Photographer's Table

写真家の食卓 vol.2 石内都×ソニア・パーク×黒河内真衣子(後編)
(IMA 2017 Winter Vol.22より転載)

1 May 2020

Share

写真家の食卓 石内都×ソニア・パーク×黒河内真衣子(後編) | サボテンやアボカドの木など、多様な植物が青々と生い茂る石内邸の庭。 そのほとんどは、“緑の手”を持っていた石内の母親が植えたものだという。

サボテンやアボカドの木など、多様な植物が青々と生い茂る石内邸の庭。 そのほとんどは、“緑の手”を持っていた石内の母親が植えたものだという。

写真家が料理を振る舞い、ゲストとのトークを繰り広げる連載第二弾では、スタイリストのソニア・パークとファッションデザイナーの黒河内真衣子が、石内都の食卓に招かれた。料理、作品、記憶、価値観……多彩なトピックを横断する、女性たちの尽きることのない会話に耳を傾けてみよう。

文=IMA
写真=川内倫子

前編はこちら

自分の価値観を経験から導きだす

ソニア:石内さんも、マメちゃんも、個人の記憶をテーマにした作品を作っていますよね。

石内:本当の記憶なんてない。それは時が経ってからイメージする過去。それが記憶というものだと思う。

黒河内:私は、自分の中に蓄積されていくレイヤーは、ある意味正しいと考えています。そういう引き出しから何か違うものを生み出すことができますから。

石内:ひとつのきっかけですよね。

黒河内:そうですね。それらは自分が生きてきた時間の中で少しずつたまっていくものなので、大事にしたいと考えています。石内さんのフリーダ・カーロの作品を見たときに、そこにさまざまな時間の流れがあるけれど、それらの時間軸やフリーダの物語とはまた別で、いま自分がきれいだと感じて、その服や靴がクローゼットの中に入っていたら明日着たいと思う感覚ってすごく素敵だなと感じました。ファッションにおいては、時間が流れる中にははやり廃りがありますが、自分が最期死ぬときにクローゼットに何を入れたいかを問うきっかけになったのは、石内さんの写真でした。

石内都

黒河内真衣子

ソニア・パーク

石内:フリーダの時代もいまも、未来も、人間が生きる意味ってそんなに特別ではないんです。自分の“好き”や価値をどこに見出すか。たくさんある価値観の中から自分が何を発見するかってことかな。たまたまね、マメちゃんも、ソニアも、根本的な生き方やちょっとしたことが共通している。でもそういった“ちょっとしたこと”が共通している人って、なかなかいないから。

ソニア:私は雑穀みたいに強く生きている人が好き。磨かれて、磨かれて、精米された山田錦のような人物はつまらないと感じてしまうんです。磨きをかけすぎると、人間として面白くなくなってしまう。でも一回磨きをかけちゃうと、元には戻れないんですよ。ワイルドに生きている人が好きなんです。

黒河内:物を見るときも、同じ視点ですか?

ソニア:そうかもしれないですね。完璧じゃないもの、ちょっと崩れていた方が好きかもしれません。

黒河内:ソニアさんは、いろんなものを所有する中で、価値があると思うものはなんですか?

ソニア:私は、やっぱりすごく欲深い部分があって、「美しい」って衝動的に物を買うこともあります。所有したい欲って何だろうって考えますよね。でも、こういうみんなとの時間とか、お金を経験に換えることに価値があると考えています。勉強と一緒で、昨日今日だけでは蓄積できないものですから。

黒河内:私自身も30代になり、仕事と女性であることのバランスみたいなものに悩む時期に入ってきたので、ふたりがカッコイイと思った生き方を貫いてきた話を聞いたり、励ましの言葉をくださることで、すごく背中を押されています。年齢とか関係なく、ものを作っている共通点があることは、こんなにも喜ばしいことなんだなと感じています。

ソニア:一見共通点がないようでも、会うべき人ってこうやって、会うんですよね。

石内:もうひとつ大切なことが、私たちには利害関係がない。お金と関係なく会えるって、すごく大切なことだと思っている。

ソニア:私は、最近そういう人付き合いが多いかも。どんどん利害関係で人と付き合えなくなってきません? 時間がないんですよね(笑)。この前、50歳になったときに「つまらない人間と、まずいお酒に出会わないように生きていきます」っていったの(笑)。でも、マメちゃんはこれから!自分で経験していかないとね。

