクタイ専門店「ジラフ」、セレクトリサイクルショップ「パスザバトン」、現代アート作品を展示するレストラン「パビリオン」、離乳食も提供する家族連れ向けレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念とし、既成概念や業界の枠にとらわれず現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。
http://www.smiles.co.jp/

作家プロフィール

ベルンド・オップル|Bernd Oppl
1980年、オーストリア・インスブルック生まれ。ウィーンを拠点として活動するフォトグラファー/アーティスト。リンツ工科造形芸術大学(Kunstuniversität Linz)で絵画とグラフィックアートを学ぶ。作品はチロル州立博物館、レントス美術館などに所蔵。
https://berndoppl.net/

立石幹人|Mikito Tateishi
1986年、米シカゴ生まれ。慶應義塾大学卒業。2017年に株式会社立庵を設立。写真、映像、インスタレーションなどの企画制作を行っている。現在、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに在学中。
https://www.mikitotateisi.com/