Photographer's Table

写真家の食卓 vol.2 石内都×ソニア・パーク×黒河内真衣子(前編)
(IMA 2017 Winter Vol.22より転載)

1 May 2020

Share

写真家の食卓 石内都×ソニア・パーク×黒河内真衣子(前編) | 石内都×ソニア・パーク×黒河内真衣子

写真家が料理を振る舞い、ゲストとのトークを繰り広げる連載第二弾では、スタイリストのソニア・パークとファッションデザイナーの黒河内真衣子が、石内都の食卓に招かれた。料理、作品、記憶、価値観……多彩なトピックを横断する、女性たちの尽きることのない会話に耳を傾けてみよう。

文=IMA
写真=川内倫子

写真家としてのキャリアをスタートした暗室のある金沢八景の自宅で、大人数の友人を料理でもてなすのが好きだという石内都。横浜美術館での個展を前に、プライベートでも親交のあるスタイリストでARTS&SCIENCEオーナー、ソニア・パークと、ファッションブランド Mame Kurogouchiのデザイナー、黒河内真衣子を招待した。世代を超えた3人の作り手が惹かれ合う理由は何なのか? 食やものづくりについての対話から、彼女たちに共通するものを紐解いてみる。

寒いから温まるようにと、急遽メニューに加わったロシアの水餃子ペリメニ。

寒いから温まるようにと、急遽メニューに加わったロシアの水餃子ペリメニ。

多国籍な料理を囲み、3人の表現者たちが交差する

石内都(以下“石内”): さぁ、温かいうちに食べてくださいね。

黒河内真衣子(以下“黒河内”):これが噂に聞いていたピーマンご飯ですね !

ソニア・パーク(以下“ソニア”):リビア人のご友人から教わった料理とか?

石内:そうです。もう30年くらい前のことだから、私の味になっていますけど(笑)。その当時、友人がリビアから国費留学の第1期生として日本に来ていたシャバンという男性とお付き合いしていたんです。彼に出会ったことで、リビアという国やカダフィ大佐について知りました。その彼が帰国する前に、我が家で作ってくれたのが、このピーマンご飯です。「この料理を日本に伝えるために作るからよく覚えておいてね」と。それ以降、彼の意思を引き継いで振る舞っています。今日は、二人に食べてもらえて、とても嬉しい。アリッサという香辛料をたくさん使っているから、ちょっと辛いけど大丈夫?

ソニア:はい。辛いのは好きなので。

石内:私は料理をするときに分量を量ったりするのが苦手。適当な量で作るんです。アリッサも一缶全部使い切りたいから、そのために10人分くらい作るんですよ(笑)。

黒河内:ピーマンが、すごくジューシー。

石内:夏が終わったからピーマンが小さいんですけど、これはこれでいい感じね。私は食べたことのないものを食べるのが好きで、いろんな国のレシピを参考にします。今日もギリシャ、ポルトガル、フランス、ロシアなど、多国籍な料理にしてみました。食べることは生きる基本ですよね。だから自分で作るようにしています。そして、ピーマンご飯しかり、料理にはそれぞれ物語がありますし、歴史を知ると、より美味しく作れる。食事とは、そんなに単純なことではないです。

慣れた手つきで得意料理の“ピーマンご飯”を作る。大量のパセリと、アリッサを一缶丸ごと入れるのが石内流。

慣れた手つきで得意料理の“ピーマンご飯”を作る。大量のパセリと、アリッサを一缶丸ごと入れるのが石内流。

慣れた手つきで得意料理の“ピーマンご飯”を作る。大量のパセリと、アリッサを一缶丸ごと入れるのが石内流。

黒河内:田舎の祖母がおひたしや煮物をよく作ってくれていたのですが、子供の頃は、そういうのは好きではなくて、スパゲティとかハンバーグが食べたかった。でも、いま食べたいものは小さいときに食べていた料理。食って戻るんだなと思いました。石内さんの最初の料理は、小学校2年生のときに作ったじゃがいもの煮付けっておっしゃってましたよね?

石内:醤油で煮ただけのものでしたが、料理をすることで泥だらけの汚いじゃがいもが食べられるものに変化するのに感銘を受けました。料理と写真に共通するのは、両方とも科学であることですね。何かと何かを調合して、新しいものを生み出すので。


世代を超えた女性たちのコラボレーション

石内:写真を続けていて面白いと思うことが、こうやってふたりと出会ったような流れが生まれること。私はファッション写真を撮ってこなかったから、昨年ソニアからコラボレーションの相談をもらったときは、すごく新鮮でした。そういえば、ふたりはいつから知り合いなの?

ソニア:2015年のmameのコレクションで出会いました。

石内:私と出会った時期と、そんなに変わらないのね ! ふたりのテイストって、ちょっと違いますよね。それが面白い。

ソニア:共通点は何だろうと考えたときに、あんまりなくて(笑)。単純に、女性ひとりで頑張って信念を貫いているマメちゃん(黒河内)に興味を持ったのがきっかけです。売ることを目的に、うまいことマーケティングをした似たり寄ったりのデザインも市場に多く出回っていますが、彼女は攻めたものを作っていて面白いなと思って。次世代から学びたいと感じましたし、どこかの大きな資本も入っていないインディペンデントな姿勢にも惹かれ、一緒に何かやりたいと思いました。そうしてコラボレーションアイテムを作り、この春にAT THE CORNER by ARTS&SCIENCEでお披露目したのですが、そのときに「洋服を見せるだけじゃないことをしよう」ということになったんだよね?