石内:好きなことをやることが大事。そうすると、だんだん何がしたいかが見えてきますから。私自身は何かを変えようと思って写真を続けているわけではなくて、自分のやりたいことをやっているだけ。でも、女性が仕事をしたり、表現することに対するプレッシャーが、私にもないとは言わない。世の中はなかなか変わらないから、個人同士の関係を変えていくしか、変えようがないんです。自分がちゃんとやっていれば、誰かは見ています。私以外の誰かが私を見てくれていることで、変わっていくしか方法はないと思います。


ある視点で読み解く、石内都の軌跡

黒河内:12月9日から、横浜美術館での個展「肌理と写真」がスタートしますね。今回は、どのように写真を選ばれたんですか?

石内:すべての作品を展示するのは無理なので回顧展では、ありません。「肌理」という言葉をテーマに掲げ、これまでの作品から一部を展示します。普通に「肌理」を英訳すると、「Detail(詳細)」「Surface(表面)」になると思うのですが、私のことをよく理解してくれている映画監督のリンダ・ホーグランドさんが「Grain(粒子)」と訳してくれたのがしっくりきました。すべてフィルム作品ですし。目に見えないもの、その場所がまとっている気配やそこに流れる時間を写真には収めることができると思って撮り続けてきました。そういったものが表れている肌理を撮ってきた。これまでの写真を改めて振り返り、そういった切り口で見せることができると気づきました。

展示会場には3つの部屋があって、「横浜」の部屋、「絹」の部屋、最後の大きな部屋は「無垢」「遺されたもの」と、テーマ別に作品を分けて構成しています。「横浜」には、この近辺の金沢八景を撮った最初期のシリーズ、米軍兵士の家族用住宅を撮った「Bayside Court」、アパートが一時赤線になった「yokohama 互楽荘」などを展示します。「yokohama 互楽荘」はヴィンテージプリントがたくさん見つかったので、それらを発表する予定です。また、同時開催の横浜美術館のコレクション展では、「絶唱、横須賀ストーリー」も見ることができます。ふたつ目の部屋は、天井まで7メートルもあるの。壁面を銀色に塗って、「絹」を切り口に複数のシリーズを飾ります。

© Ishiuchi Miyako 「yokohama 互楽荘 #19」 横浜 「yokohama 互楽荘」(1986-87) デビューからずっとモノクロ写真をプリントしてきた暗室のある横浜は、石内を語る重要なキーワードのひとつとして挙げられる。「横浜」の部屋に展示される本作は、「Bayside Court」とともに“屋内シリーズ”と名付けられていた。壁の染み、剥がれた壁紙、放置された家具などに焦点を当て、そこに流れる時間や気配を立ち上がらせている。

© Ishiuchi Miyako 「阿波人形浄瑠璃 #4」 絹 「阿波人形浄瑠璃」(2017) 2011年に桐生市の絹織物・銘仙を撮影して以降、「絹」は現在も撮り続けている被写体である。絹織物の肌理を画面いっぱいにとらえた「絹の夢」は、石内独自のスタイルとして広く知られる。本作は、2017年になって新たに撮影した「絹」のひとつで、徳島県に戦前より伝わる阿波人形浄瑠璃の衣裳を撮ったシリーズである。


ソニア:着物の背中に穴が開いているものもありますね。

石内:それは、最近撮影した人形浄瑠璃の着物です。人の手を入れるための穴になります。そのほかに「絹の夢」やアメリカ人ファッションデザイナーのリック・オウエンスの父親の遺品を撮ったシリーズも展示します。

ソニア:リック・オウエンスのコレクションを撮ったんですか?知りませんでした。

石内:パリからアトリエに彼のコレクションを送ってもらって撮りました。晴れた日に自然光で、35mmカメラを使って。普段はファッション写真を撮らないのですが、なぜ引き受けたかというと、リック・オウエンスのお父さんの遺品の着物があったから。今回展示するのは、その着物を撮った写真です。

黒河内:日本が好きな方だったんですか?

石内:そうではなくて、彼の父親はアメリカ人で、第二次世界大戦後に進駐軍として日本に来ていたそうです。リックが私に手紙を送ってくれたのですが、それがまさに日本とアメリカの戦後史と彼の個人史そのものだったんです。

ソニア:最後の部屋では、どのシリーズを展示するんですか?

