石橋英之は2011年よりフランスで本格的に写真家として活動を始めた。2016年に美術作家を養成するル・フレノワ国立現代芸術スタジオ(フランス)に選出され、昨年のUNSEENではMeijburg賞を獲得し、大掛かりなコミッションワークを仕上げた。また最近ではパリ郊外のアーティスト・イン・レジデンスLa Capsuleで新作を発表するなど精力的に制作を続けている。
本展では、Galerie Thierry Bigaignonより声がかかり、石橋の代表作とも言える「PRÉSAGE」をパリで初めて発表するに至った。ギャラリーオーナーのビゲニョン氏はこの作品を通し、石橋が日々どのように写真というものを見つめ、作り出すのか、作家のコンセプチュアルなビジョンを紹介する。
携帯電話を使い始めるようになってから、私たちは毎日大量のイメージを消費するようになり、ひとつひとつのイメージを眺める時間は日に日に短くなっている。この考察に対して、石橋は、我々を取り巻くイメージが与える「見えるものの曖昧さ」と、我々がイメージや写真に対して与える意味に問いをかけるようになった。日常で私たちが目にする写真というものはイメージの断片でしかなく、そのイメージは複製され続けている。全てのイメージは我々がどこか別の場所や異なった日時に見たものの単純な投影でしかならず、またイメージや写真自体は一貫したストーリーや、定まった意味というものは持たない。複製され、反芻され意味が作られていく。
石橋は、毎朝起きたときに、夜に見た夢をドローイングで描くプロジェクトを始め、「PRÉSAGE(予兆)」と名付けた。そして、アンティークマーケットやインターネット上で、自分のプロジェクトに当てはまるイメージの宝探しに身を投じる。その見つけ出した古写真やポストカードの断片から、自らが描いたドローイングに近いイメージを探し出し、コラージュによって夢の中のストーリーを創造する過程に行き
集められたイメージは、一旦バラバラに分解され、元のイメージが本来持っている意味が失われる。新しいイメージを作るために集められた材料はモザイクのように構成される。一見すると複数のイメージで構成されていることが分からないよう、一枚絵として成り立つように、断片化された個々のイメージを精巧に組み合わせる。写真と版画の技法を組み合わせた複雑なプロセスを経て出来上がった写真を提示することにより、石橋は新たな現実を作り上げ、「イメージを見る」という私たちの行為を操作しようとしているのだ。果たして、私たちはそのイメージの中に何を見出すのだろうか?
文=糟谷恭子 Kyoko Kasuya
タイトル | 「PRÉSAGE」 |
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会期 | 2019年11月14日(木)~2020年12月21日(土) |
会場 | Galerie Thierry Bigaignon(フランス) |
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