黒河内:「女性で表現者という共通点から、何かを導き出そう」となり、私たちの中で「石内都」というキーワードが出てきたんです。それでお声がけしたら、石内さんが「三人対等でやろうよ」っていってくださって。当初は、こんなに深く関わってくださるとは思っていませんでした。

ソニア:そうでしたね。最初は、コラボレーションイベントのインビテーションに作品を使わせてもらえたら−−くらいで考えていたのですが、作品を展示させていただけることになって。ちょっとした思いつきから始まって、みなさんには申し訳ないけど、3人で遊んじゃいましたね(笑)。

石内:マメちゃんとは、そのお話がある前に会ってましたよね。最初は、昨年の資生堂ギャラリーでの個展「Frida is」の際に開かれたトークに出演してもらったときでした。あのトークは、すごく好評でしたよ。

黒河内:ちょうど石内さんがフリーダ・カーロの遺品を撮ったシリーズをインスピレーション源にしてコレクションを作っていた時期に出演依頼をいただいたので驚きました。その後、ソニアさんの事務所に石内さんの「Mother’s」が飾ってあるのを見て、さらに驚いたんです。そういった経緯があったので、コラボレーションにつながったと思います。

Ishiuchi Miyako x A&S x mame

Ishiuchi Miyako x A&S x mame
2017年3月25日〜4月2日、青山にあるAT THE CORNER by ARTS&SCIENCE(現OVER THE COUNTER BY ARTS&SCIENCE)で開かれた3人によるコラボレーション展。A&S、Mame Kurogouchiそれぞれのコレクションとコラボレーションアイテムとともに、ソニアと黒河内がセレクトした石内作品が展示されるという贅沢な企画となった。

ソニア:3人でのコラボレーションのために新しく作品をプリントする時間はなかったので、この自宅で写真を選ばせてもらい、そういえば、その時もご飯をごちそうになりましたね。マメちゃんは「Frida by Ishiuchi」から、私は石内さんの作品を好きになったきっかけである「Mother’s」から選びました。石内さんがお母さんの遺品を撮影した「Mother’s」は、愛情だけでなく、ちょっとした意地悪心も含まれているように感じます。女同士の憎しみではないけど。お母さんは発表されることに対して何も言えないですからね。私が自分の母親に向ける複雑な気持ちと似ていて、過去に「Mother’s」を3点購入させて頂いたんです。石内さんいわく、そのふたつのシリーズを一緒に飾ったことはないということだったので、即決で決めました。ひとりの方が撮った写真なので、違うシリーズを合わせても、まったく違和感がなかったですね。

「Frida by Ishiuchi」(2012)

© Ishiuchi Miyako 「Frida by Ishiuchi#107」

© Ishiuchi Miyako 「Frida by Ishiuchi#3」

© Ishiuchi Miyako 「Frida by Ishiuchi#24」

20世紀のメキシコを代表する偉大な女性画家として、右足の小児麻痺や交通事故の後遺症など、痛みを伴った激動の人生を歩んだことでも知られるフリーダ・カーロ。2012年、フリーダ・カーロ博物館から依頼を受け、コルセットやサイズの違う靴など、フリーダの死後50年を経て公開された遺品を、石内が撮影したシリーズ。

「Mother’s」(2000〜2005)

 Ishiuchi Miyako 「Mother's #35」

 Ishiuchi Miyako 「Mother's #35」

使いかけの口紅、下着、櫛など、複雑な関係性であったという母親の遺品をひとつひとつ丁寧に撮影することを通して、84歳で亡くなった一人の女性と静かに向き合った作品。

後編に続く

石内都|Miyako Ishiuchi
1947年、群馬県桐生市生まれ。神奈川県横須賀市で育つ。1979年に「Apartment」で女性写真家として初めて第4回木村伊兵衛写真賞を受賞。2005年、「Mother’s」で第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出される。2007年より現在まで続けられる被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」も国際的に評価され、2013年紫綬褒章受章。2014年にはハッセルブラッド国際写真賞を受賞。

ソニア・パーク
韓国生まれ、ハワイ育ち。1991年よりフリースタイリストとして活動。雑誌や広告のスタイリングのほか、自身が手がけるセレクトショップ「ARTS&SCIENCE」のオーナー兼クリエイティブディレクターも務める。『Casa BRUTUS』の連載コラム「MY MASTERPIECES」では、日本のクラフトや世界の手仕事などを中心に紹介。著書に『SONYA’S SHOPPING MANUAL』(マガジンハウス)を3冊上梓。

黒河内真衣子|Maiko Kurogouchi
2010年黒河内デザイン事務所及び、自身のブランド「Mame Kurogouchi」を立ち上げる。11年春夏からコレクションを発表。14年毎日ファッション大賞にて新人賞・資生堂奨励賞を受賞。17年FASHION PRIZE OF TOKYOを受賞。18年3月にパリにてコレクションを発表。パリのCentre Pompidou Metzにて開催されたJapanorama. A new vision on art since 1970に14年秋冬コレクションが展示された。