石内:「無垢」のカテゴリーでは、小説『苦海浄土』で知られる石牟礼道子さんの手足を撮った「不知火の指」と「Innocence」を見せます。「遺されたもの」には、もちろん「Frida by Ishiuchi」と「Mother’s」も含まれます。そして最後に「ひろしま」。作品のひとつに、広島平和記念資料館に寄贈されたブラウスを撮った作品があります。遺族の方いわく、服に付着したピンク色は、被爆者の血の色だとおっしゃるんです。これから資料館に収蔵され、このブラウスはどうなっていくのかと想像してしまいますよね。私は、この写真をフォトアクリルに入れて、宝石にしてしまおうと考えています。原爆が落ちてからもう72年もたっています。このことを風化させずに、1,000年後にも伝えたいという思いを込めて。きっといろんなことを言われると思うけれど、それは覚悟して今回の個展で発表したいと考えています。

© Ishiuchi Miyako 「不知火の指 #3」 無垢「不知火の指」(2014-2016) 石内は、20年にわたり傷痕を「生の証し」として撮り続けてきた。「無垢」のカテゴリーでは、その中から女性の傷痕だけを集めた「Innocence」のほか、近作である「不知火の指」も展示する。小説家として創作活動を続ける90年の時を刻んだ手には、彼女が生きた時間の重さと不屈の精神が表れている。

© Ishiuchi Miyako 「ひろしま #99」 Donor: Hagimoto, T. 「Mother's」「Frida by Ishiuchi」に続く、遺品を被写体にしたシリーズ「ひろしま」。戦後72年経ったいまでも広島平和記念資料館に届けられる被爆者の遺品を、10年にわたって撮り続けている。今回の展示でも多くの新作が展示される予定。本文中で「宝石にする」と語っているのが、掲載のピンクに染まったブラウス。


ソニア:見る人それぞれの観点がありますからね。出すからには、批判されることもある。発表することの怖さですよね。でも、勝手に出しているわけだから、見た人も自由な意見を言っていいですよね。ものを作って発表するって、そういうことだと思います。

黒河内:もうすぐ桐生へお引っ越しされるんですよね?

石内:来年の1月に引っ越す予定です。

ソニア:なぜ桐生にしたんですか?

石内:沖縄とかハワイとかほかの場所も考えたんですけど、生まれた場所であり、両親が出会った場所である桐生にしました。母が晩年に「帰りたい」ってつぶやいていた場所も、桐生だったのかなと思って。

黒河内:ということは、この3人の女子会の次回開催地は、桐生になるんでしょうか?

石内:そうね ! ぜひ遊びに来てくださいね。

食卓を華やかに彩る、多国籍なメニュー

鎌倉野菜と逗子で獲れた魚など、地のものを使った石内都流のおもてなし。

カリフラワーとクミンのサラダ

カリフラワーとクミンのサラダ
「日本では生で食べることはあまりないから、最初はびっくりしたの」というのはカリフラワーのサラダ。自宅に遊びに来た友人が作ってくれたギリシャ料理で、それを真似して作り始めたとのこと。カリフラワーに細かく刻んだクミンをまぶし、塩とオリーブオイルをかけたら出来上がりである。コリコリした食感がくせになりそうな一品は、まさに組み合わせの妙。すぐにでも真似したくなるレシピ。

人参サラダ

人参サラダ
葉っぱもついていて、そのままかぶりついても美味しそうな採れたての鎌倉の人参。「野菜は皮にも栄養があるから」と、ほとんと皮をむかずに使っているという。味付けには、知人からもらったイタリア産の5年間熟成されたバルサミコ酢を贅沢に使用。とろりとしたリッチな味と干しぶとうの甘さで、人参の旨味とシャキッとした食感が生かされている。「なんでもシンプルなのが一番」と石内。

ピーマンの和風マリネ

ピーマンの和風マリネ
「ピーマンご飯のために大きいピーマンが欲しかったんだけど、最近は雨が多いから適当なサイズのものが少なくて。同じ袋に入っていた小さいピーマンがもったいないから、メニューを増やしたの」。生のピーマンを手で割くのがポイントで、そうすることでより味が染み込むのだそう。カツオ節を入れたお醤油に数時間漬けておき、ごま油とラー油をかけて完成。和風の味付けもお手のものだ。

タラモじゃがいも

タラモじゃがいも
「いままで食べたタラモサラダの中で一番好き」と、黒河内の箸が止まらなくなった一品。「最初はじゃがいもをつぶしていたんだけど、皮付きのまま試したら意外によくて。あと、ちょっと芯が残っているくらいの固茹でがちょうどいい」という。温かいうちにバターと玉ねぎのみじん切りを加える。白ワインに漬けて臭みをとった明太子と、日本ものに比べて酸味の少ないアメリカ産のマヨネーズを混ぜ合わせたら出来上がり。

オクラと砂肝のカレー炒め

オクラと砂肝のカレー炒め
「逗子には専門店があるから、食材の買い物によく行く」という石内は、京急逗子駅の近くにある鳥専門の精肉店で前日のうちに新鮮な砂肝を購入。当日は、前日に下処理・下ごしらえしておいた砂肝、カットしたオクラと玉ねぎを炒め、カレーパウダー、コリアンダー、ターメリックなどたくさんのスパイスを使って味付けた。香りも味もエキゾチックで、どこかへ旅したような気分になる料理は、石内の定番料理のひとつだという。

アジのなめろう

アジのなめろう
予定にはなかったけど、買い出しで新鮮なアジを見つけたので作ることに。「これは、千葉の漁師たちが船の上で食べている料理を真似しているんです。三枚にはおろすけど、小骨を抜かなくて済むから楽なのよ」という。「包丁で叩いて細かく刻んだアジに、味噌、ネギ、大葉、しょうがを加えたなめろうは、ソニアが好きな白ワインとの相性もばっちりだと思う」と、ゲストのことを想いながら作っていた。

タコとブロッコリーの炒め物

タコとブロッコリーの炒め物
石内が作る料理の国を挙げていったら、世界一周できてしまうのではないだろうか。逗子駅の目の前にある歴史ある鮮魚店「魚佐次商店」で購入したタコを使った炒め物は、ポルトガル料理だという。まずはニンニクをオリーブオイルで炒めて香りを出し、下茹でしたタコとブロッコリー、そしてアンチョビを加えてさらに炒める。以前の3人での食事会にも登場して好評だった一品は、ブルーのお皿に盛りつけられた。

ピーマンのごはん詰め

ピーマンのごはん詰め
みじん切りにした大量のパセリ、お米、完熟トマト、牛挽肉を少々(「出汁として」入れているとのこと)、アリッサ1缶、塩とオリーブ油を手で混ぜ合わせる。その後、ヘタ(最後にふたとして使う)と種を取ったピーマンの中に詰めて、底にキャベツを敷き詰めた鍋の中に隙間なく並べていく。最後に完熟トマトを少しだけ上にのせて弱火で30~40分加熱。ピーマンの色が変わったら完成のサインとのこと。

石内都|Miyako Ishiuchi
1947年、群馬県桐生市生まれ。神奈川県横須賀市で育つ。1979年に「Apartment」で女性写真家として初めて第4回木村伊兵衛写真賞を受賞。2005年、「Mother’s」で第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出される。2007年より現在まで続けられる被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」も国際的に評価され、2013年紫綬褒章受章。2014年にはハッセルブラッド国際写真賞を受賞。

ソニア・パーク
韓国生まれ、ハワイ育ち。1991年よりフリースタイリストとして活動。雑誌や広告のスタイリングのほか、自身が手がけるセレクトショップ「ARTS&SCIENCE」のオーナー兼クリエイティブディレクターも務める。『Casa BRUTUS』の連載コラム「MY MASTERPIECES」では、日本のクラフトや世界の手仕事などを中心に紹介。著書に『SONYA’S SHOPPING MANUAL』(マガジンハウス)を3冊上梓。

黒河内真衣子|Maiko Kurogouchi
2010年黒河内デザイン事務所及び、自身のブランド「mame」を立ち上げる。11年春夏からコレクションを発表。14年毎日ファッション大賞にて新人賞・資生堂奨励賞を受賞。17年FASHION PRIZE OF TOKYOを受賞。18年3月にパリにてコレクションを発表予定。現在、パリのCentre Pompidou Metzにて開催されているJapanorama. A new vision on art since 1970に14年秋冬コレクションを展示中。